第九話「呪縛のスペック」
「さて。あらかじめルールも明細にしていなかったんやし、ここらで一つ“まいった”って言ったほうが負けってことにせんか?」
やがて顔だけ見えるようにツルで拘束された俺を、覗き込むようにしてルキノさん。
「……そうだな。なら警告しておこう。先にお前が降参しなければ、これからお前は痛い目を見ることになる。最悪死ぬかもな」
「はぁ? 何言っとるんや……ッ!?」
ルキノさんは俺が何かをするのを感づいて、大きく下がる。
そこで俺は両の掌から魔法を発動させる。
「〝ボルテージ〟ッ! う、ぉおおおおおおおお!」
俺はツルに向かってボルテージを放った。当然、俺の身もただじゃすまない。
叫び声を上げ、歯を食いしばって、何とか気絶しそうなのを堪える。
「ロニード君!」
ソフィの悲痛そうな叫び声が聞こえる。しかし駆け寄ってくる足音はない。アルマあたりが止めてくれたのだろう。
「こ、こいつ、自分ごと電気で焼くつもりなんか……!?」
今度はルキノさんの畏怖の念がこもった言葉が聞こえる。
あれ、俺ってそんなにおかしなことしたか? と思ったが、ルキノさんはこの鎧の性能を知らないんだったな。まあ、知ってても普通やろうとは思わないか。普通なら。
「……俺は勇者となって旅をして、いくつか分かったことがある」
電圧の魔法で焦げたツルを振り払い、膝をつきながらも俺は言う。
鎧に電気耐性が付与されてはいたが、今にも気絶しそうだ。
落雷に当たれば人は死ぬ。雷ほどの威力じゃないにしても、普通の人間なら死ぬであろう威力の電圧だ。
それを無理やり鎧のスペックに任せて乗り切ろうとしているのだから、気絶くらいならしてもおかしくはないと思ったのだが。
そしてふらつきながらもやっとの思いで立ち上がり、話を続ける。
「一つは俺が負けず嫌いだということ。そして二つは――」
深い深呼吸。……よし、行ける。
「――この装備が超強いことだッ!」
ここにきて作戦なんてものはない。時間を考えることに使うより、装備に身を任せたいわゆるゴリ押しをしたほうがいい時もある。
身をかがめ、地を蹴り跳躍。ルキノさんとの間合いを詰め、あともう一歩というところ。
「まいった」
「――ぇ?」
肩をすくめて言ったルキノさんに対し、俺は肩透かしを食らったかのように間抜けな声を発する。
どういうことかと思い、急ブレーキを掛けルキノさんの目の前でピタリと止まる。
不信感を拭えずにルキノさんを睨んでいると、彼は俺の首に腕を回し、耳に顔を近づけてひそひそと話し始める。
「なあ、俺が負ける代わりってわけではないんやけど……よかったら、その装備について詳しく教えてくれへんか?」
……つまり勝てないと判断したので負けを認め、代わりに俺の剣と鎧について詳しく知りたい、ってとこか。
もちろん、断る。スキルもそうだが、冒険者や俺のような勇者にとっては装備も生命線だ。教える必要性が感じられない。
「……えっと、悪いけどそれは断らせて」
「教えてくれるって、本当やな!? よし、男と男の血の契りや!」
「お、おう。血の契り……って、そうじゃねぇ! 俺はそんなこと一言も――」
「今回は俺の負けや! でもいい勝負やったな! お前ら、この偉大なる勇者に拍手をっ!」
ルキノさんが俺の手を上空に引っ張ると、観衆から喝采の嵐が起こる。
それと同時にアルマが俺のもとに駆け寄ってくる。……あれ? ソフィは? と思ったが、ソフィは投げられた銅貨などをすでに回収していた。
俺より金のほうが大事なのか……。なんかちょっと悲しいな。
「まったく、ロニって結構無茶するね。ソフィも泣きそうになってたんだからね」
「ちょ、アルマちゃん! それ言っちゃダメって言ったでしょ~!」
アルマの言葉を、お金を回収しながらも聞いていたソフィが頬を赤らめて言う。
なんだ、そうだったのか。というか、あいつも鎧の性能は知っているだろう。やはりトリ頭か。
「じゃ、俺達はこれで……」
「おおっと、勇者! 俺らの血の契り、忘れたとは言わせへんで!」
そそくさと逃げようとした俺を、ルキノさんは再度腕を掴んで引っ張っていく。
抵抗するもルキノさんの馬鹿力には敵わず、あえなくして俺は諦めた。
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「ほおー。呪い装備なぁ……」
俺達は近くの酒場にいた。ゴルレス達も一緒だ。
ここで俺達とルキノ達――さっき“さん”付けはやめろって言われた――は、情報の交換を行っていた。
「ボス、なんですかい? その呪い装備ってのは……」
ゴルレスとルキノは、言葉遣いから分かるようにルキノが上でゴルレスが部下らしい。
出会い頭に決闘を申し込んできたのも、昨日の俺とゴルレスの戦いが原因らしい。
俺の勝利……というより、ゴルレスの敗北の噂がルキノの耳まで届き、それで負けたままで引き下がれるかってことでルキノが出てきたそうだ。
俺とて目立ちたくはないのだが、昨日の今日でそれはもう無理な話になってきている。
「知らん。だが、名前からヤバいやつってのはわかる」
「あぁ、そう……」
キリッ、と効果音が出てきそうなくらいに真っ直ぐな視線でこちらを見据え、腕を組んで言うルキノ。
俺は説明するのも面倒になり、適当に返す。
「そこでだ勇者……いやロニード! いやロニード様! 防具だけでエエから、俺にその装備の性能について、詳しく教えてくれへんかなぁ?」
「俺をおだてたって何も出ないぞ」
「なんなら、俺の武器について教えてやってもええけどなぁ~」
「ぐっ……交渉上手だな、お前……」
戦闘を生業とする者にとって、装備を見ず知らずの人間に教えるのはまずありえない。
何処でその情報がまがって自分の敵や同業者に渡り、対策を取られたり盗まれたりするかわからないからだ。
よりによってこの装備が盗まれることはないだろうが、やはり自分の相棒を教えるのはいい気分がしない。
やっぱりこの申し出は断ろう。
「はい、これあげる」
俺が断ろうと口を開いた時、ソフィが一枚の紙をルキノに渡す。
あの紙は――まさか、装備を鑑定したときに書いた、装備能力が書かれた紙……!?
「はぁ!? ソフィ、お前なに勝手に渡してんだよっ! てかあげちゃダメだろ!」
「コピー取ったから大丈夫――って、ロニード君、痛いよぅ!」
そういう問題じゃねぇ! と叫びたいが、それをすると目立ってしまうので我慢する。
というか、ソフィの肩を激しく揺さぶっているせいですでに店内の客から奇異の目で見られていた。
アルマに「まあまあ、落ち着いて」と言われなければ、さらに注目の的になっていただろう。
「ほうほう……ええもん貰ったわ。じゃあ今度は俺の番やな。一回しか言わんから、よーく聞いとけよ?」
はぁ……すでに見られてしまったみたいだし、もうあれは諦めよう。
そしてルキノの武器の説明をまとめると、こんな感じだった。
ルキノの武器はリーフ。言わば“自然”だそうだ。
武器の性能としては、俺の読み通りだった。あの大きめの葉っぱを持っている限り、自然を操れるんだとか。
でもルキノの師匠はリーフなしで自然を操れるらしい。もうその人だけで魔王討伐できるんじゃないかな。
「ところで、ロニード。お前に師匠っているんか?」
「え? いないけど……なんでだ? ルキノ」
ルキノの質問にいないと答えると、ルキノは驚いた表情をする。
「お、お前……師匠から一人前って言われた俺を負かしたんやぞ? さぞ良い師を持ってるんやろうなぁと思ったら……」
「負かしたって言っても……ルキノが本気を出せば、俺くらいになら勝てるだろ。なあ、二人もそう思うだろう?」
大げさに言うルキノに対し、俺はソフィとアルマに話を振る。
二人は少し悩むと、各々結論を出す。
「あっさり勝てる、なんてことはないと思うけど。でも、うーん……引き分けくらいじゃないかな?」
「やっぱりロニード君が勝つんじゃない? だってほら、あの装備の凄さは私が一番知ってるもん!」
引き分けと俺の勝ち、か。別に謙遜しているつもりはなかったのだが、二人からの評価は俺寄りのようだった。
しかし、あれだな。装備に頼りっぱなしというのが、ちょっと癪だな。
「ま、何はともあれ。今日はいい時間やったな、ライバル!」
「……俺はいつからお前のライバルになったんだ?」
そんなことを言いつつも、内心まんざらでもなさそうに差し出された握手の手を握る。
その時、俺は思う。
こういうお伽噺のような熱い展開は嫌いじゃない、と。そして――
俺もなりたいんだろうなぁ。お伽噺のような、誰もが羨む正義の勇者に。




