とりあえず、入隊?
「お前うちの部隊に入らないか?」
「…………はい?」
突如肩を掴まれ満面の笑みで迫ってきた女性に琥珀は混乱していた。
(なんなんだこの人は、なぜいきなり肩を掴まれた ?部隊にってなんのこと?さっきの人投げたよな、あの人ほったらかしでいいのか?ここの女の人って全部こうなのか?それともともあれか、噂のバグで挨拶と言うやつか?て言うかなにその満面の笑み!見るからに頷いてくれるのを確信しているような笑顔!断れないじゃん!断ったらいけないような空気じゃん!どうすんの!どうすればいいの!?)
…………琥珀は混乱していた。
「ハイハイそこまで、この子混乱してるから。」
突如隣から声がした。
見てみると女の子が立っていた。
「おっと!すまない!まずは自己紹介からだな!」
肩を掴んでいた手を離し自己紹介を初めた。
「私は、第113隊隊長ミレーナ・ミラーノだ!そしてこっちは、「113隊整備士兼トラップ担当のアンナ・タルナートだよ~♪」
ミレーナの言葉を際切ってアンナが答えた。
「そして向こうで倒れているのが、バカだ。」
ミレーナが倒れている男を指差して言った。
「えっと、ミレーナさんと、アンナさんと、バカさんですね。」
「いやいや!違うからな!それ本名じゃないからな!」
「えっ!ミレーナさん本名じゃないんですか?」
「違ーよ!いや、違わなくないが。間違っているのは俺の名前だ!」
「そうだよ♪あいつは変態さんだよ♪」
「違う!そしてお前何で引いた!」
「いや、だって知り合いから変態に気を付けろと……なるほど貴方のことですか………」
「違う!俺の名前は、ブレット・マーツだ!」
「とにかくだ!うちの部隊に入らないか!?」
ミレーナが再度同じ質問をしてきた。
「あの~、とりあえず、その『部隊』について教えてくれませんか?」
「ん?なんだ知らないのか?この学園では、多くの部隊に別れているのだぞ?学園の説明書にも書いてあっただろう?」
「あ~、あの分厚いのですか。」
「うむ。それだ。とにかく、その多くある部隊の一つとでも思ってくれ!それでは、もう一度聞こう、うちの部隊に入らないか?」
(特に決めたところもないしここでいいかな?)
そのように考えた時だった。
「そんな弱小部隊に入るくらいならうちの部隊に入った方がいいぞ!」
いきなり大きな声がした。
「ヤクーニン。こいつは、私達が最初に目をつけたんだぞ!」
「最終的にどこに入るか決めるのはそこのボーヤだそ?」
「っく!確かにそうだが。」
「ほら、どいたどいた!邪魔なんだよ!弱小部隊が!そんなとこでバカやっていると学園の名前に傷がつくだろ!」
「なんだと!」
「ふん。」
ヤクーニンと呼ばれた男は、三人を後ろに従えてこちらへ歩いてきた。
「よう!俺はヤクーニン・ヤグージンだ!あんな弱小部隊に入るよりうちの部隊に入った方がよっぽどいいぞ?あの部隊よりも勝ち数が多い分、良い武器を持っているし設備も良い。考えるまでも無いだろ?」
「いや、でも」
琥珀はちらりとミレーナの方を見た。ミレーナはうつむいて悔しそうに拳を握りしめていた。
「なーに!嫌なら入った後から抜ければ良いだけさ!気軽に入ってみろよ!」
「何が気軽にだ!そうやって甘い言葉で誘って入った奴は誰も抜けないようにしているのだろう!」
「なにいっているんだ?それは入った奴がうちの部隊を気に入っただけだろう?勝手に被害妄想を押し付けないでほしいな!」
「貴様!」
「あんな奴は、気にせず入ってみな!」
「いや、でも入りかたわからないんですけど……」
「簡単なことだ!学生証をもらっているだろ?」
「学生証?………これのことですか?」
琥珀はポケットの中から四角いカードを取り出した。
「そうそう!それだよ!それを。」
ヤクーニンが琥珀から学生証を奪い取り
「この機械にさしこめば………」
そこでヤクーニンの動きが止まった。
「どっ、どうしたんですか?」
「……くっ、くくっ!」
「あの?」
「くっははははは!!」
ヤクーニンがいきなり笑いだした。
「?」
ヤクーニン以外のものたちは笑いだしたヤクーニンを理解できないでいた。
「あの?ヤクーニンさん?」
取り巻きの一人がヤクーニンに話しかける。
「ははははは!さすがは、弱小部隊が目をつけただけあるな!いいさ!こいつは、お前らにくれてやる!ははははは!」
「なっ!どういう心がわりだ!」
「ホラよ!」
ヤクーニンはミレーナに学生証を投げた。
「これは……」
ミレーナは学生証を見て固まった。
「じゃあな!弱小部隊諸君!せいぜい弱い者同士頑張りな!」
ヤクーニンは立ち去ろうとしてふと立ち止まった。
「そうそう、次の試合は俺達の部隊とお前たちの部隊らしいぞ!せいぜいその時までに新人を鍛えときな!と言っても五日後なんだけどな!」
ヤクーニンたちは今度こそ立ち去った。
琥珀は、学生証を見つめているミレーナの元へ駆け寄った。
「あの~?ミレーナさん?どうしたんですか?」
「峡嶺琥珀と言うんだな。」
弱々しい声で聞いてきた。
「あっ。はいそうです。」
「お前は、個人ランクを知っているか?」
「えっと、上から、SS、S、A、B、C、D、Eってなっているやつですよね?それが?」
「お前自分のランク知っているか?」
「いえ、知りません」
「お前はEランクなんだぞ!」
突然ミレーナが大声をあげて琥珀の肩を掴んだ。
「わかっているのか!Eランクなんだぞ!Eランク!一番弱い者の証だ!よくこの学園に入れたな!」
ミレーナは琥珀を激しく揺する。
「うわー!ストップ!ストップ!ミーちゃん!最後の希望だから!大事な新入隊員だから!」
ミレーナをアンナが止めに入った。ブレットは、遠くからやれやれといった感じでやり取りを見ていた。琥珀は、薄れ行く意識の中で何か忘れているような気がしていた。
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「ネコ~、どこに行ったんだ~。そして俺は、どこにいるんだ~。」
嶋崎真は、いまだに迷子であった。