表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

金と赤 もう会わないはずの女

掲載日:2026/05/02

50歳、タクシードライバー。

もう人生に期待なんてしていなかった。


雨の夜、金髪の女を乗せるまでは。


札束、逃走、黒いスーツの追跡者。

関わるには、面倒すぎる女だった。


それでも、何度も彼女は俺を呼んだ。


金か、人生か。

答えは出す前に、車は踏み込まれていた。


――行き先は、まだ決まっていない。

私は25年勤めた会社を辞めた。

今年50歳、腹の出たオジサンだ。


二代目のボンボン社長に使い潰されるのが嫌になった。


あの業界には、もう戻らない。


50歳からの再就職は厳しい。

稼げる仕事は限られていた。

タクシードライバーを選んだ。


タクシードライバーにも慣れ始めた頃の話である。



雨に濡れた夜、歩行者がタクシーの前に飛び出してきた。


キィィッ——と濡れた路面を引き裂く音。


シートベルトが胸に食い込み、車体が止まる。


窓を開けて「バカ野郎!」と叫ぶ。


街灯に濡れて光る金髪ボブヘアの女は、後部座席に乗り込むなり、


「はやく出してー!」と息を切らしながら、


「やばいの……お願い、出して……」


そう言い残して、彼女は眠ってしまった。


ルームミラーで後ろを見ると、彼女のパンパンのカバンの隙間から札束が見えた。


こういう場合は、会社に報告する決まりだ。


会社の指示で、最寄りの警察署へ向かった。



後日、彼女から指名が入った。


「あの時乗せてくれた運転手さんをお願い」と。


指定の場所へ迎えに行くと、彼女はもう待っていた。


彼女は少し笑って行き先だけ伝えた。


理由は聞かないまま車を出す。


信号のたびに、距離が縮まっていく気がした。


目的地に着くと、彼女は料金を払って降りかけ、ふと振り返った。


「はい、これ。私の番号。また呼ぶから。じゃーね!」


「……あ?」



営業所での精算後、ポケットのメモを開いた。


裏には「雅」とだけあった。


何度もその文字を思い返した。



その後、知らない番号が俺のiPhoneを鳴らした。


「あっ!出たっ!ねぇ、今夜いける?」


雅だった。


「時間と場所は?」


迎車で向かう。


「どちらまで?」


「はい、これ」


コーヒーを手渡される。


「運転手さん、五十嵐さんって言うんだ。そこに書いてある。五十嵐って」


「……」


目的地に着いた。


「じゃーねー、イガラシさんっ!」


笑顔で降りていった。



しばらく雅からの呼び出しはなかった。


やがて、またiPhoneが鳴る。


「五十嵐さん、今日来れる?」


迎車で向かう。


走り出してしばらくしてから、思わず聞いた。


「なんで私の番号を知ってるんですか?」


「警察の人が教えてくれたの」


「……」


「ねぇ、五十嵐さん、今度おやすみいつ?今度ご飯食べに行こ」



待ち合わせ場所に一時間も早く着いてしまった。


スマホのゲームで時間を潰していた。


「これ、なんのゲーム?」


突然、画面が金髪で覆われる。


スマホを伏せた。



店に入りオーダーした料理を待つ。


「で、話って?」


あの時のことを聞きたかった。


「なんで俺に?」


「話せる人がいなくてさ。友達いないし」


「俺も」


「……じゃあ、友達だね」


「冷めるぞ」


「はーい」


「いつもブルーだな」


「これしかないの」


「……」


「じゃあさ、服買いに行こ、五十嵐さん選んでよ」



「赤がいいな」


フィッティングルームから、真紅のワンピースを着た雅が出てくる。


「ジャーン!似合う?」


一瞬、言葉が止まる。


「ねえ、派手?目立ちすぎ?」


「金髪が言うかぁ?目立ってナンボだろ」


「みんなー、私を見やがれー!」



「五十嵐さん、今日はありがとね。私、これから仕事なんだ」


「そっか、頑張ってな」


「うん、じゃーね」


あっという間だった。


「牛丼でも喰って帰るかな」


それから、彼女からの連絡はなかった。



彼女のことを考えなくなった日も多くなり、


交差点を左折した、その時!


赤い服と、金髪が視界に飛び込む。


その赤は、ところどころ黒く汚れていた。


「バカ野郎っ!」

雅だった。


黒いスーツの連中が雅を追いかけてくる!


「五十嵐さん、飛ばして!」


「了解っ!」


メーターの数字が跳ね上がる。


金が積み上がっていく。


金か、人生か。


俺は迷わず踏み込んだ。



お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ