フレンドリーマッチ2
高野先輩はボール前に高いボールを蹴りこみ、ヘディング勝負になったけど、キーパーがパンチングで味方のところにボールを飛ばす。
うん、あのキーパーやっぱり上手い。
カウンターをくり出そうとしているので素早く距離を詰めてパスコースをふさぐと、敵は速攻をあきらめてチームメイトにパスを出す。
ふう、危なかった。
みんな守備に戻っていて、パスコースをしっかり切りはじめている。
ところが、ヴェルベットはロングボールで一気に前線へとボールを送り込む。
中盤を飛ばされるときついけど、守備のために懸命に戻ろうとする。
ボールを受け取ったヴェルベットの九番が先輩をかわして十番にパスを出し、十番はダイレクトでシュートを撃つ。
シュートはバーを叩いて外れていき、十番は天を仰いだ。
いまのはやばかった。
ロングボールからの鋭い攻めを持っているんだな。
あれは先輩たちに気をつけてもらうのが一番だし、次からは予想できるから何とかしてもらうとしよう。
今度は僕らの番である。
僕にまだきついマークはついていないので、いまのうちが働くチャンスだよね。
守備で安全なパスを回してつなぎ、中盤に来たところで僕にパスが渡る。
敵の守備人数はそろっているし、スペースもないのでここはドリブルはできない。
近くにいる先輩にボールをあずけ、すぐに戻してもらう。
シュートコースは相変わらずあいているんだけど、パスコースは意外とないんだよな。
もしかしてシュートコースの消し方が甘いんじゃなくて、キーパーがそれだけ信頼されているのかな。
キーパーの動きを見るかぎり、相当な実力者に違いない。
ショートパスを刻んでいるけど、なかなか突破口が生まれなかった。
先輩たち、かなり慎重になっているな。
もう少し攻めてもいいと思うんだけど……あのキーパーの影響もあるんだろう。
目立つなとかやりすぎるなというのは理解しているが、これじゃどうしようもないと判断して僕はするすると前に出る。
気づいた七番の先輩がパスをくれたので、敵の間をすり抜ける早いゴロパスを九番の先輩に送った。
さんざん練習で送っているパスだから、先輩はきれいにトラップできる。
「出た! スルーパス!」
女子たちが黄色い声を上げた。
残念ながらペナルティーエリア内で撃った九番の先輩のシュートは、キーパーにブロックされてしまう。
うーん、いまのも止めてしまうのか……普通のキーパーなら二点くらい入っていると思うんだけどなあ。
あのキーパー本当にすごいね。
「時任、ナイスセーブ!」
ヴェルベットのチームメイトがそんな声をかける。
「見たか、時任はアンダー12東京トレセンのナンバーワンキーパーなんだぞ!」
え、マジで?
トレセンとはナショナルトレーニングセンター制度のことだ。
都道府県別に優秀な選手を集めて交流したり、トレーニングして個々のレベルアップを図るのだ。
簡単に言うと時任くんは小学生で東京ナンバーワンのキーパーになる。
「トレセンレベルの選手がいるなんてすごいなぁ」
僕が感嘆の声を漏らすと、聞いていたヴェルベットの選手が変な顔をする。
「お前だってどう見てもトレセンレベルだけどな。何で呼ばれてないんだ?」
そんなの僕に聞かれても分かるわけがないよ。
僕が選ぶわけじゃないんだし。
結局試合は〇対〇の引き分けに終わった。
有利だったのはこっちなんだけど、時任くんの壁は厚かったのだ。
「あー、引き分けかあ」
「来栖くんがもっと攻撃に参加してたら勝てたのに」
「来栖くんが今日主役になるのはまずいでしょ」
「翔くん、空気を読んだんだよね」
女子たちが残念がっている。
「いいゲームだったな」
僕らのコーチが簡単に言った後、ヴェルベット側の人が言う。
「九番と十番、十二番はよかったな」
そう言われた先輩たちふたりは喜び、他の人たちはがっかりする。
ちなみに十番とは僕のことで、高野先輩は十二番だ。
「九番と十二番はセレクションに受けに来るといい」
そう言った後、その人は僕のほうを見る。
「十番はウチに興味ないのか? 君さえよければ明日から来てもらいたいんだが」
「す、スカウトいきなりされてる」
「さすが来栖だぜ」
先輩たちはあきらめた顔で言っていた。
「来栖くん、空気を読んだのに目立ってたものね」
「まあスルーパス五本にアイデアのあるパスを何本も通してたらねぇ?」
女子たちのひそひそ声が聞こえる。
「えっと、まだ決めてません」
「そうか。まあまだ一年はあるからな。なるべく早いほうがいいと思うが、せかしても仕方ない」
ヴェルベットの人はそう言って話を終えた。
次は女子の試合なので、僕らはピッチから出てクールダウンをする。
そこで僕はキーパーの時任くんに話しかけられた。
「よお、お前来栖でいいのか?」
「あ、うん。時任くんですよね? 六年生?」
「五年だからかしこまらなくていいよ」
時任くんはなんと僕と同じ年だった。
「へえ、すごいなあ」
「お前が言うといやみに聞こえるんだが、お前にそんな気はなさそうだな」
時任くんはあきれていた。
「いや、時任くんくらいすごいキーパー、初めて見たよ。あとはプロの試合くらいかな」
「はは、さすがにプロには勝てる気がしないな。いまのところは」
時任くんはそういって笑う。




