第十二話「呪縛の過去」
ちょっと短め。
結局その後、俺達は歩く気力がなかったので、近くで野営できそうな場所を探していた。
「そのゴーグルすると、何か見えるのか?」
木の幹に立ち、ゴーグルを装着してあたりを見渡すソフィに向かって言う。
現在、ソフィとアルマが開けた場所を探しており、俺は二人の荷物持ちをしている。
これは決して俺がさぼっているわけではなく、俺の装備だと木によじ登るのすら一苦労だからである。
こういう仕事は、フットワークの軽いソフィやアルマの仕事だ。
「何も見えないけど……ほら、これは私のトレードマークだから!」
「おい……そんな決めポーズ取ると、落ちるんじゃ――うわっ!」
ソフィが幹の上で決めポーズをとると、俺の予想した通りバランスを崩したソフィが落下してくる。
落下した先には俺がいた。お約束か何かのように、きれいに俺のほうに落ちてきた。
いや、当然俺がクッションになってなければ、ソフィは怪我していただろうが……まあいいか。
「……おい、いい加減どいたらどうだ」
「いや~、今ので足を痛めちゃったみたいで……」
俺の真上に乗っかっといてそれはないだろう。もう少しマシな嘘を考えろよ。
しかし、本当になんなんだコイツは。仲間になって間もないというのに、少々ベッタリされすぎな気がする。
「……っていうか、本当に近いぞソフィ。ちょっと離れてくれないか……?」
「あ、ロニード君照れてる。かわい~」
「っるせぇよ! いいから降りろ!」
「ちょっ、ロニード君、痛い! 痛いよぅ! やーめーてー!」
抵抗する女性を蹴り続ける少年の図。
普通ならお巡りさん待ったなしの案件だが、ここは森の中。いくら道から近いとはいえ、この暴行に気づく者はいないだろう。
フハハハハッ! これも計算済みよッ――
「ロニ、ソフィ。いい場所を見つけたんだけど――……」
「あ……」
アルマのことをすっかり忘れていた。
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ロニードが事情を説明すると、アルマはすぐに理解した。それでも「イチャイチャするならよそでやってよ」という言葉をロニードは受け取ることになったのだが。
そしてその日は何事もなく野営を終えた。パーティだと野営を安全にできるというのがいい利点だな、とロニードは考えていた。
ソロの時のロニードは野営道具がかさばるという理由もあり、そもそも野営とは敬遠していた。
しかしそれは一つの選択肢を潰しているわけで、あまり利口とは言えない。
そして次の日の夜も野営を行い、まずはロニードが見張りに立つことになった。
(……暇だな)
しかし、見張りにおいて暇だというのはいいことだとロニードは思う。
襲ってくる敵がいないということだからである。
「薪でも拾ってくるか」
敵の気配も察知できず、しばらくは安全だろうと判断したロニードは、焚き火用の薪でも拾ってくることにする。
あまり遠くへは行かず、なるべく近くで細い枝を拾う。
しばらくその作業を進めていると、ロニードは自分たちの野営地店より少し離れた地点に光があるのに気づく。
好奇心を抑えきれなかったロニードは、すぐに覗きに行くことにする。
「――誰かいるのか……――ッ!?」
漆黒の鎧を纏った少女だった。
しかし、ただの少女ではない。黄緑色の髪の上には、猫の耳がついていた。
つけ耳などではない、正真正銘本物の猫耳だ。
何故ロニードが少女の猫耳が本物かどうか分かったかというと、ロニードはこの人物を知っているからである。
「――ッ! 待てッ!」
ロニードは駆け出す。こちらに背を向けてどこか遠くへ歩き出す少女を追うが、走っているにもかかわらず追いつけない。
次第に走りつかれて息をつくと、周囲が森から一寸先も見えない暗黒空間へと変わる。
「おいッ! どこにいるんだよ!」
ロニードが必死に叫ぶが、返事はない。代わりに瞬きをした一瞬で周囲の景色が変化し、少女が現れる。
「寝ぼけてるの? 私なら、ちゃんとここにいるわよ」
ベッドに座る少女は言う。椅子とテーブルがあり、窓の外は明るい。少し広めの宿屋の一室のようだった。
少女の恰好は先ほどとは違い、白い私服を着ていた。ロニードも普通の服を着ており、また身長が少し縮んだようだった。
「あ、ああ……ごめん」
ロニードも少女の隣に腰を掛ける。
「ロニードって、いつも謝ってばかりよね」
「ご、ごめん……」
「それがいけないって言ってるんでしょ」
「い、いやあ……本当に申し訳ない」
ロニードは苦笑しながらも、次第に落ち着きを取り戻していった。
すると少女は猫耳を少し折り曲げながら、不安そうな様子でロニードに尋ねる。
「――私達、ずっと一緒よね……?」
「あ――ああ! 当たり前だろ! だって、俺は――」
しかし、ロニードの幻想はここで潰える。
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ぼんやりとだが、目が開く。瞼は重くはないが、軽くもない。つまり普通だ。
体もどちらかといえば軽い。しかし、なぜか体がだるい。気怠いというのだろうか。
誰かの声が聞こえるような気がするが、誰の声なんだろう。そもそも、俺は何をしていたんだ?
ソフィとアルマと野営の準備をして、テント二つ建てて……
「あ――――!」
そこで俺ははっとして、飛び上がるようにして起き上がるのだが。
「い――――――っ!」
何かすごく硬いものとぶつかった。何かと思い、痛む頭を押さえて起き上がると、そこには同じくして頭を押さえるソフィの姿があった。
「ロ、ロニード君……おはようぅ……」
「いっ……お、おはよう、ソフィ……?」
ここは……テントの中のようだった。
あれ? 俺は昨日薪を拾って、あいつに出会って……そこから先が思い出せない。
もしかしたら、薪を拾っている最中に寝てしまって、夢でも見たのだろうか。それにしてはリアルだったが……。
「ロニ? 大丈夫かい?」
テントの入り口から光とともに、アルマが入ってくる。光ってことは、もう朝なのか。
「アルマ……俺って昨日の夜、何してたっけ?」
「ああ、それならソフィが森の中で立ち尽くしているロニを見つけたから、僕が気絶させてここまで運んできたんだよ。
ほら、こういう時はぶん殴り療法ってロニがこの前言ってたじゃないか」
あ、ああ……ぶん殴り療法ね。道理で後頭部が痛むわけだ。
というか、問題はそこじゃない。立ち尽くしていた……ってことは、やはり俺は幻覚か何かでも見ていたのだろうか。
……まあ、幻覚ならそれはそれでいいんだが。
「……とにかく、ごめん。見張りできなかったこと、それから俺を連れ戻してくれたこと」
「それはいいんだけど……大丈夫、ロニード君? やっぱりルミアージュに戻る?」
二人に謝罪すると、ソフィが引き返そうかと聞いてくる。
迷う余地なんて一切ないな。少し不安はあるが、ここまで付き合ってくれた二人のためにもここは進むべきだ。
「俺は大丈夫だから。進もう、南部に」
「……わかった。じゃあ目指すはグリーンフォレストだね」
アルマは了解し、ソフィを連れてテントの外に出て行った。
しばらく俺は昨日の出来事について考えていたが、いつまでたっても結論は出なかった。
やがて昨日の出来事については考えないことにして、俺は旅支度を始めた。
これで一章は終わりです。
次回からは二章になります。




