その部屋は、
つまらない作品ですが、どうぞ見てやってください。
『ここで、速報をお伝えします。今日午後、2時30分頃、○○県××市のアパートで、首を吊った女性が見つかりました。警察は、女性の遺体に抵抗した跡が見られることから、殺人の方向で捜査を進めており──』
「よっしゃ、今から帰りのホームルーム始めるぞー。」
そんな声が教壇から上がり数分後。騒がしかった教室内は、早く帰りたい、という思いで埋め尽くされたせいか、不思議な沈黙を帯びていた。
そんな中、俺こと紀田 充輝は、読書に勤しんでいた。
──漫画という名の読書に。
「お前はまた学校に漫画を持ってきてるのか・・・。」
そんな声が隣から聞こえる。
そちらを向いてみれば、そこには、俺の親友である滝 龍騎が溜息をつきながらこちらを見ていた。
俺は被疑者でありながらも、龍騎の手元に向かって冷たい視線を送る。
なぜなら──
「お前にだけは言われたくないな。」
──なぜなら、龍騎の手中にも漫画(3冊)が収められてあるからだ。
龍騎の手元から視線を戻すと、そこには『バレた?』といった感じの笑みを浮かべた龍騎の顔が。
俺は苦笑しながらも、手元の漫画へと目を落とす。
これは、俺達のいつもの遊びだ。どちらがボケになってどんなボケをかますか、なんて細かいことは決めていない。その日のノリで《ミニ漫才》をしているのだ。
他の奴に聞こえない程度の声でしているので、バレることはそうそうない。
無論、《ミニ漫才》がバレないということは、漫画自体もバレてはいない。
いつものコミュニケーションも終わり、漫画も残り5,6ページといったところに差し掛かったあたりで、
「──以上だ。これでホームルームを終わる。各自解散。」
待ちに待った放課後がやってきた。
教師も廊下をうろつき始めたのでそそくさと漫画をしまいこみ、家に帰る支度を済ませ、龍騎の方へと向き直る。
すると龍騎も支度ができたようで、こちらに向かってきたので、「今日はどっか寄るか?」なんて話をしながら、家路を進む。
だが、異変とは突然に訪れる。
最近できた道路の片隅に、ポツンと立っているアパート。本来ならひっそりとした感じが漂っているその場所に、なぜか人集が出来ていた。
なぜだろう、と考えているうちに、一つの答えへと辿り着く。
「あ、そういえば、あのアパートってこの前首吊り自殺があった場所なんだよね? 気味悪いなぁ。」
そう。あのアパートは、最近首吊り自殺があった場所なのだ。
つい昨日までは警察が取り調べていたせいで中に入ることができなかったが、あの様子からすると、恐らく一般開放になったのだろう。
「なぁ、行ってみないか? どうせ予定もないし。」
どうせ帰っても暇な(俺もだが)龍騎を誘ってみる。すると、最初は嫌な顔をしていた龍騎だったが、だんだんノってきたのか、
「・・・ああ、そうだな。行ってみるか。」
承諾してくれた。
放課後の時間は腐る程ある。部活に入っているわけでもなし、門限があるわけでもなし。
時としてそれは、「ものすごく暇だあああああああ!」と、叫ぶ要因にもなる。
そしてそれは、龍騎にも共通することだった。
そんな事態を避けるためにも、充輝達は、暇を潰す必要があった。
・・・だが、この時、彼らは知る由もなかった。
あんなことになるならば、家に帰って「暇で死にそおおおおおおおお!!」など叫んでいた方がマシだった、と。
「しかし、中の方には意外と人がいねぇな。」
「ああ。多分、噂は聞いても中に入ってくるほどの興味はないんだろうよ。」
解放されているアパートの中は、やはり誰も住んでいないようで、全部屋が解放されていた。
部屋数がかなりの数あるので、正確な人数は分からないが、大体、15,6人程度だろうか。
時々、チラホラと後ろ姿が見えたりするが、すぐに消えてしまう。
小さそうな外見とは裏腹に、以外の中は広かったのだ。
『・・・なあ、この壁のシミ、人の形に見えないか?』
『どれどれ? ・・・まぁ、人の形に見えないこともないな。ただし、言われてみないとわからない。』
『そうかなあ・・・・。結構似てると思ったんだけど。』
全ての部屋を回り終え、「結局何もなかったなー。」なんて会話を交わしている頃、そんな声が奥から聞こえてきた。
「・・・俺たちも行ってみるか?」
「ああ。でも、流石にそう何人も入らないだろうし、前の人が出て行ってからにしようぜ。」
そんな会話をしながら前の人が出て行くのを待ってみる。
・・・だが、3分、5分、10分経っても、それらしい人は出てこなかった。
何かがおかしい。
充輝と龍騎はそう思ったが、それでも辛抱強く待っていた。
チクチクチク・・・・・・・・・・・。
龍騎の持っているアナログの腕時計の音が、酷く大きく聞こえる。
それだけの静寂と、聴力Aの2人の耳を持ってしても、それ以上、奥から音が聞こえてくることはなかった。
「なあ、なんかおかしくねぇか? 奥からは物音一つ聞こえやしねぇ。」
龍騎がそんなことを呟くが、問題はそれだけではない。
如何に彼らが静かにしようとも、15,6人ほどの人がいるのだ。かなりざわつく、とまで行かなくても、多少の物音が聞こえる程度にはざわついているはずなのだ。
それが一切ない。
それが表していることは、
「・・・おい、早く帰らねぇとやばくねぇか? どれだけ待ったって人は出てこねぇし、奥からは物音一つないし。」
「・・・やばいのはそれだけじゃない。このアパートにいる奴らの声や音が一切しねぇ。それが表していることは、つまり、」
「「いつの間にか全員いなくなってやがる!!」」
二人一斉に駆け出し、ドアの方へと向かう。
だが、そのドアには見覚えのないロープが巻きついていて、高校生2人の力を持ってしても開くことは愚か、ビクともしなかった。
「・・・クソッ! 開かねぇ!」
「どんな巻き付き方してやがる!」
「しゃーねぇ!! こうなったら窓から逃げるぞ!」
今度は二人して窓へ向かう。
だが、本来なら小学生が殴った程度でも割るはずのそれは、やはり高校生二人のタックルを浴びてもヒビさえ入ることは無かった。
「・・・やばい。やばいぞ。こんなところで死んでたまるか!!」
龍騎が必死になって窓にタックルを続けるも、傷一つ付くことはなかった。
密閉された部屋。
閉じ込められた二人。
そして、
「・・・おい、あの自殺があった部屋って何号室だったっけ・・・・?」
「た、確か、309号室だった・・・・。」
「・・・このアパートには『8』号室しかないなのに・・・?」
──そして、首吊り自殺のあった部屋。
「くっそがああああああああああああああああああああ!!」
龍騎はタックルをやめ、頭突きをはじめるが、それでも窓は割れない。
そしてその状況は、二人に焦りを生み出させる。
その焦りは、本来の力を発揮させず、天井から伸びてきたロープに気づかせないことをあらわす。
じわりと。
ジワジワと。
長い髪の巻き付いた『ソレ』は、龍騎の首を囲むように降りてきて、やがて、今度は天井へと引き返す。
──龍騎の首を間に挟みながら。
「くっ・・・・み・・・つき・・・・・・・・!」
そんな彼の声は、誰にも届くことはなかった。
なぜならば、
「なん・・・だ・・・・・この・・・・ロー・・・・プ・・・・・・・っ!」
充輝の首にも、彼と同じようにロープが巻きついていた。
やがて、先に首を絞められ始めた龍騎の意識が朦朧とし始める。
こうなったら、と、龍騎は考える。
もし、もしそんなことがあれば。
どちらか一人は助かる。
もし、二人の首を絞めているロープが1本ならば・・・・・。
どちらかの首を切ることで、片方は重力に従い助かることができる!
どうせ自分は死ぬのだから。
そんなことを考えて、彼は、ロープに手をかけ──
ゴトッ。
ドタッ。
何か、二つの物が落ちる音が響いた。
一つは、尻餅をつき、肩を弾ませながら息をしている充輝。
「ぜぇぜぇぜぇ・・・・・・・・・・。た、助かった・・・・・。」
そして、もう一つは、
「ゲホッ・・・。龍騎、助かってよかったな・・・・・・・・・・。」
・・・・・・・・・・。
「・・・・・・・・・龍騎・・・・・・・・?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「龍騎?」
ふと、顔を上げた充輝の視線の先にある、龍騎の生首だった。
『ここで、速報をお伝えします。今日午後、5時30分頃、○○県××市のアパートで、首を吊った男子高校生と、同じアパートから飛び降りたと見られる男子高校生の遺体が見つかりました。このアパートでは、3日ほど前にも首を吊った女性が見つかっており──』
「なんか、ワケアリっぽくね?」
「警察の捜査でも終わったら肝試しに行こうぜ。」
「あ、それいいね! 何人か誘っていこうぜ──」




