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東京ヴェルベットとのフレンドリーマッチ

 レッスンが終わりにコーチが五、六年を集めて告げた。


「明日、東京ヴェルベットの男子チームと女子チームを招待してフレンドリーマッチをおこなう」


 マリオさんの言葉に六年生がざわめく。


「これはセレクションも兼ねているから、六年生は頑張ってくれたまえ」


 ということはいいプレーを見せたら東京のジュニアユースに入れるかもしれないのか。


「向こうの提案で男子は十一人制でやる。ひとり足りないから来栖、助っ人に入ってくれ」


「え、僕ですか?」


 びっくりしたのは僕ひとりで、六年生のお兄さんたちは当然という顔をしている。


「来栖が入るなら戦力アップだけど、あいつにスカウトの評価を全部持っていかれるんじゃないか?」

 

 不安そうな声もあったけど、六年生のリーダー格の人が笑って否定した。


「くだらない心配だよ。だってあいつは五年なんだ。俺たちとは枠がかぶっていない」


 入れる枠は学年別だもんね。

 

「そっか。じゃあ最強の助っ人だな」


 五年生が六年生にまざるのに助っ人扱いされているって考えてみれば奇妙な話だと思うんだけど、誰も否定しなかった。

 期待に応えられるように頑張ろう。


「おっと、来栖。俺たちに見せ場をくれよ」


 くぎを刺すように言われたので大きくうなずいておいた。

 先輩たちの将来がかかっているのに変なことはしないよ。

 ただ、全員がまんべんなくアピールできるように協力するは難しい気がする。


「女子は男子のゲームのあとで、七人制でおこなう。まずは見学しなさい」


「やった、来栖くんのプレーが見られるね」


 女子たちはうれしそうな声をあげる。

 僕の話題ばかりだと先輩たちの立つ瀬がないんだけど、僕が注意するのもなあ……。

 と思ったら先輩たちは明日のゲームに気をとられていて、それどころじゃないようだった。

 みんな受かればいいのにな……そんなわけにはいかないと分かってはいるんだけど、願わずにはいられない。

 

 そして次の日、午前九時半に僕らは集合してゲーム用の赤いユニフォームを着てウォーミングアップをしていると、四十五分に東京ヴェルベットのメンバーが到着した。

 全員が黒のユニフォームを着ている。

 メンバーは十五人もいるけど、沢井くんは来ていないようだ。

 六年生しかいないのかな?


「ようこそお越しくださいました」


 コーチたちがあいさつをしている脇で、先輩たちはライバル心を込めた目で東京ヴェルベットのメンバーを見ている。


「よう、坂上。今日はよろしくな」


「おう」


 坂上先輩の知り合いらしい人が話しかけてきた。

 そこで彼の視線が僕に向けられる。


「何だ、ちいせえのがいるけど、六年か?」


「そいつは五年の来栖だよ」


「五年? かわいそうに、頭数合わせか?」


 その人は感じの悪い笑い声を立てたのでちょっとムッとした。


「いや、来栖はうちのスーパーウルトラ戦力だぜ、安藤」


「そうだな。お前らは来栖にボコボコにされて泣かされるだろうな」


 他の先輩たちもそう言っている。

 僕が馬鹿にされて怒ってくれるのはうれしいんだけど、僕がヴェルベットのメンバーをボコボコにするのはまずくないですかね……。

 先輩たちがアピールする場所なんだから。

 コーチたちのほうも何だか僕のほうを見ていた。


「じゃあゲームをはじめよう。審判はこっちから出すがいいね?」


 マリオさんの言葉にうなずいて、メンバーはピッチに散っていく。

 向こうのボールでゲームは開始する。


「行くぜ!」


 僕を馬鹿にしていた安藤って人はいきなりこっちをめがけてドリブルしてきた。

 え、いきなりドリブル?

 周囲を観察してみると、他のメンバーは苦い顔をしていた。

 そうだよね、センターラインから敵を目指してドリブルって普通はやらないよね。

 またぎフェイントを使って僕の右を抜けようとしたので、さっと足を出してボールをいただく。


「安藤があっさりボールを取られた!?」


 いや、単純なフェイントだったでしょ?

 何でそんなに驚くのさ。

 と考えつつ、僕はさっそく先輩にパスを出す。

 右側に敵選手がいるよと言葉を込めてだ。

 ゆっくりとパスを回していって、敵の守備にギャップが生まれるのを待つ。

 しかし、敵もさるもので簡単には隙を見せてくれない。

 手詰まり感になりはじめていたので、こりゃ攻撃参加したほうがいいなと判断する。

 

「先輩!」


 僕がボールをもらいにいくと、先輩が右足にボールをくれた。

 どうやら左から敵が迫っているらしい。

 僕はトラップした後、ちらりと左前にいる八番の先輩を見てすぐにパスを出すことにした。

 目の前にいるふたりの頭上を越えるふわっとしたパスだ。

 そこに八番の先輩が走り込み、同じく走り出した僕にリターンパスをくれる。


「さあ、翔くんがボールを持ったよ!」


 スクールの女子たちが黄色い声をあげて応援してくれた。

 シュートコースが左右に一本ずつあいているから撃てるんだけど、それじゃ先輩たちに申し訳ない。

 右側にあいているスペースに強めのパスを出せば、そこに九番の先輩が走りこむ。

 だけどそれは相手のキーパーに読まれていたみたいで、先輩がシュートを撃とうとした時には詰められていた。

 焦って撃ったシュートはキーパーの体に当たって後方に飛んでいってラインを割り、僕らのコーナーキックになる。

 ディフェンスは正直そんなすごくないけど、あのキーパーはいいキーパーのようだ。


「コーナー、誰が蹴る?」


「普通なら来栖だけど」


 止まったボールを蹴るスキルが一番高いのは僕なんだけど、ここは先輩たちがアピールする場だ。

 二番目に上手いのは十二番をつけてる高野先輩だから、高野先輩に譲る。

 

「あれ、来栖くん蹴らないんだ?」


「翔くんがこのゲームで蹴ったらまずいでしょ」


 女子たちの声が聞こえてしまう。

 悪気はないんだろうけど、よく通るんだよね。


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