第六話: シグマ ―Sigma―
救助部隊の広間には、適合率の高い者たちが数十名集められていた。
今回のクロスリンク暴走を受け、政府が急遽立ち上げた特殊部隊――シグマ・プロトコル。
通称「シグマ」と呼ばれるこの組織は、クロスリンク内で発生する異常事態への対応、一般市民の救出、及び情報収集を主任務とする臨時の部隊だ。
その中で、颯真が所属するチームの発表が行われる。
「君たちはこれから5人チームで任務にあたる。まずはチーム編成を確認してほしい」
係員が順にチームメンバーの名前を読み上げる。
指示に従い、颯真を含む5名が集まった。
【チーム03】
Bランクストライカーが2名、オペレーターが1名、ルーキーが2名。
互いに視線を合わせず、まだぎこちない沈黙が漂う。
「神谷 颯真です。よろしくお願いします」
"Bランクストライカー"
沈黙に耐えかねて、颯真が自己紹介を始める。
自分の声が少し震えているのに気づき、肩をすくめた。
「二瓶 翔。」
"Bランクストライカー"
二瓶 翔〈にへい しょう〉――無表情で、目を合わせずに小さく頷く。短く端的。言葉少なで、何を考えているのか分からない。
「桐生 奈緒です。これから宜しくお願いします」
"オペレーター"
桐生 奈緒〈きりゅう なお〉――端末を抱え、柔らかく微笑む。優しく前向きな声に、少し安心感が湧く。
「山口 駿です……よろしくお願いします」
"ルーキー"
山口 駿〈やまぐち しゅん〉――小さく体を縮めながら名乗る。おどおどした声で、緊張と気弱さが伝わってくる。
「久保 大樹。……よろしく」
"ルーキー"
久保 大樹〈くぼ だいき〉――腕組みのまま、ぶっきらぼうに言う。無気力で生意気な口ぶり。やる気はあまり感じられない。
沈黙が少しだけ和らぐ。
一通り自己紹介や説明が終わると、上位ランク隊員たちがクロスリンク内で既に発生している異常への対処に向かっていることが告げられた。
「今回の任務は、まずサポートが中心だ。上位ランクの隊員の動きを補助し、必要な情報を収集することが目的となる。接続の為、5分後に一時閉鎖を解除する。速やかに準備しろ」
颯真は深呼吸する。
「分かった……まずは俺たちにできることをやろう」
チームは互いに視線を交わし、ぎこちなくも頷き合った。
チームのメンバー全員がクロスリンクへのログインを開始する。
仮想空間の暗い空に情報の光が渦巻き、彼らの使命の第一歩が動き出した。




