住民取扱課勇者派遣係
※作者はハーレム、転生、召喚をよく理解していません。すいません……。
僕がここに転生してきてから、もう一年──。
「クロマ、住民表纏め終わった?」
「あ、はい、終わりました──」
「じゃあこっちに書類渡して」
「はい──」
僕はここ『ニャロラ』という異世界の、住民取扱課で働いている──現実で言う市役所みたいなものだ。
個人写真とその人の素性などが書かれたプリントを纏めたりと、住民の管理をしている。
ただ一つ違うのは……
「ちょっとルマ! 最重要項目見たの?! 書いてあるでしょ!? 『これから待ち受ける困難に果敢に立ち向かう勇気を持つ男』って! ちゃんと目通しなさいよ!」
「え〜? 見ましたよぉ」
「じゃあ何で、こんなヒョロヒョロもやしみたいな男を推薦してるわけ? これこそちゃんと見てない証拠じゃない!」
「すいませ〜ん、次からは気をつけまーす」
彼女たちの話の通り、ここは勇者の派遣先を決めている所でもある……。
住民取扱課の中でも、勇者派遣係も含まれているのだ──。
「あんたねえ──!!」
「まあまあ。落ち着いてください、カノンさん。頭に血がのぼるのはよくないですよ。ルマちゃんも、ちゃんとプリントに目通さなきゃ。ね?」
「くっ──はぁ……。そうね……ミヨの言う通りやめましょう」
「はーい。カノンさん、ゴメンナサーイ」
彼女たちは、勇者派遣係のメンバーだ。
僕を含め、計四人──。
「はぁ……。で、クロマ今日の分の仕分け終わった?」
「あ、はい。終わりました──」
と僕は纏め終わったばかりの勇者派遣表を、ここのリーダーで最年長のカノンさんに渡す。歳は確か僕より一つ上で、二十六だったはずだ。
カノンさんは、ん。と受け取って、表を見ていく。
カノンさんは、スラリとした体つきをしていて、出るところは出ている。そんな体系をしている。髪の毛は夕陽が沈んだ後の空のような、濃い青色をしている。そして艶もあり、さらりと背中まで流している。顔も整っており、美人だ。
「まあ、いいだろう──どうした? 私の顔に何か付いてるか?」
「え、あ、いや、何も付いてないです。ただ、カノンさんが美じ──ぶふっ」
「セクハラか?! パワハラか?!」
「ち、違いますよ……てか、なんで打つんですか……っ」
叩かれた頬を押さえながら、僕はカノンさんを見る。
カノンさんは、若干手が出る癖がある……。あとは仕事熱心で常に冷静で尊敬できるのに──。
「クロマくん、大丈夫? はい、タオル」
「あ、ありがとうございます──」
僕は濡れたタオルを持ってきてくれたミヨさんにお礼を言って、タオルを頬に当てる。冷たくて気持ちいい。
ミヨさんは、ここの副リーダーで、歳は僕と同じ二十五だと聞いた。
ミヨさんも出るところは出ている。カノンさんよりはふっくらしていて、顔もちょっとだけ丸めだ。茶色のフレーム眼鏡が印象的で、似合っている。癒し系だろう。
髪は僕と同じく黒い。でも艶があり、ゆったりと耳の下で三つ編みをしている。カノンさんよりは短い──。
「カノンさんの悪い癖は、最後まで聞かないで判断しちゃうことですよ」
「う……、すまない……」
とカノンさんがミヨさんに肩をポンと叩かれ、頭を下げてくる。
僕は空いてる方の手を振って、苦笑いした。
「大丈夫ですよ。もう慣れました──」
初めこそは痛いし驚いたりとあったが、もう一年だ。嫌でも慣れてしまう。
「そんなこと言って、カノンさんが恐いから、下手に出てるんじゃないですかぁ?」
「そんなことないよ」
「ホントに〜?」
とルマが怪しいと顔を近付けてくる。
僕はそれを押し返した。
ルマは僕より一つ歳が下だが、先に居たので先輩だ。
茶髪のセミロングは、毛先がクルンッと丸まっている。くりくりした目が特徴的で、可愛い系に分類されるだろう。体系は……まあ、カノンさんやミヨさんには及ばない、とでも言えばいいだろうか──。
「クロマくんは優しいからね」
「いやいや、ミヨさんみたいな気遣い出来ませんし……」
「いや、クロマさんは優しいよ。だってあたしの分少しやってくれたもん」
「は……?」
カノンさんの顔が曇った。
ルマも、しまった。という顔になる。
僕は昨日、少し手伝ってほしいと言われ、手伝ったのだ。
「ルマ、あんた自分の分の仕事も出来ないで、給料貰えると思ってるの?」
「少しだけですよぉ。ね、クロマさん」
「うん、まあ……」
「ほらあ、そんなに怒らなくても」
「ルマ!」
「ごめんなさい〜」
ルマは母親に怒られたように小さくなると、そそくさと自分の席に戻っていく。
カノンさんは、そんなルマの後について行った。
きっと見張る気なんだろう。
「カノンさん、しっかり者でしょ?」
ふふふ、とミヨさんは口に手をやって笑う。
「そうですね、リーダーって感じです」
「でしょう? ……そういえば、クロマくんもう仕事に慣れた? 前は召喚されてビックリしてたけど」
「あぁ……はい、慣れました──」
僕は、ここに一回召喚されたのだ。
まだ現実世界でサラリーマンをしていた時、朝会社に向かっていたら急にまばゆい光に包まれ、気づいたらここに来ていた。
「あの時は人手不足でね。特別に召喚したの──でもクロマくん、素人のわりによく働いてくれて助かったよ。もちろん、今の方が何倍も働いてくれて助かってるけど」
とミヨさんは微笑む。えくぼが二つ、きれいに出来た。
僕も笑って、お礼を言う。
「そう言ってもらえると、嬉しいです。ありがとうございます──」
召喚されて数日後、休日にドライブをしていた時、反対車線から来ていた大型トラックと正面衝突し、僕は死んだ。
相手の居眠り運転が原因だった。夜通し走っていて、天気が良かったこともあり、うとうとしてしまったらしい。それで、ハンドルを誤り……そんな具合だ。
そして、神様がキミはまだ死ぬ運命ではない──というように転生した先が、ここだった。
「……おい──クロマ、飲みに行くぞ。ルマの仕事が終わった」
カノンさんの声で、僕は我に返った。
いつの間にか、隣に居たミヨさんはいなくなっていた。
「ミヨか? ミヨとルマは、もう先に行ったぞ」
僕がきょとんとしていたのにカノンさんは気づいたのか、親指でドアを示した。
「……あ、はい──今行きます」
僕は鞄を手に取ると、カノンさんの後を追った。
*
「だぁ〜かぁ〜らぁ〜、ルマが色目使うから、うちの課には男が入らねんだよぉ〜」
「そんなことないですぅ〜、カノンさんが男前すぎるから、男性は自分の立場がないんですぅ〜」
居酒屋に連れて行ってもらい、約三時間……。
カノンさんとルマが完全に酔っています……。
「フフフ〜、クロマくん飲んでる? もっと飲んで良いのよ〜」
顔を赤らめて、ミヨさんがお酒を継ぎ足してくる。
「ありがとうございます──ミヨさん大丈夫ですか? 結構酔って……」
「クロマくん……」
ミヨさんが、こてんと頭を肩につけてきた。
そして、体も密着させてくるので、左腕にミヨさんの胸が当たる。
「み、ミヨさん……?」
「……スー……、……スー……」
寝ている……。
「あー、ミヨがクロマにくっついてるぅ〜、私も〜」
「えっ? ちょ、カノンさん──?!」
カノンさんは右側から腕を取り、ぎゅっと抱きしめてくる。
もちろん、腕にはカノンさんの胸が当たっている……。
「ふはははは、柔らかいだろ〜」
「カノンさん!」
完璧に酔っ払いのノリだ。普段からは想像出来ないくらいに、キャラが崩壊している──。
「あ〜、あたしもあたしもぉ〜。仲間外れなんてさせないんだからぁ」
とルマは後ろから抱きついてくる。
ふわりと、柑橘系の香水が鼻を掠めた。
他から見たら、きっと羨ましがるかもしれないが、僕はそうでもない。
はっきり言って、鬱陶しいだけだ。
「ちょっと、三人とも……」
「クロマぁ」
「……はい?」
「これからも、頑張ろうなぁ〜」
「……、もちろんです。しっかりやらせていただきます」
「よく言った! それでこそ男だ!」
とカノンさんはふにゃっと笑った。
それからカクンと前のめりになったかと思うと、そのまま動かなくなった。
後ろにいるルマも、いつの間にか右肩に頭が下がってきていて、寝息を立てている……。どんだけ器用なんだ……!
「ん……あれ……?」
少しすると、ミヨさんが目を覚ました。
それから、現状を理解したのか慌てて謝ってくる。
「ごめんね、ごめんね! ほんとごめん。酔うと記憶なくなるんだ……大丈夫だった? わたし、変なことしなかった?」
あまりにも焦っているので、さっきのことは黙っておくことにした。
「大丈夫ですよ──」
「……じゃあ、ルマちゃんとカノンさんどかすね──!」
重いでしょ、とミヨさんは二人をどかしてくれた。
身体が重さから解放されて、自由になった感じがする。大袈裟かもしれないけど。
「なんか……、まだ来て一年ですけど、歓迎してもらえてるんですかね」
「もちろん──歓迎してなかったら、飲みになんて誘われないよ」
とミヨさんはこれでよし、と二人を床座に寝かせて言った。
「そうですかね……」
「そうよ。ま、地道に今まで通り頑張りましょう──」
とミヨさんは隣に座って、お酒の入ったコップを持った。
僕も何となく、コップを持つ。
そしてコップをカツンと合わせると、ミヨさんが笑った。
「クロマくんのこれからの活躍に、かんぱい」
「……かんぱい──」
僕は苦笑いしながら、コップを煽った。
喉にお酒が流れていくのを感じながら、これからも頑張ろう──と漠然と思った──
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