肆
翌日スーパーの休憩室で携帯を見るとまた大量の電話が。
「ハア〜、懲りないなあ〜」夫が生きてた頃の杏しか知らないから、吠えれば何とかなるとまだ勘違いしてるようだ。
電話に出る。
「ちょっと〜娘のインスタに何書き込んだのよ!
娘が学校行きたくないと部屋にこもってるわよ!」義姉がまくしたてる。
「お義姉さんが電話してきた内容をそのまま書いたんですが…花ちゃんからお母さんに注意してと。」丁寧に話す。
「ハア?なんで子供にそんな事!!!」お義姉さんは知らなかったようで絶句する。
「あら?お義姉さんもウチのコに家を売れと言ったんでしょ?一緒じゃないですか?
また同じことしたら…旦那さんの会社の社長にメールしますよ。若社長さん、インスタされてるじゃありませんか?」お義姉さんが黙る。
「これは誹謗中傷になりませんからね?
貴女が口にした事実ですから。
それとお金に困ってるなら、息子の香典をご両親が
ネコババしてますよ。そちらから頂いて下さい。では。」そのまま電話を切った。
「おまえらの生命線切ったるぞ。ナメんな」下を向いて小さく呟いた。
夫と死別するのは大変なのだ。
店長が休憩室の扉からビクビクとこっちを見てる。
「どうしましたか?」杏から声を掛ける。
「いや、パートさんからね、なんで正社員の杏さんが帰る時間が私達と同じなんだ?と苦情が来てね。」
正社員が夕方4時に帰るのが納得いかないらしい。
世間は旦那を亡くした人間に優しくない。
イメージがリアルに湧かないんだろう。
夫が正社員で働いて奥さんパートと1馬力の正社員が同じ土俵だと思うんだろか?
そう、思うなら自分も正社員になって4時帰りの交渉をすれば良いじゃないか?
「人の事に口出しする暇あるんですね〜」無表情に辺りのパートさんを見回す。
「面接で事情を説明して許可を取ってやってるんです。
え〜と、シンママいじめですかね?コレは?」店長が気色ばんでる。
しかし、せっかくの正社員だ。社会保険とか考えても失いたくない。
「でも会社はチームワークですからね。
私が4時帰りで士気が下がったら困りますよね?
子供達に迷惑かけますが、パートさんが不満らしいよと説明して6時まで働きます。
私はそのまま帰宅ではなく、次の仕事に行くまえに夕飯作りに帰るだけなんですが。」
ガタンと席を立つ。
「同じ土俵に居ると勘違いしてる人がいるんですかね?良いなあ〜子供と家で夜過ごせて!
シンママはそれも叶わないんですよ!」そのまま席を立ち仕事に戻る。
スナックのママが言ってた。
『戦え!子供達はアナタのその背中を見て育つと』
杏は成長した。が、こんな最強どうなんだろ?
ふと考えたら、主人が亡くなってから風邪も病気もなってない。
体調悪い事がまず無い。
「私、人間離れしてきてない?」ちょっと自分が不安になる。