ゆーれい。
今回からちょっとずつコメディ要素が入ってきます。入ってますよね!? 感想等がもらえれば励みになるのでよろしくお願いします。
俺は慌てて樹の後を追った。もちろん階段で。一段とばしで駆け下りると、3分で下に着いた。外に飛び出してあたりを見回す。即座に倒れている樹を発見。
「樹!」
自分でも普段はなかなか出ない切羽詰まった声が出ていることが分かった。昇降口から樹のところまではざっと100mというところだろうか。俺はスタートダッシュのため後ろの足に力を入れた。
「何?」
「――――――!?」
今、聞いてはならないものを聞いたような気がした。100m先に倒れているはずの樹の声で、樹のように樹が言うはずの言葉を、後ろから。恐る恐る振り返る。
「―――――!?」
本日言葉にならない悲鳴2回目。真後ろにふわふわと浮かび、にっこりほほ笑んでいる樹がいた。
「もー、また女の子らしくない顔で驚かないの。そんなに僕は変かな」
「へ、変も何も、お前あそこに倒れてるはずじゃ……」
樹がちらりと俺が指さすほうに目をやった。表情は特に変わらず。また俺のほうを見ると、少し咎めるような顔つきになった。
「あのね、遥ちゃん。君女の子なんだからさ、もうちょっと可愛らしく驚けないの?」
「突っ込むとこそこ!? ……俺は別に女らしくなりたいわけじゃねーし、いいんだよ。つかユーレイみたいなお前に言われたくない」
ユーレイ樹はやれやれとでも言うように首を横に振った。なんで俺はユーレイにまで女らしさを心配されなきゃいけないんだ。俺も小さい頃はもうちょっと女の子らしくて可愛かったらしい(樹談)が、物心ついた時には俺はもうこんな感じだった。何が原因なのかも分からないし、別に自分のことを俺と呼んだからといって女の子の友達がいないわけでもないので、特に気にしたこともなかった。
「まさか、お前俺が女の子らしくしないのが未練でユーレイになっちまったとかじゃねーよな」
「さあね。僕も何でこうなったのか分かんないし……」
樹がそこまで言ったところで誰かが近づいてきた。よく見ると俺の隣のクラスの担任だった。
「遠藤さん、あれは一体どうしたんだ。あれは確か3年の井上君だよな。確か君と幼馴染の」
「はい。屋上で日向ぼっこしてたらあいつ(馬鹿だから)落ちたんです」
(遥ちゃん、今絶対バカって入れたよね!?)
なぜかちょっと落ち込んでる樹は先生には見えていないらしい。彼が見えているのは俺だけなのだろうか。先生のことを観察しながら俺は話を続けた。
「私、捕まえようとしたんですけど、あとちょっとで手が届かなくて……(涙」
「そうだったのか。遠藤さん、それは辛かったね。君と井上君はとても仲がいいように見えていたし」
(誰!? しかも嘘つき! いつもあんな感じで“私”って言ってくれてたらいいのに……)
樹が何か失礼なことを考えているような気がしたので先生に気づかれないよう思い切り睨みつけてやった。これぞ幼馴染の勘ってやつか?
先生に視線を戻すと、先生は普段は絶対に出さないケータイを出してどこかに電話をかけていた。たぶん救急車を呼んでいるのだろう。しばらくして話がすんだのか、俺のほうへと向き直った。
「多分これからいろいろと聞かれると思うけど大丈夫かな。辛いと思うけど、井上君のためにも頑張ってくれないか」
「はい。私に出来ることは頑張ります」
ここできらりと女の子スマイル。後ろで樹が「おお~」とか言ってる。失礼な奴め。俺だって相手が目上の人だったら丁寧な言葉遣いとか女の子らしい態度とか出来るわい。
「とりあえず、職員室まで来てもらえるかな。午後の授業は休んでもいいけど、どうする?」
「今はあんまり出たくないです……」
「そうか。じゃあ行こう」
先生の後ろについていく。何故か樹も付いてきた。こっそり睨みつけると、樹が何食わぬ顔で俺に近づき、耳元で囁いた。
「(俺のおかげでサボれてよかったな)」
この時樹に触れられないことに気がついたのは言うまでもない。
遥ちゃんは女の子です。気づいてた人もいると思いますが。次はやっと舞台が学校へと移ります。