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「お粥食べれるか?」
高熱で寝ている双子の妹、サクラに声をかける。
でもサクラはうめくばかりで返事はない。
この孤児院は冷たい。特に病人には。
治療師を呼ぶ金はもちろんないし、薬すらも用意してくれない。自力で治すしかない。
ただ俺にできることは、ご飯を食べやすいようにお粥にしてやることと、冷たい井戸水に浸した布を当ててやるくらいだ。
それにそろそろ、近づくのすら禁止されかねない。
感染る病気だと孤児院が判断したら、サクラは隔離されてしまう。
そうなったらサクラは死ぬしかない。
これまでも酷い病になった子はみんな隔離されて、そして死んだ。サクラもそうなってもおかしくない。
たがらできるだけ早く治療が必要だ。
熱を下げる薬だけでも飲ませてやらないといけない。でも、そのための金がない。
やるしかない。もう誰かが死ぬのは嫌だ。いや他の誰よりも、血の繋がった妹に死んでほしくない。
町で金持ちそうな余所者を探して金を盗む。
それしか方法はない。
俺なら魔法でどうにかできる。
ただその前に薬の値段を知らないといけない。
「ちょっと待ってろ。すぐに薬を持ってくるから」
近くにいた同じ孤児院の少女、リオにサクラの世話をお願いして孤児院を出て薬屋へ向かう。
町にある唯一の庶民向けの薬屋の引き戸を開けた。
中にいた薬屋のおっさんが、俺を下から上まで目線でなぞる。そして嫌そうな顔をした。
「ここは薬屋だ。ガキの来るところじゃない。帰れ」
「薬が欲しいんです。熱を下げる薬はいくらですか?」
薬屋は鼻で笑った。
「お前じゃ買えねえよ」
「金はすぐ持ってきます。値段を教えてください」
「2両だ。無理だろ? さっさと帰れ」
「すぐ戻ってきます」
「2度来こなくていい」
薬屋が何か言っていたが、どうでもいい。
扉を閉めて、盗む相手を探しにいく。
高い宿屋に泊まろうとしている奴。そういう奴が狙い目だ。
できればまだ宿をとってなければいい。
町に来たばかりの奴なら、金を盗まれても騒ぎになりづらいはず。
宿街を見張って1時間くらい経ったと思う。早く薬を買って戻りたい。
サクラの世話は他の奴に頼んだが、世話といってもあの状態じゃ汗を拭くくらいしかできないだろう。
早くこい。早く来い。
そう願っていると獲物が来た。
「先生、宿はあそこでいいですか?」
「ああ構わないよ」
ちょっとだけ足のところが汚れているが、いい着物を着た爺さんと付人っぽい少女が歩いている。
金を出した所さえ見たら、一瞬で奪ってみせる。
宿って先払いなのか、それとも後払いなのか。
できれば先払いであって欲しい。
できれば宿の外で金のやり取りをして欲しい。そう願っていると、獲物は泊まる宿を決めたらしい。
「ごめんください。何日か泊まりたいんですが、部屋は空いていますか?」
少女が宿屋の下働きに向かって声をかけた。
「はいよ。お二人ですかい? 1部屋なら空いてますが、いいがでしょう?」
「一泊おいくらでしょうか?」
「うちは3食ご飯がついて1日5両でやらせていただいてます」
「それなら5日ほどお願いできますか?」
「失礼ですがお客様。一見様には先払いでお願いしておりますが」
「大丈夫ですよ。25両でいいですか?」
「ありがとうございます」
「ではこれで」
サクラと同じくらいの歳の少女から盗むのは少しだけ気が引けるが、他に選択肢はない。
少女が金を懐から出した瞬間、魔力で財布を引き寄せる。獲った。
「へ?」
少女の間抜な声が聞こえたがどうでもいい。さっさと逃げる。
走る。走る。魔力を全身に纏わせて、走り抜ける。
そしてそのまま薬屋に飛び込んだ。




