第八話「ルキノ・オルトリアル」
「じゃあこれ、よろしくお願いします」
「うん、わかった。いってらっしゃい、ロニード君」
「はい、行ってきます」
出かける前に、グリーム宛の手紙をエリーさんに預ける。
内容は鑑定士は見つけたからもういいということと、装備はやはり呪われていたことだ。
きっとグリームの奴は「仲介料をとれなかった」って悔しがるだろうな。
「二人とも、準備はいいか?」
「オッケーだよ~」
「こっちも大丈夫だよ、ロニ」
ソフィとアルマの両方からの返事も受け取る。当然俺も準備は万端だ。
「よし、じゃあ行こう」
俺の合図とともに、二人も歩き出す。
ここからが俺達の旅の始まりだ。
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「といっても、今日はクエストを一つこなすだけなんでしょ?」
街を歩き始めて少ししたところで、アルマが話を振ってくる。
「最初だし、まずは簡単なのでもいいかなって」
俺が言うと、アルマは少し物足りなさそうな表情になる。
簡単なのと言ったが、あれは半分建前である。
昨日、俺が森で魔族に襲われた時だが、俺もただ突っ立っていたわけではない。クエストをこなしていたのだ。
「『サベージラビット』だっけ? 今日狩るのは」
「ああ。狩るといっても、皮をあと三枚集めるだけだけどな」
ソフィが聞いてきたので、俺も答える。さっき話した内容だがな。
まあ、慎重になることは悪いことではない。
「……それにしても、俺達じろじろと見られてないか?」
小声で二人に話を振る。
先ほどから、道行く人々が俺達のことを見ている気がするのだ。
それにはアルマが答えた。
「そりゃそうだよ。ボクはともかく、二人はゴルレス達を倒したんだから。しかもあんな道のど真ん中で」
「ア、アルマも見てたのか……はぁ」
アルマの言葉に、俺は重い溜息を吐き出す。
なんとなくそうなんじゃないかと思っていたが……情報、回るの早すぎだろ。
「どうしたの、ロニード君。嬉しくないの?」
「嬉しいもなにも……俺はあんまり目立ちたくないんだよ――」
その時、ソフィのほうを見て歩いていたせいか、人とぶつかってしまう。
「す、すみません……」
即座に謝り、下から目線で相手の顔を見る。
ぶつかってしまったのは肌の浅黒い男性で、白いローブに黒いコートと言う特徴的な外見をしていた。
髪は翡翠色のクセのある長髪で、何よりすごくイケメンだ。
イケメンというのは、大抵優しいものだ。それは何故かと言うと、勝手な持論ではあるが、心にゆとりがあるせいではないかと――
「何が目立ちたくないんや? テメェのせいで俺の顔が面目丸つぶれやボケェ! この落とし前どう取ってくれるんや、ああッ!?」
俺のイケメンに対する幻想は砕け散った。
「え、えーっと……どちら様で?」
二人に「知り合いか?」と視線を送るが、ソフィは首を横に振りアルマは肩をすくめて知らないポーズをとったので、恐る恐る尋ねる。
「俺か? 俺はルキノ・オルトリアルや! よう覚えとき!」
一応名前はちゃんと名乗れるようだ。
安心したところで、俺はルキノさんに質問をする。
「えっと……じゃあ、標準語はわかりますか?」
「なっ!? テメェ、馬鹿にしてんのか!?」
別に馬鹿にしたつもりはないのだが、俺の言葉に反応して殴りかかろうとするルキノさん。
ちょうどその時、ルキノさんの背後から男が現れる。
「ボ、ボス! もうやめましょうよ!」
茶髪の男性がルキノの下までたどり着くと、後ろから遅れて三人が現れる。
そこで俺達は驚く。何せ、俺達はこの男――いや、この四人を知っているのだから。
「それは俺がこのチビのガキに勝てないって言いたいんか? ゴルレス」
「なんだとぉ!? もっかいチビのガキって言ってみろ、ただじゃ済まさねぇぞ!」
「お、落ち着いて、ロニード君! あれは私達の鉄壁のチームワークを乱す罠だよ!」
こちらも殴りかかろうとしたところを、ソフィに羽交い絞めにされる。俺達は昨日の今日で結成されたチームなので、鉄壁のチームワークなどないのだが。
それにしても、なんなんだこの男は。ぶつかってきたのは俺のほうだが、どうやらそれだけじゃなさそうだし。
というか何故ゴルレスがここに? このルキノさんとかいう男とどういう関係なんだ?
暴れながらも思考を動かしていると、深呼吸をしてからルキノさんが大声で言う。
「――俺、ルキノ・オルトリアルは呪縛の勇者に決闘を申し込むッ!」
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はぁ。今日はよく溜息が出る。
この人はいったい何なんだ。出会い頭、決闘を申し込むなんて……。
それに呪縛の勇者ってのもよくわからない。もしかして、俺のあだ名なのか?
「……とにかく、決闘を受けたのは俺だ。二人は見ていてくれ。すぐに終わらせるよ」
冒険者同士で決闘をするには、なるべく人気の多い場所で声を上げて決闘を申し込む。
俺は勇者だから厳密には冒険者ではないのだが、大体冒険者と同じ扱いを受けることが多い。今回もそういうケースだ。
人のいる場所とは、観衆という名の審判がいる場所のほうがセオリーという意味だ。
そして決闘を受けた側が場所を指定し、準備ができ次第決闘を始める。まあ、その場で始めることがほとんどらしいが。
もちろん、申し出を断ってもいい。その場合は決闘から逃げた負け犬という評判がくっついてくるが。
要するに、俺とルキノさんを取り囲む観客の数が尋常じゃないってことだ。
「すぐに終わらせるなんて、よく軽口叩けるね。相手はゴルレス一派を束ねる男だよ? 一筋縄ではいかないと思うけど」
「それはそうだけど……そこは気合でなんとか……」
苦笑しながらアルマに答える。自分でも詰めが甘いのはわかっている。
というか今日はウサギ狩りに出てきただけで、決闘しに来たわけではないのだが。
「そもそもこんな決闘無視しちゃえばよかったのに」
「その処置をとったところで、あいつはずっと俺達にまとわりついてきそうだろ? それこそ決闘なんか目じゃないくらいの迷惑さだぜ」
ソフィがつまらなさそうに言うので、俺はその場合相手がやってきそうなことを述べる。
するとさすがのソフィも苦笑いする。
「話は終わったんか?」
「ああ。それより俺の装備は強力すぎるから、最悪お前を殺して――」
もしかして、これから戦う敵に対していちいち説明してあげないとなのか、と内心うんざりしかけていた時。
「あー、そういうのいいわ。どうせお前は俺に勝てへんやろうし、殺す気でかかってこいや」
ルキノさんが俺の言葉を遮る。人がわざわざ手加減してやろうってのに、よくわからない奴だなぁ。
そんなことを考えながら、お互い臨戦態勢に入るのだが。
「は、葉っぱ?」
「葉っぱやない。葉っぱや」
俺が剣を抜き出したのに対し、ルキノさんは懐から大きめの葉っぱを取り出す。
……ど、どっちも同じ意味の言葉だと思うのだが。
「これだけ観客がいれば、おひねりもいっぱい回収できそうだね~」
「ま、先日の件で名が上がったロニと、ゴルレスがボスと慕う人なら、こうなるのも必然かな」
ソフィは相変わらずお金のことしか考えていないようだ。
そしてアルマは気楽に言いながら、観客に紛れてリラックスしていた。くそっ、どいつもこいつも他人事だと思って……。
しばらくお互いの間合いを測る。
間合いを測りながら俺は、昨日から妙に意志に判して目立ってるな、などとぼんやり考えていた。
観客、そして俺とルキノさんの緊張が最高潮に達したとき、決闘は始まった。
「先手必勝!」
お互いが、同じタイミングで同じことを言い放つ。
俺は武器の威力が強すぎて殺してしまわないように、武器攻撃力に影響しない魔法で先手を取る。
ルキノさんのほうは……葉っぱをこちらに向けて一扇ぎする。まさか……こいつ、本当に葉っぱで戦うつもりなのか?
「魔力弾!」
剣先から魔力の弾がいくつも生み出され、一直線にルキノさんに向かって飛翔する。
魔力弾は数で押すのが基本だ。弾にひるんでいるうちに、本命の魔法を当てる。これが魔力弾の基本の使い方であり、俺のよくとる戦法だ。
しかし、ルキノさんは少々特殊だった。
「リーフ! 俺を護れ!」
「……なっ!?」
俺は自身の目を疑う。なんと何処からともなく現れた葉っぱが、魔力弾を迎撃するかのように飛んできたのだ。
魔力弾と葉っぱは相殺し、やがて消え去る。その光景に驚いていると、ルキノさんが嘲笑うかのように語りかけてくる。
「見惚れててええんか? 勇者」
「――っ!」
言われてやっと気づく。
あの葉っぱはただの葉っぱじゃない、あれはれっきとした武器だ。まずはあれから潰さねば、と。
しかしそう思った矢先に、今度は左手方向の空中に魔法陣が描かれる。
慌てて上空に回避するが、魔法陣から出てきたのは緑色をしたツルだった。
ここで俺は確信する。ルキノさんは植物を操れるのだと。
操り人形のように奇妙に動き俺を狙うツルを、剣で捌く。幸い、ツルの動きは単調だった。魔法主体の俺が捌ける程度には。
しかし、そこには大きな落とし穴があった。
「よしッ! これで勝負は振り出しにっ!?」
体が地面に引き寄せられるのを感じる。地面に叩きつけられ、小さな悲鳴が出そうになるがぐっと堪える。
今度は重力でも使ったのか? と思ったが、その疑問は足元を見ることによって解消された。
「ツル……!? 確かにすべて切り落としたはずなの――に……ッ!」
俺はまさかと思い、ルキノさんをキッと睨み付ける。
ルキノさんは俺の意を汲んだのかそうでないのかは知らないが、仕掛けを話し始める。
「人間には死角があるやろ? さっきはその見えない位置からツルを出したんや。もちろんツルの動きが単調だったのも、あえてその死角を作り出すための誘導やけどな」
なるほど、やはりそうか。
そしてもう一つ、合点のいくことがある。ルキノさんが最初に言った『殺す気で来い』という言葉だ。
(なるほど……。これは“殺す気で”行かなければ勝てないわけだ)
ツルでぐるぐる巻きにされる中、一人で納得する。というか何故ぐるぐるに巻いているんだ。寝袋みたいじゃないか。
なら、こっちだってやってやろうじゃないか。
そして俺は小声で詠唱し、魔法の展開を始めた。




