ごきげん。
今回は遥ちゃんが天然気味です。そして樹がとても機嫌がいいです。そしてこの物語は1時間クオリティとなっております。時間がなかったんです!
「終わった~!」
6時間目終了の鐘が鳴るとどうしてもこう言ってしまう。まあ、この気持ちは全国共通だろう。開放感を感じないはずがない。
「さて、授業も終わったことだし、俺は少し図書室に行ってくる。どうせ今日は部活も休みだし。遠藤さんは井上先輩を探してこいよ」
「図書室? 何しに行くんだ?」
「ちょっと調べ物」
それだけ言うと、西島君は俺にひらひらと手を振りながら教室を出て行った。調べ物って、何だ?
「ま、気にしても仕方がないか。それにしても樹はどこに行ったんだ?」
俺はとりあえず校舎内をぶらぶらと歩いてみることにした。公立校だからそうたいして大きいわけでもないし、すぐに見つかるだろう。
「にしても、だる~。何で俺が樹探して校舎歩かなきゃなんねえんだよ」
「悪かったね~、僕がいろんなとこに行って」
「!?」
背中に寒気が一気に走る。漫画ならたぶん髪の毛が逆立ってることだろう。悲鳴を上げるのは何とか堪えた。
「(樹!? いきなり背後から声かけんなよ! それと近づきすぎるな。寒気がする)」
「遥ちゃんは何でそう僕に冷たいのかな……。昔はあんなに樹君、樹君って……」
「言ってない。とりあえず場所変えるぞ。ここだと俺が変な眼で見られる」
それだけ言って俺はさっさと屋上へ通じる階段を目指して歩き始める。見なくても樹が付いてくるのは分かっているので、一切後ろは見ない。
「そういえばさ、お前のこと他に見える奴いたぞ」
「ん? 誰?」
「西島拓也。俺のクラスメイトでお前の後輩。知ってるだろ」
「ああ。拓也君ね」
樹が一人腕を組んでなるほどねー、とか一人でうなずいている。何がなるほど、なんだ? その時、後ろから足音が近づいてきた。振り向くと西島君がこちらに向かってくるところだった。
「いたいた。屋上に行くの?」
「あ、うん。他に人がいたらこいつと普通に話せないだろ。それより、調べ物は終わったのか?」
「うん。おかげさまで。ちょっとすごいもの見つけた。詳しくは屋上で」
意外と重い屋上の扉を押しあけると、ぽかぽかと暖かい春の日差しが俺たちに降り注いだ。さっそく樹がわーいと言いながら飛び出していった。あいつは餓鬼か。
「ちょっとこれ見てくれる?」
屋上の真ん中らへんに西島君と向かい合って座ると、一枚の紙を差し出してきた。何かの本のコピーらしい。一番上に、『幽霊は本当にいるのか!?』とかいう見出しが付いているのが気になるが。
「……これって信用できるのか?」
「でも、ここ見て」
西島君が紙の真ん中らへんを指差す。そこには幽霊はなぜ生まれるのか、ということについてのいろいろな説が書いてあった。
「ユーレイがなぜ生まれるのか、か。一番有力な説はやっぱり朝西島君が言ってたみたいに、強い未練があるからっていうのらしいね」
「やっぱり井上先輩に聞いてみるのが一番早いんじゃねえの? 先輩の未練は何ですか?って」
二人揃って樹のほうを見る。そこにはまるで水泳でもするように空中でジタバタしてる樹がいた。俺たちの視線に気がつくと、樹は俺たちに手を振ってきた。両手で。
「!?」
異様な気配を感じて向かいの西島君に視線を戻すと、よっぽど樹に手を振ってもらたことに感激したのか、目をうるませて井上先輩が俺なんかに手を振ってくれるなんて! とか言ってる。こいつと協力しようと思ったのは間違いだったか。
俺が二人に軽蔑とあきれの視線を送っていると、樹が西島君にふわふわと近づいて行き、俺に背を向けて何かこそこそと耳元で囁き始めた。樹が囁く時間に比例して西島君の顔から血の気が失せて行く。まだ春だから熱中症ってわけではないと思うから、貧血か?
「分かった? 拓也君?」
最後に樹がそう締めると、西島君が首が飛んでいってしまいそうな勢いで頭を縦に振りまくった。顔色は真っ青なままだ。
「おい、西島君、大丈夫か?」
俺が心配して声をかけると、失礼にも奴は俺からすごい勢いで大丈夫です、とか言いながら離れた。そのまま屋上の端までさがっていく。
「お前、西島君になんて言ったんだよ。めっちゃおびえてんじゃん」
「ん、別に何も♪」
今日の樹はなんだかとても機嫌が良かった。俺にはさっぱり分からん。
男心を理解できない遥ちゃんでした。そういうことってありますよね。次回は樹の未練ついて遥ちゃんが突っ込みます。