いきなり刺されました。
俺んちは畜産業で生計を立てている。父は牧場主、俺は生まれたときから家畜が殺される場面を何度も見てきた。10を超えたときからか、家畜の解体を学び、生命を断つことに対する忌避感が薄れていったのを覚えている。
しかし、生命誕生の場にも何度も居合わせている。必死にもがいて足掻いて、やっとのことでこの地上に生い立つのだ。俺は何度も生命の素晴らしさを実感した。
だから俺は家畜の生を断つとき、「ありがとう」「いただきます」と言って刃を入れる。これが生命に対する最低限の礼儀だと、俺は知っている。
ある日、俺はトラックで砂利道を突き進んでいた。俺は未成年だ。しかし、ここらの土地は俺の親族の私有地、私有地でら未成年でも運転ができる。トラックには今日卸す肉が積まれていた。
トラックで肉をある程度まで運ぶのが今日の俺の仕事だ。しばらくトラックを運転していると、うずくまっている男を発見した。不思議な格好をしている。
「私有地のはずなんだが」
しぶしぶ俺はトラックを停め、男のもとへ駆け寄った。
「大丈夫か?おい」
男はうつむいたままぶつぶつと何かをつぶやいている。
すると突然男は跳ね上がった。そして俺に向かって何かを突きつけた。
痛い。意味がわからない。俺は刺された胸を見た。そこには丁寧に装飾された短剣が、俺の胸を穿いていた。
「え…なんで」
俺はそこに倒れ込んだ。意識が遠のく中で男が何かをつぶやいた。
「神よ…」
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目が冷めてきた。ん〜…。
目を開けるとそこには角を生やした巨大なネズミが立っていた。
「おぉ!起きた起きた。」
なんとそのネズミが話し始めたのだ。
「おはよう。起きたばかりですまないが、私の話を聞いてくれないか。」
そして少し首を動かして周りを見てみるとこの場所が城のような場所だということがわかった。さらに目を下に向けると、そこには数多くの何かがいた。角の生えた人?、トカゲのような人?、黒い翼を生やした人?ここは魔界か何かなのか?
考えているとネズミが話を再開した。話が長いので、重要なところだけピックアップしようと思う。
「私の名前は魔王ディアブロ。そしてここは魔王城だ。現在、我が国は危機に瀕している」
「邪神が人類領に進行し、それをすべて我が魔王軍が行ったよう仕立て上げたのだ。」
「邪神は人類と我が魔王軍の共倒れを狙っている」
「しかし人類領側の神々が一気に畳み掛けるべくして勇者を召喚した、これは非常に不味いことだ。」
「我が魔王軍は圧倒的な勇者の力により八割方壊滅、もうあとがない。」
「そこで我が魔王軍は勇者に対抗すべくして君を呼び寄せた。召喚時に君を斬りつけさせたことは本当にすまない。勇者と同じように召喚しては、別の神々に悟られる可能性があったので、肉体と魂を個々に別のルートを辿って呼びよさせていただいた。」
なるほど…。これが流行りの異世界転移ってやつか…。俺んちにも一応ど田舎ではあったが、インターネット環境はあった。そして何度か読んだこともある。ぶっちゃけ悪くない…斬られなかったらな!!
「どうか…勇者を追い払うのに協力してもらえないだろうか」
ネズミの王様…ディアブロは頭を下げた。俺は一つ確認したいことがある。
「俺に勇者を倒すような力があるとは思えません」
するとディアブロは目を見開いて話し始めたのだ。
「そんなことはない!断じて!! 君たち転移者が強い理由はなんだと思う? それは転移時に通る通り道には数多いた生命の残りカスが散らばっているからだ! 君たちはかつての英雄や…稀に死んでいった神々の力を吸収しながらこの世界にやってくる! ハッキリ言おう!君たちは強い!」
…そう言われても実感できない。
「その力を確認することはできますか」
「出来るッ! 来いッゲルドン!」
ディアブロが叫ぶとボロボロの革のマスクを被った小柄な男が前に出てきた。
「ハッ!魔王さま。」
「こいつは人のスキルを見ることが出来るスキル『スキルチェッカー』を持っている。本当はステータスを丸々見れるスキルを持った奴もいるのだが…何分最前線に出ていてこの場にはいないのだ。すまない。」
なるほど。
「よし!ゲルドン!こいつ…ふむ。すまない、名前を聞くのを忘れていた。名前を教えてくれないか」
なんか今更だな…
「俺の名前は…シンジです。」
「そうか…よしゲルドン!シンジのスキルを見れやれ!」
「承知!」
『破壊神』『暗黒帝』
「ななな…!!」
「どうしたゲルドン?」
ゲルドンはディアブロのスキルを話した。
「なんと…あの伝説の破壊神の…。」
ディアブロは驚きのあまりか、何も話してくれない。するとこの部屋の扉が勢い良く開かれた。
「報告しますッ!勇者が魔王城に到達しましたっ!」
「何ッ!」
展開早すぎるだろう…。