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エピローグ 地獄の終わり

これでラストです

 私立羽亜玲(はあれ)学院 。伝統と格式高いこの学園に通うのは、名門の筋や素封家の子弟ばかり。そんなエリート達が集う白い豪奢な校舎の一角に、その花園は存在した。


「今日はいい天気ですね、透君」


「そうだな、馨」


   ここは、花咲き乱れ春の風が吹き抜ける裏庭。青々とした芝生の上には、茅色の制服を纏った1組の男女が並んで腰を下ろしている。揃って見目麗しい美男美女、仲良く笑い合うその姿はお伽噺の王子様とお姫さまのよう。額を付けて売り出したらさぞかし高く売れるだろう。




 ……




 自分で言っていてなんだか虚しくなってきた。


「はぁ……」


 俺は大きなため息を吐いた。


「どうしたんですか、透君。なんだか疲れた顔しているようだけれど」


 馨が上目遣いでこちらを見つめている。最高に可愛いらしいが、コイツの股間に凶悪なモノがぶら下がっているのを忘れてはいけない。


「いやまぁ、やっぱり色々大変でさ」


「あぁー、そうですよねぇ」


  俺たちが付き合うことにより、ハーレムは崩壊した。1人を選ぶということは、即ちハーレムを全否定することである。ハーレムメンバー達は嘆き悲しみ、皆ハーレムを去っていった……。

  しかしそれで、ハイ終わりとならないのがハーレムだ。好きな相手ならば、やはり簡単には諦めきれないわけで。それに恋愛にルールなどは存在しない。むしろハーレムというルールが消え、無法地帯と化していた。


「なんだか前より女の子達が積極的になった気がする」


「同感です。さっきなんて無理矢理キスされそうになりました。本当にキモいです。マジで吐きそうでした」


  しかし心配は無用である。俺は女で、馨は男。いくら同性が誘惑したところで心が揺らぐことはない。


  ーーしかし。


「む、無理矢理チューだと! 実にけしからん、一体誰から?」


「西住君ですけど……」


「羨ましい!」


「ちょっ、そこは嫉妬するところでしょう。もう、本当にデリカシーがありませんよね」


  それがもし、異性からの誘惑であれば話は別だーー。まあ、多分絶対ありえないけど。


「いじわるな透さんなんてもう知りません」


  馨は頰をぷくっと膨らませ、そっぽを向いてしまった。しまった、からかいすぎたか。


「機嫌直してくれよ。いいものを見せるからさ」


「いいもの? まさか、オッパ……」


「言っておくけど、オッパイじゃないからな」


  あからさまにしゅんとする馨。可愛い顔して結構スケベだから、たまに反応に困る。


「ほら、これ作ってきたんだ」


  俺は持って来た風呂敷包みを開けた。中から出てきたのは二段重ねの大きなお重だ。


「え、ええ〜〜。これってもしかして……」


「開けていいぜ」


「それじゃあ遠慮なく」


  馨がお重の蓋をゆっくりと、慎重に開ける。その姿はプレゼントを貰った小さい子供みたいで、俺の頰が自然と緩む。


「わぁ〜、素敵なお弁当ですねぇ。卵焼きに、タコさんウィンナー、あっハンバーグもありますね! これ絶対美味しいやつですよ〜」


「下の段はおにぎりだ。たくさん作ってきたから、一緒に食べよう」


「わーい、いただきます」


  しかし寸でのところで、馨の箸が止まる。


「ん、どうした? なんか嫌いなものでも入っていたか?」


「い、いえ。そうじゃなくて……私、男の人のつくるお弁当を食べるのが夢だったんですよ。だから、その、ありがとうございます」


   満面の笑みを浮かべる馨。その笑顔は最高に可愛くて、俺の心臓は早鐘を打ちはじめた。気恥ずかしくなった俺は彼女から目線を逸して、鼻の頭を掻く。

 

「お礼なんていらないよ……。その、俺も自分の作ったお弁当を女の子に食べてもらうのが夢だったから……」


 その瞬間、俺たちが『世界一お似合いのカップル』だということに改めて気が付いた。可笑しくなって顔を合わせてケラケラと笑い合う。久しぶりに過ごす穏やかな昼休み。お腹も、心も、もう一杯で。好きな人と食べる食事というのはなんと楽しいことだろう。




 こうして俺は、いや俺たちは地獄から解放されたのだった。


 《完》

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

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