おにいちゃん。
今回は樹に天罰が下ります。そして樹が可哀想な回再びです。お兄ちゃんはやっぱり最強ですね。
帰り道、俺は隣をふわふわと浮かびながらついてくる樹にあることを聞いてみようと思った。
「なあ、樹。お前今日西島になんて言ったんだ?」
「別に~♪ ただちょっとだけ注意してあげただけだよ」
「注意? 何を?」
「交友関係について、かな」
それだけであんなに真っ青になるはずはないのだが。ま、俺が1日でこいつは呼び捨てで十分だと思うほどのやつだからそんなに気にすることもないか。
「なあ、樹」
「ん~?」
「お前は今日西島が話してたやつ、どう思う?」
「話してたやつって、僕の未練がどうのってやつ?」
「そ。お前、なんか未練でもあんの?」
俺の言葉に樹が腕を組んで唸りながら真剣に考えている。しばらくして樹は眉間にしわを寄せたまま口を開いた。
「強いて言うなら、遥ちゃんが女の子らしくならないことかな」
俺は反射的に樹に蹴りを入れるが、それは樹の体を通り抜けてしまう。
「やだ、遥ちゃん。何、サービス?」
「んな訳あるか!」
もう一発蹴りを入れそうになるがぐっと我慢する。くそ、触れられないことがこんなに苦痛になるなんて。今までなら触れられることが苦痛だったのに。
「……今遥ちゃんなんかすごく失礼なこと考えなかった?」
「気のせいだ」
こいつといるとなんだかいらいらするのでさっさと歩く足を速める。家に帰っても余り状況は変わらないが、今よりはましだろう。……ん、家?
「なあ、これから樹んち行かねえ?」
「僕んち?」
「そう。浩紀さんに会いに行ってみよう。もしかしたら未練についてなんか分かるかも」
「えー、兄さんに会うの?」
まあ、確かに浩紀さんは性格がちょっと、というかかなり悪いが、
「浩紀さんがひどいのはお前にだけだし。俺には優しいし」
樹がまたひどいっ、とか言いながら空中で丸まってしまったが知ったこっちゃない。俺が行くと決めたんだから行く。
「あ、嫌なら別にお前は来なくてもいいんだぞ」
「行く」
あ、そこは即答なんだ。樹の同意も得られたことだし、さっそく俺は樹の家へと向かった。途中自分の家によってお土産に浩紀さんが好きなクッキーを持っていく。ああ見えてもあの人甘党なんだよな。
「こんにちは。お久しぶりです。遥です」
「あー、遥ちゃんか。久しぶり。うちの馬鹿弟連れてきてくれたの?」
……やっぱり気づいてたんだ。浩紀さんと樹は外見が結構似ている兄弟で、樹が背が高いのだからもちろん浩紀さんも背が高い。私と並ぶともう頭一つ分くらい身長差がある。唯一違うのは浩紀さんが眼鏡をかけているところか?
「あの、浩紀さんはこれが見えるんですか? ついでに声も」
「うん。見たくもないし、聞きたくもないけどね」
相変わらず樹には超厳しい浩紀さん☆ というかもうこれはいじめだろう。ま、俺も普段いじめているから人のことは言えないが。樹はよっぽど兄に会うのが嫌だったのか、さっきからずっと俺の後ろで体を縮めている。俺よりもでかいんだから隠れきれるわけがないのに。
「いつまで遥ちゃんの後ろの隠れてるんだ、樹。男のくせに情けねえな」
「誰のせいだ! このくそ兄貴!」
「……、ほう。いい度胸だ。実の兄に向って『くそ兄貴』だと?」
「―――――――!!」
樹が声にならない悲鳴を上げた。確かに俺が言われたわけじゃないのに俺が鳥肌が立つくらいだから、それを真正面から受けたら……溶けるんじゃないのか? 相変わらずすごい人だ。
俺が変なところで感心しながら兄弟のやり取りを眺めていると、ふと浩紀さんがこっちを見た。
「ま、せっかく来たんだし、上がって行きなよ、遥ちゃん。……樹、お前は……分かっているな?」
「――――――――――!?」
樹はもう大泣き状態だ。なんか浩紀さんならユーレイでももう一度殺せるような気がする。そのことを浩紀さんに聞いてみると、
「ん? まあ、できるんじゃない?」
という何とも軽い答えが返ってきた。
次回はお兄ちゃんが生き生きとします。もはや樹をいじめるのが生きがいです。でもちゃんと弟のことは大事に思って……いるはずです。素直じゃないんです。たぶん。