雨濡少女
学校から帰るのが面倒で、私は机に向かって大きなため息を吐く。
別段雨が嫌いなわけじゃ無いのだ。
言えば、私は雨が大好きで雨が降ると決まって濡れて帰っていた。
何故帰るのが面倒なのかと言うと、話は戻るが、ある日いつも通り雨に濡れて帰った時、母が玄関に仁王立ちで立っていて……。
「いつもいつも、雨が降った時に濡れて帰って来て!どれだけ後始末が大変だと思ってるの!傘を持って行った意味が無いじゃ無い!」
とまぁ、怒られた訳だ。なかなか怒ることの無い母が怒ったのもあって、私は母に仕事が無く家にいる時は、傘をさして帰るようにしたのだ。
そして、今日は雨が降っているのに母が家にいる……。
「あぁ、憂鬱だぁ……。」
私はまたため息をついて机から立ち上がり、窓に近付いて外を見る。
大粒の雨はあちこちにぶつかり、大きな音を立てながら地面にある水と合わさってゆく……。
何千回も何万回も続くその光景は、私の身体を震え上がらせた。
「いいなぁ……。」
私も雨の様になりないなんて考えるが、それを思うたびに寂しさと虚しさが心の底から溢れてくる。
……まぁ言えば、結局一人は嫌だと言う事だ。
「矛盾してるし……。」
私は何だかおかしくなって苦笑した。
それでも雨は羨ましくて、私はいつでも雨に憧れてしまう。けれど私が最後に望むのは、雨になることでは無くて、雨に濡れる事なのだ。
私は窓を開けて思いっきり手を伸ばした。
私の手のひらに腕に、大粒の雨が強く当たってくる。痛くはない。むしろ心地良い。
「やっぱり、濡れて帰りたいよね……。」
怒られたって気にしなければいいじゃないか。これは私の好きな事なのだ。母さんが大変な目に遭うのなんて、私には関係ない。私がしたい事をするのだ。
私は大きく頷いて、手を教室内に戻し窓の鍵を閉めてカバンを肩に掛け、走って校舎を出た。
雨の音が一段と大きく聞こえる。
そんな音も私には心地良くて、心が躍る。
この感覚は本当に久し振りで、私はいつもよりも大はしゃぎしてしまう。
家に着けば、母さんが玄関でバスタオルを持って待っていた。
「ただいま。」
「あんたねぇ、何度言ったら分かるのかしら。……はぁ、注意してた私が馬鹿だったわ。あんたのその癖は一生治らないわね。そろそろやるだろうと思って待ってて良かったわ。……お帰り。」
母さんは苦笑しながら、呆れ顔でバスタオルを私に差し出してきた。
「えっ、怒らないの?」
「怒るも何も、もう諦めてるわ。あなたらしいもの。仕方がないわ。……その代わり、私の手伝いもしてね?」
「うん!ありがとう、母さん!」
「いえいえ、どういたしまして。」
私は心の底から嬉しくって、母さんにバスタオルを頭から被った状態で抱きついた。
その後母さんに、濡れたじゃないなんて怒られたが、私はそんな事気にならなかった。
明日も雨が降ればいいのにな……。
なんて願っていたから。
誤字、脱字、感想などあれば、コメントよろしくお願いします。