手紙
「パパー!絵本読んでー!」
だんろの前にすわっていると、元気よく走ってきてだきついてくる二人の子ども。ほほえみながらやさしく頭をなでると、気がすんだのか子どもたちは顔をあげ、しせいを正すと右手に持っていた絵本を差し出す。
それを受け取って表紙を見て、パパは、おどろいた顔をした後にっこりと笑った。
そっと無言で絵本を開き、ページをめくる。
かすかにひびく、パチパチと木が燃える音。そこにページのすれる音が加わって作られる、温かく和やかなふん囲気。
幸せを感じる時間。
きらきらとかがやく四つのひとみに見つめられる中、パパはそっと口を開いた。
「――――――― むかしむかし、どこかの国に、うさぎの村がありました。
その村では今、うさぎの村長さんのおたん生日会が開かれていました。
三角に切ってあるぬのを、お祭りのように糸でぶらさげ、色々なお花を植えたハチを、ところどころにかざり、持ちよせられたテーブルの上には、木の実や果物等様々な食べ物が乗せられていました。
うさぎ達は楽しそうに、話をしたり木の実を食べています。中には歌っているうさぎのすがたもありました。
そこに、一人だけポツンとさみしそうにしている少年うさぎがいました。
少年うさぎは、一人、木の実を食べながら、みんなが楽しそうに笑っているのを見ていましたが、やがてピンとのばしていた長いお耳をたらすと、そっとみんなからはなれていきました。
トボトボと、背中を丸めてしばらく歩いた少年うさぎは、赤いゆう便ポストが置いてある、木で作られた小さいお家に入っていきました。
家に入って、ランプに明かりをつけると、少年うさぎはしょんぼりかたを落としました。
家の中は、しーんと静まり返っています。
少年うさぎの他には、だれもいません。一人ぼっちなのです。
少年うさぎは、さみしくてさみしくて、しかたがありませんでした。
家の外から聞こえてくるにぎやかな声を、少年うさぎの耳は、勝手に拾っていきます。
余計にさみしくなって、少年うさぎは自分のベッドに近づくと、真横に置いてある小さいつくえの上の、写真立てを手に取りました。
中に入っている写真には、やさしそうに笑っている男女と小さい子どもが写っていました。
いつしか少年うさぎはベッドに横になり、写真をだきしめると、そっと目をとじていました。
やがてとじられた目から、小さなしずくが流れて少年うさぎのほっぺたをぬらし、それはベッドに落ちてすいこまれていきました。
朝になって、少年うさぎは家の外に出ると、軽く背伸びをした後、赤いポストの中をのぞきこみました。
何も入っていないポストを見て少年うさぎは落たんし、ため息をもらしました。
しかし気を取り直して少年うさぎは家に入ると、食べ物と水を入れたリュックをかた手に持ち、外に出て家の後ろにある、倉庫へいきます。
今日は森に入って、木の実や果物、山菜をとりに行く日なのです。そのときに必要になる道具等は、すべてその倉庫にしまっておいてありました。
少年うさぎは、持ってきたリュックの中に、倉庫から出した、刃をぬのでまいてあるカマやなわを入れて背負い、出ていきました。
しばらく歩くと、建ちならんでいた民家もなくなって、森の入り口が見えるようになってきました。
少年うさぎは立ち止まることなく足を進め、森の入り口につくと一旦立ち止まり、リュックからカマを取り出し、また背負い直すとまた歩き出しました。
歩きやすいようにカマをふり、時々草を切りながら周囲を見て木の実をさがします。歩きながら、帰りやすくするための目印をつけることもわすれません。時々、どこからか鳥の鳴く声も耳にとどきます。
そうして、木の実やきのこ等の山菜をとりながら歩いていくと、ふと、少年うさぎは足を止めました。
声が聞こえたような気がしたのです。
耳をすましていると、向かう先からかすかに声と水音が聞こえ、少年うさぎはかけ出しました。
数分走ると、小さい川ぞいに出て、その側にすわりこんでいる少女うさぎを見つけたのです。
あわてて近よると、少女うさぎも少年うさぎに気が付き、ほっとしたような表情をうかべました。
少女うさぎが足をひねったというので、少年うさぎは持ってきていたタオルを川でぬらし、軽くしぼって、少女うさぎの足首に丁ねいにまき、少し考えた後リュックを代わりに背負ってもらい、少女うさぎをおんぶして森を出ることにしました。
歩きながら、声をかけつつ歩き、つけた目印通りに道を通っていくと、次第に出口が見え始めると同時に、木々のすき間からさしこむ陽光を全身で浴び、いつの間にか日がくれかけていることを知りました。
少年うさぎはとりあえず、一度そのまま自宅へもどることにしました。
帰宅すると、治りょうをことわる少女うさぎをイスにおろし、ベットわきに置いてあるつくえの引き出しからぬり薬と包帯を取り出して、少女うさぎの足の手当てをしました。
治りょう後、少女うさぎはこちらが申しわけなく思ってしまうほど頭をさげて感しゃをしめし、一人で帰ろうとしていましたが、暗くなってきていたので、少年うさぎは少女うさぎを家まで送ると告げ、ことわろうとする少女うさぎをまたおんぶし、無事に送りとどけたのでした。
少年うさぎもすぐ家にもどると、つかれからベッドにあお向けになりましたが、知らぬうちに目をとじていました。
そして静まりかえった部屋には、わずかなね息だけがひびくのでした。
後日、目が覚めた少年うさぎは、外に出て習かんになっている背伸びをしました。
そして、そっとゆう便ポストをのぞきます。
そのしゅん間、少年うさぎは目をうたがいました。
ここ何年も新聞くらいしか入ってなかったポストに、ふうとうのようなものが入っていたのです。
うれしさと、不安、ぎ問が頭をかけめぐりました。そして、おそるおそる、手をポストに入れてふうとうをつかみ、そっと引きよせ、差出人をさがしました。
が、書かれていなかったのです。
少年うさぎは、とつ然このふうとうがこわくなりました。とっさに、すてようか、という考えが頭にうかびます。
すてるにも一旦は家の中に持って入らないとなりません。少年うさぎはドクドク鳴る心ぞうを落ち着かせようと集中しながら、ポストに背を向け、家の中に入りました。
心ぞうを元にもどすために、とりあえず目前においてあるイスにこしをかけて一息つくと、小さいテーブルの上にふうとうを置き、深こきゅうしてからもう一度ふうとうを見ました。
何度ふうとうをひっくり返しても差出人は書いてありません。
すてようか、見ようか数分なやみましたが、心ぞうが落ち着いてみれば気持ちによゆうが生まれ、好き心も出てきます。
少年うさぎは、ふうとうの中にも、もしかしたら差出人が書いてあるかもと考え、開けてみることにしました。
しん重にゆっくりふうをはがして、ふうとうに空気をいれて、ゆっくり中を開け見てみると、紙が一まいはいっていることに気が付きました。
ゆっくり手を入れて、紙を取り出し広げると、目に飛びこんできたのは文字でした。
どうやら、手紙には間ちがいないようです。
少し安心して、無意しきに止めていた息をはき、手紙を読みはじめるのでした。
手紙には、少年うさぎの体調を気づかうようなことしか、書かれてありませんでした。読む前にいだいていた不安やぎわくは消え失せましたが、ぎ問は残ったままです。
だれが、手紙を書いたのでしょうか。
完全に信用したわけではありませんが、心から気づかってくれている気持ちが手紙から伝わってきて、少年うさぎの感じていたこどくが、わずかにうすれたのです。
少年うさぎは、そっと手紙をテーブルにおいて、手をはなしました。
そして、ふと気が付きました。つかんでいたところにも、小さく文字が書かれてあったのです。
返事は、森のそばの旧ゆう便回しゅうポストに出して、というものでした。
少年うさぎはまよいましたが、こどくはもういやだという想いのほうが勝ち、紙と筆を手に取り、しん重に言葉を書いていきました。
お礼や、ぎ問、自分の気持ちを書き終えると、ふうとうに入れてふうをし、持っていた切手をはりました。
手紙を書いたことで、少し気持ちがすっきりすると同時に、心ぞうがドキドキして落ち着きません。
少年うさぎは、早速手紙を出しに森へと出かけていきました。
時間を空けてしまうと、出さずに終わりそうだったからです。
しばらく歩き続けると、森の入り口が見えてきました。そして入り口のつき当りをまがった所に、元々あったゆう便局のあと地があるのです。今はもう、村の中央にい動したので、そこにあるのは近所の民家のための、ゆう便回しゅうポストです。主に足こしのよくない老男女うさぎや、遠くまで行けないおさない子どもうさぎ達のために置いてある、ポストでした。
ポストのとなりには、木で作られた小屋があります。一人のゆう便局員が、一日その小屋にすわって出まどから、ポストのかんしと、投かんされた手紙を日ぐれに回しゅうし、本店ゆう便局へ運ぶのです。
少年うさぎはポストまでたどり着くと手紙を入れ、一息ついて顔を上げると、そこにすわっていたゆう便局員を見ておどろきました。
なんと、すわっていたのは数日前に森で出会い治りょうした、少女うさぎだったのです。
少女うさぎは少年うさぎに気が付くとあわてた様に小屋から出てきて、ぺこりとお辞ぎをしました。なんでも、お礼に改めてうかがおうとさがしてみたものの、家の場所が分からず、なやんでいたというのです。
少年うさぎはおどろきましたがやはりうれしく感じ、ちょっと泣きそうになりながら、少女の話を聞きました。
お礼に食事にしょう待したいと言われて、少年うさぎは戸まどいました。急な申し出に、軽くショックを受け、頭がこんらんし、何も考えられなくなったのです。
少年うさぎは戸まどいと時間がほしいことを伝え、次はいついるのかをきいた後、お辞ぎをしてから背を向けて、自宅に向かってかけ出しました。
家に着くと少年うさぎは、だれにも相談できないことに気が付き、あせりました。
そして頭によぎったのは正体不明の手紙のことでした。
少年うさぎは早速、いきさつと相談事を手紙に書き、先ほどと同様にふうとうにいれ、ふうをしました。書き終わったことで多少落ち着いた少年うさぎは、軽く夕食をとると、ベッドに横になって目をとじるのでした。
手紙の返事はすぐきました。食事に行ってみることをすすめてきたのです。
少年うさぎは、手紙に勇気をもらい、行くことを決意しました。そして、行くことをほう告するために手紙を書き、少女うさぎが旧ゆう便局にいる日におとずれ、食事にいくことを伝えると同時に、手紙をまたポストに入れて帰宅するのでした。
約束の日になり朝からそわそわして落ち着かない気分でいた少年うさぎでしたが、昼になると外に出て倉庫からオノをとりだし、だんろに入れるための、まきわりを始めました。
数分後にはまきわりに集中していたため、落ち着いた少年うさぎでしたが、しばらくしてひたいに流れたあせを手でぬぐった時すでに夕焼けで、空は赤みがある、ただいだい色にそまっていることに気が付き、少年うさぎはオノをかたづけ、まきを倉庫にしまうと、出かける準備をするために家に入るのでした。
準備ができた少年うさぎは、夕焼けが広がる中を歩いていました。やがて少女うさぎの家にたどり着き、そのとたん、きんちょうしてきたせいで、ドクドク鳴りだした心ぞうを落ち着かせながら、決意を固め、とびらをノックしました。
数秒のち、とびらが開かれて、少女うさぎがすがたを見せました。
ほほえみながらむかえられて、少年うさぎはきんちょうとうれしさで、どうにかなりそうでした。
食事しながらなんとか受け答えをしていましたが、やがて落ち着いてきたため、よゆうをもって少女うさぎと話ができ始め、楽しむことが出来るようになり、少年うさぎはひさしぶりに心が温かくなって、しょう待してくれた少女うさぎに感しゃの意を伝え、家を出ていったのでした。
よく日、食事の感想を求める内ようが書かれた手紙がとどき、少年うさぎは少女うさぎとの食事でのことを思い出し、幸せでドキドキしながら、大変楽しかったと、手紙を書いて投かんしに旧ゆう便局へ向かいました。わずかに、少女うさぎがいることを期待していましたが、すがたはなく、少年うさぎはがっかりしてかたを落としながら帰宅するのでした。
数日後、少年うさぎは木の実や山菜をとりにまた森に出かけました。
また目印をつけながら進んでいると、草をかき分ける音を耳が拾い、けいかいして少年うさぎは足を止めじっと草むらを見つめます。すると、ぴょこんと同族の耳が見えたのです。
少年うさぎは安心して見守っていると、そこにすがたをみせたのは少女うさぎでした。
おどろく反面うれしくもあり、少年うさぎは笑顔で声をかけました。
少女がいうには、だんろにくべるための木のえだを集めていた所だったのですが、あまりよいえだが落ちておらず、どうしようかなと思っていた、というのです。
少年うさぎは、先日まきわりをしたのでたくさんあることを思い出し、それをゆずることにしました。それならと少女うさぎも、お礼として食事にまたしょう待したいと言い出したので、少年うさぎは喜んで受けることにしたのです。その場ですぐに二人は食事の日を決め、そのまま別れました。
少年うさぎは帰宅したあと、手紙を書きました。
あまりにもうれしくていてもたってもいられなかったのです。
よく日、早速手紙を出しに旧ゆう便局へ向かいました。
少年うさぎがとう着してすぐ目にうつしたのは、少女うさぎのすがたでした。とたんに、うれしくなって、笑顔になります。
手紙を入れたあと、今夜の約束について少し会話をし、また二人は別れました。
少年うさぎは急いで帰ると、わったまきを、なわでしばり、持ちやすくしておくと出かけるじゅんびにはいるのでした。
日ぐれが近づき、少年うさぎは少女うさぎの家に向かいました。まきをもっていくことも、わすれていません。
着くと、早速ノックをして、とう着を知らせます。するとまた間を置かず、とびらが開いて、少女うさぎがむかえてくれました。うれしくなって少年うさぎは心が温かくなりました。そのまま家に上がり、すすめられるままにイスにすわると、目は自然に一人食事の用意をし始める少女うさぎの後すがたを追いました。
グツグツとなべがにえ、じょう気でフタが音を立てて、食器がかなでる音がひびき、心休まるふん囲気の中で感じる、だれかのそんざい。
すべてが少年うさぎにとっては幸福の象ちょうでした。
やがて、湯気が立ちのぼる温かい食事とパンが置かれ、少女うさぎが向かいにすわり、会話が始まります。おだやかなふん囲気の中で食事が進んでいきました。
やがてそれも終わりを告げるころ、少年うさぎは少女うさぎの小さな手に、細かい切りきずがたくさんあることに気が付きました。
おどろいて、どうしたのかきくと、一人でたびたび森に入り、えだをさがしたり木の実をさがしたりするので、その時のものだろうというのです。
少年うさぎはいてもたってもいられなくなり、考える前に一しょにさがそう、と言ってしまいました。
告げたあとでわれに返りあせった少年うさぎは、うつむき、ことわれることを覚ごしながら、少女うさぎの言葉を待ちました。
数秒が、何年にも感じたしゅん間でした。
少女うさぎからの返答は、喜んでお願いします、というものでした。
げんちょうかとも思った少年うさぎは、つい、かくにんをしてしまいましたが、少女うさぎは笑顔で、やさしく同じ言葉をくり返し告げたのでした。
少年うさぎは、うれしすぎて、つい、なみだが出そうになり、それを見た少女うさぎは、にっこりと笑顔を見せてくれたのでした。
よく日、少年うさぎは少女うさぎのおさそいで、昼前から森へ出かけました。歩きながら少年うさぎはとなりを歩く少女うさぎをちらりと見ました。ふと、カゴを持っていることに気づき、できるだけ山菜をたくさんとろうと、少年うさぎは思うのでした。
しばらく歩いていると、いつしか二人が出会ったあの川辺にたどり着きました。なつかしく思っていると水音が聞こえることに気が付きました。
少女うさぎを見ると、目が合い、ちょっとはずかしくなった少年うさぎはほっぺたを赤くそめて、そっとうつむきがちになってしまいました。
少女うさぎのてい案で上流に向かうことになり、二人はどちらともなく歩き出しました。足を進めるごとに水音がはっきり聞こえるようになり、目的地が遠くないことが自然にわかりました。
とうとう、たきつぼにたどり着くと、二人は足をとめ、そのじょう景にしばし目をうばわれました。
上空から大量の水がいきおいよく、しぶきを上げると共に大きな音をひびかせながら、休むひまもなく落ちてきているのです。
初めて見たそれにあっとうされ、数分間言葉も出ませんでした。
そっと、横から声が聞こえて少年うさぎはわれに返り、少女うさぎと、すわるのに丁度よい大きさの岩を見つけ、こしをかけました。すると少女うさぎは持っていたカゴを少年うさぎとの間に置き、かぶせてある、ぬのをそっと取り始めたのです。
不思議に思いながら見守っていると、少年うさぎのひとみには、食べ物や水がうつし出されました。
少年うさぎはそっと顔をあげて、少女うさぎを見ると、目が合った彼女は、そっとほほえみました。 どうやらお昼ご飯を用意してくれたようだと気づき、少年うさぎは感しゃの言葉を伝え、二人は仲良く食べ始めるのでした。
食事を終えた二人は来た道をもどりながらさがした山菜などを、空になったカゴに入れていきます。楽しい時間は早くすぎるもので、二人はあっという間に森の入り口までたどり着いてしまいました。
残念な気持ちでいる少年うさぎでしたが、少女うさぎが服のボタンが取れかかっているのを見つけ、直しを申し出てくれたので、一旦、一番近い少年うさぎの家に行くことになりました。
帰宅すると少年うさぎは少女うさぎにイスをすすめ、飲み物を用意するとテーブルの上に置きました。少女うさぎはお礼を言ってから、カップに口を付けます。
ゆったりとした時間が流れた後、少年うさぎから服をあずかり、少女うさぎはボタンつけを終わらせました。帰ろうとして席を立つと、少年うさぎは勇気をだして、お礼に食事にさそいました。
少女うさぎは笑顔で受け、少年うさぎからの家まで送るという言葉に、まだ明るいので、と丁ねいにことわりを入れた後、別れたのでした。
よく朝、起きて外に出るといつものように少年うさぎは背伸びをしてからゆう便ポストをのぞきこみました。すると、手紙が入っていることに気が付いて、それを取った後、いそいそと家にもどりイスにすわってから丁ねいに開ふうし、読むのでした。
相変わらず、少年うさぎを気づかう言葉と、少女うさぎとのそれからを気にしている内ようだったので、少年うさぎは感しゃと体調のこと、良くしてもらっていることなどを書き、また手紙を出しに行くのでした。
今夜食事の約束をしているため、少年うさぎは手紙を出しに行った帰りに花束を買い、家に帰宅するやいなや、何を作ろうかなぁと、あごに手を当てて考えるのでした。
じゅんびしていると時間のけいかも早く、あっという間に日がくれており、ついにとびらがノックされました。
とびらをあけると、そこに立っていたのは期待通り少女うさぎでした。
まねきいれて、イスをすすめた後少年うさぎは早速食事のじゅんびにとりかかり、数分後にはテーブルの上に温かいご飯がならべられていました。二人は会話をはずませながら楽しくそれらをいただいてから、お茶を飲みつつ一息つくことにしました。
ふと気が付けば少年うさぎの手を少女うさぎが見つめており、はずかしく思いながら指を切ってしまったことを伝えると、少女うさぎはきずの心配をしてくれたので、たまにはケガもいいものだなと考えてしまうのでした。
帰る時間になって少女うさぎが席を立つと、少年うさぎは家まで送ることを告げ、気づかれないように後ろ手で花束を持ち、二人は外へでて歩き出しました。
少女うさぎの家にたどり着き、少年うさぎがそっと花束を差し出すと、少女うさぎは花がさくようにふわっと笑顔になり、受け取ってから、かおりをかぎます。
ほっぺたが少し赤くなっていた気がして、少年うさぎはうれしく思いました。
そして、少女うさぎから花びんを買いに行きたいと言われ、自然に、一しょに出かけることが決まりまた明日、とおたがいが声をかけ合いながら、少年うさぎは家に帰るのでした。
よく日の昼すぎ、少年うさぎは少女うさぎへ会いに行きました。とびらをノックすると、すぐ少女うさぎがすがたを見せ、二人は早速商店街に向かって歩き出しました。
一しょにとう器のお店に入り一通り見て回ったあと、少女うさぎは花びんを選び終えたようでした。
それをみた少年うさぎは、自分が持ってきた予定外の花束であるということで自らが花びん買うことを申し出て、プレゼントしました。
買い終わって外に出ると、少女うさぎが向かいのざっ貨屋さんによりたいというので、今度はそちらを目指して足を進めます。すぐ終わるからと少年うさぎを残して少女うさぎは店に入っていきました。ところどころ、かべがガラスばりなので、店内の少女うさぎのすがたも見えます。
しばらく見守っていたら、背後から声をかけられ、道をたずねられた少年うさぎは、自分にわかるてい度で丁ねいに説明しました。
そのすがたを店内から見ていた少女うさぎは、そっとほほえんだのでした。
それからというもの、二人のきょりはちぢまり、自然におたがいの家を行き来するようになり、森にいったり買い物に行ったりと二人で行動することが多くなっていき、そうして一年後、少年うさぎと少女うさぎはひっそりと結こん式を挙げたのでした。
そして、その日の夜も、一通の手紙がとどいていました。
書かれていたのは、たった一言でした。
『幸せになるのよ。 遠くから見守っているわ。』
その日を最後に、手紙はぱったりと来なくなったのでした。
もう、こどくで、なみだを流していた少年うさぎのすがたは、どこにもありません。
少年うさぎがゆめに見ていた幸福の日々は、こんなんなことも乗りこえながら、これから先もずっと続いていくことでしょう。
めでたし、めでたし」
パタン、と音を立てて本をとじたパパは、そっと子ども達を見た。
そして、ふっとやさしいほほえみをうかべて、ね息を立ててねむっている子どもたちを見つめる。
「読み終わったの?」
間を空けず、そっと背後から女性の声が聞こえ、パパはふり返った。
「ああ」
「なつかしいわね。結局だれが送ってくれたのか、わかったの?」
「いいや。君と結こんした日が最後だったよ。幸せになれ、見守っていると書かれてあった。」
「そうなの・・・。ふふ」
「なんだい?」
「いいえ。まるで・・・親が子どもにあてたみたいな言葉だなと思って」
そう言い残して、そっとリビングを出ていく。
「ふむ・・・」
そうつぶやいたパパは、立ち上がって歩いていき、タンスに置いてある両親の写真を手に取ると、じっと見つめた。
そこには、昔と変わらず、やさしそうにほほえむ、お母さんうさぎとお父さんうさぎの顔があった。