第1話 どうしてこうなった
物語を完結させる、といことを意識しているので短いです。全6話です。あとこんなタイトルですが、百合展開はありません。本作品は誰がなんと言おうと純愛作品です。
私立羽亜玲学院 。伝統と格式高いこの学園に通うのは、名門の筋や素封家の子弟ばかり。そんなエリート達が集う白い豪奢な校舎の一角に、その花園は存在した。
「あら、あなたのお弁当美味しそうですわね」
「ふふ、そうでしょ。今日5時に起きて作ったんだから」
「へえ、どうりで気合いが入っているわけだ」
まるで小鳥のさえずりのような甲高い話し声達。ここは花咲き乱れ春の風が吹き抜ける裏庭。青々とした芝生の上には、茅色のセーラー服を身に纏った少女達が円陣を組み座っている。人数は1、2、3……12人か。皆揃いも揃って見目麗しい美少女で、その種類も多種多様。スポーツ少女、お嬢様、ロリ、眼鏡っ娘、ハーフ……。そんな彼女達が弁当を広げ、楽しそうに笑い合う姿はまるで美しい絵画のよう。額を付けて売り出したら、さぞかし高く売れるだろう。
しかし1つの疑問が生じる。彼女達はなぜこんな場所で群れているのだろうか? 見たところ学年はバラバラ、気が合うということもなさそうだ。きっと初見の人は何の集まりか分からないだろう。だが彼女達には大きな共通点が存在していた。それはこの俺ーー白鳥透のことが『好き』であるという点だ。そう、つまり彼女達は俺の『ハーレムメンバー』なんだ。と、言うか昨日まで11人だったよね? なんで1人増えてるんだよ。
「はぁ……」
美少女円陣の中心に強制的に座らされた俺は、大きなため息を吐いた。全く、どうしてこうなった。えっ、ナニ? 美少女に囲まれて羨ましい?リア充 爆発しろ?
いやいやいや、すげー面倒臭いから!一見ユルそうに見えるこのハーレム、薄氷の上にあるの? って位絶妙なバランスで成り立っているんだぞ。少しでもバランスが崩れると、それこそ冷たい水底に沈んじゃうんだからな!だから俺はこの子達といる時は細心の注意をしなくちゃいけない。逃げ出したい気持ちは山々だけど、四方八方を美少女に囲まれているからそれは不可能。もうマジで泣きたいよ。
「透様、どうしました? 先ほどから全くお食事が進んでいないようですが」
俺の目の前に座っている少女、櫻子さんが俺を心配そうに見つめている。腰まで伸びる茶色掛かった髪の毛はふわふわとカールしていて、瞳はぱっちり大きくて。もちろんスタイルも抜群、胸は大きくウェストはキュッと細い。この12人の美少女のなかでも一際目を引く、正真正銘の美少女だ。
ハッ、しまった! 俺はすぐに笑顔を作る。
「なんでもないよ」
「いえ、でも顔色が悪いですわ」
櫻子さんが俺にずいと接近する。顔は互いの吐息がかかるほど近くて、俺の右腕には何か柔らかい感触が。うん、これ完全に当ててに来ているよね。そういうサービスはマジいらないから。ほらほら、みんな君をすごい怖い顔で睨みつけてるよ。空気読もうか。
「ほ、本当に大丈夫だから」
「少し休んだ方が良いのではないでしょうか?そうですわ、私が膝枕をしましょう」
櫻子さんは正座になると、自分の膝をポンポンと叩く。そこらかしこから舌打ちの音が上がるが、素知らぬ顔。マジかよコイツ、ハート強すぎるだろ。
「イヤイヤ、そういうのいいから」
「遠慮なさらずに。さ、どうぞ」
「!!」
櫻子さんは俺の頭をガッと掴むと、そのまま無理矢理自分の膝の上に乗せた。逃れようともがくが櫻子さんの腕の力は強く、びくともしない。なにこの子、実は美少女の皮を被ったゴリラなの?
「櫻子さん! いくら序列1位の貴方とは言え、透君を独り占めするのはズルいんじゃない?」
「そうよ。『みんな仲良く平等に』が私たちのルールでしょ」
「和を乱すのはやめなさいよ」
ハーレムメンバーから激しいブーイングが起きる。よかった、これで開放される。ん、今『序列1位』とか言った? 初耳なんだけど、何それ。なんかドロドロしそうだからそういうのマジでやめてね。
「あらあら、そうでしたね。それではルール通り『平等』にみなさん全員が膝枕してあげるというのはどうでしょうか?」
は? 何言ってるんだこの女は! そんな事を言ったら……。
「なるほど、それはいい考えね」
「ふふ、透さんに膝枕……」
残り11人の瞳がキラーンと怪しく輝く。はい、終わった。次の瞬間には美少女達が、まるで砂糖を求めるアリの如く俺に群がりはじめーー。ああ、どうやら今日のお昼休みもまともに食事をとることもできなそうだ。
え、苦労アピールマジうざい? 内心は美少女のふとももを堪能してニヤニヤしているんだろ?
そういう風に思われているなら心外だ。はっきり言おう。実は俺、女の子に全く興味がないんだ。言っておくけどホモじゃないからな。俺は正常だ。正常じゃないのは、俺のこの格好。髪はベリーショートに切り揃え、胸はサラシで潰し、男じゃないのに学ランを着ている。
ここまで言えばわかると思うけどこの俺、白鳥透は女である。いわゆる男装女子ってヤツだ。
なんでこんなことしていのかって? それは俺の出生に秘密がある。糞田舎の名家で跡取りは男子以外認めない、そんな男尊女卑な家に生まれてしまったのが運の尽き。男児が生まれなかったその責任は7人姉妹の末妹、つまりこの俺が負うことになってしまったんだ。まさか男として育てられるとはね。全く、俺の一族は狂っている。
普通なら性別を偽るなんて無理な話なんだが、不幸なことに俺の男装は完璧だった。170センチを超える高身長に、彫りの深い顔立ち。クソ親父による血のにじむ訓練のおかげで、話し方や立ち振る舞いは完全に男そのもの。今まで生きてきた16年間女だとバレるどころか、疑われたことさえもないくらいだ。
しかし『完璧な男』を演じているが故に、俺は女の子にモテモテになってしまった。百合趣味があればまだ良かったんだけど、普通に男の人が好きだった。いくら見た目を取り繕ろっても、心までは偽れない。俺は少女漫画や乙女ゲーに憧れる普通の女の子なんだ。同性から向けられる好意なんて苦痛以外の何物でもない。だから曖昧な態度や難聴なフリで誤魔化してきたんだけど、ふと気が付くと巨大なハーレムが形成されていたというわけ。もはや俺の学園生活は地獄以外のなにものでもない……。
ああ、本当にどうしてこうなった。