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なみだ。

今回、思いっきりシリアル……じゃなくて、シリアスです。

お兄ちゃんの過去が少しだけ登場します。


今回は若干登場人物が全員キャラ崩壊します。ご注意ください。


……本文が重すぎてここでしかボケられない。

 放課後、教室に差し込む夕日で室内がオレンジ色に染められるころ、私は一人図書室にいた。

 樹君を西島に押し付けてきたので、本当に一人だ。


「なんか面白そうな本ないかな……」


 樹君がユーレイ化してからストレス発散とばかりに本を読みふけるようになった。

 私に言葉遣いを叩き込んでくれた女の子たちには本当に驚かれたものだ。いくら言葉遣い(行動も)が荒っぽいからといって読書はもともと嫌いではない。


 放課後の誰もいない図書室を本棚に沿ってゆっくりと歩く。背表紙に視線を走らせ、時々立ち止まっては気になった本を手にとってぱらぱらとめくってみる。


「あれ、これなんだろう」


 ふと目にとまった本を手に取る。よく見ると、何年か前の卒業アルバムだった。


「おかしいな。何でこんなところに卒業アルバムがあるんだ? この辺は物語だけのはずなんだけど」


 とりあえず、元の場所に戻すため本を抱えたまま歩き出す。ああ、でも卒業アルバムのたぐいが置いてあるところは一般の生徒立ち入り禁止だったっけ。


「どうしよう、これ」


 脇に抱えている本に視線をやる。……あれ、この年って。

 ふと思いついて閲覧室にある机の上で本を開いた。確か、3―2だったはず……。


「あった……」


 そのページには数年前の3―2の生徒たちの集合写真が載っていた。そして、右上の隅のほうに小さく丸で囲んである写真。……2年前の浩紀さんのクラスだ。


「そういえば前、浩紀さんが卒業する直前に事故で亡くなった人が居る、って聞いたことがあるな」


 ちょっと気になるし、今日の帰りにでも浩紀さんのとこによってみようかな。




「こんにちは。浩紀さんいますか?」


 その日の帰り道、嫌がる樹君を無理やり連れて浩紀さんのところへ寄って行った。樹君は私が一人で浩紀さんのところへ行くほうが嫌らしいので、樹君の言葉を無視して行けば勝手についてくるんだけどね。


 玄関から顔を出した浩紀さんに私は早速話を切り出した。卒業生について。

 すると、浩紀さんは珍しくちょっと困った顔をして部屋に上がるように言った。


「……で、遥ちゃんは偶然僕が卒業した年の卒業アルバムを見つけて、僕がクラスメイトに亡くなった人が居ると言っていたことを思い出したわけだ」

「そうです。ちょっと不謹慎ですけど、気になってしまいまして」

「彼はちょっと複雑でね。簡単に話せることじゃないんだけど……」


 またまた浩紀さんにしては珍しく、言葉を濁した。浩紀さんがここまで気を遣う人って、どんな人だったんだろう。


「彼はね、その……、落とされたんだよ」

「落とされたって、どういうことですか!?」

「実際には自殺ということになってるけどね。受験に疲れて自殺したと。でも落とされたことには違いない。本人がそう言ってたからね」

「本人が、言っていた?」


 そこで浩紀さんが何かをこらえるような顔をして俯いた。いつもは煩い樹君も今は黙って浩紀さんの言葉を待っている。


「彼も、ユーレイになったんだよ。樹と同じようにね」


 そう言った浩紀さんの眼には、薄く涙が浮かんでいた。


「そして彼は狂っていった。いわゆる悪霊と呼ばれるものになるのにそう時間はかからなかった」

「その人は、兄さんの大切な人だったんだね。大丈夫、僕は狂わないよ」

「当たり前だ。僕の弟だからな」


 2人も大切な人を悪霊にしてたまるか、と呟いた声は、樹君にも聞こえていたのだろうか。


「あの、浩紀さん。……その、ユーレイになってしまったという方は?」

「ああ、彼ならもう成仏した……というよりも消えたと言うほうが正しいかな」

「消えた?」

「そう。最後だけはすごく穏やかな顔をしていたよ、彼は。散々迷惑かけていきやがってなぁ」




 最後に少しだけ話を聞いて、私と樹君は私の家に帰ってきた。

 私の部屋に入っても、二人とも口を開かなかった。


「……あのね、樹君。私、早く樹君に成仏して欲しいって言ってましたよね。でもね、いざ樹君とあと少ししかいられないって聞いたら、なんかね……」


 そこまで言って、言葉が詰まった。つぅっと頬に冷たい感触がした。樹君が悲しそうな顔をしているのを見て、ああ、私泣いているんだって気がついた。


 樹君がユーレイ化してから一カ月と2週間。


 残り2週間。


 それが樹君に残された時間だった。

お兄ちゃんの過去については、今度詳しく短編に書こうと思ってます。

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