参
近くにゲーム会社があるせいか?
若い客には、その会社の人が多い。そして、その奥には三茶警察署が…おかげでこのスナックは警察官とゲーム会社の社員ばかりだ。
駅への最短ルートがこの店の前の路地なのだ。
小さな店だが、話がカオス過ぎる。
ママがゲームの話は苦手なのか?
杏に全部丸投げする。
「マーズさんですか?スゴい!
ウチの主人はカプコ◯さんかマーズさんのゲームばかりしてましたよ〜」とか適当な事を言うと、どれ?とかツッコまれる。
「あの画家の金子國義さんに似た画風のゲーム画面大好きですよ〜女神転生なんか主人やってましたよ。」と
乗り切る。
杏はゲームが出来ないので、あくまで後ろで見てるのは好きだが。
「そう僕もその時代に入ったんだよね〜」と若手?と言っても30代くらいの男が溜め息をつく。
「子供が後を引き継いでペルソ◯シリーズもやってますよ〜好きですよ。」と適当に流そうとしたら、ギロッと睨まれた。
いつもは賑やかなのに彼が来るとゲーム会社の人間はサッサと帰っていく。
なにか…巻き込まれたくないような…
おかげで杏が矢面に立たされる。
きっと一生懸命なのだろう。
「僕は陰を戻したいんだ!でも金子さんじゃない!
新しい陰を戻したい!」と壁際に追い詰められた。
「ヒッ!」杏は悲鳴を上げる。
ママの方を見るが、こういうのは関わりたくないのか?無視された。
「オイっ、眼鏡の兄ちゃん。お姉さんが困ってるぞ。
ヤメロよ。」黒スーツの贅肉のないシャープな男がのそりと近付いてきた。
一重のつり目に長いセンター分けの髪がハラリと落ちる。
「黒猫?」まるで猫のようにしなやかな男が杏とゲーム会社の男の間に入る。
白いカッターシャツにテンパで眼鏡の男が憮然とする。
「なんだよ?お前は?」ハイボールをウイスキー濃い目でもう5杯も飲んでいる。
「あ〜っ、酔っ払っいだな、完全な。
仕事が行き詰まってるのか知らないが、飲み屋のお姉さんに当たったらダメだろ?」と言ってゲーム会社の男をグイッと引き戻しカウンターの席に戻した。
杏はホッとする。
時計を見るともう10時だ。
「ママ、すみません。上がります〜」2人の男を残してスナックを後にした。
携帯を見ると主人のお姉さんから何度も電話が入っていた。香典も返して貰えないし、あまり関わりたくないのに…
家に帰ると子供達は皆でゲームしてる。皆でカプコ◯の最新ホラーゲームをしてる。楽しそうだ。
ご飯は食べ終わって食器も洗ってくれてる。
「お母さん、おばさんから電話あったんだ。聞いてる?」1番上の娘がいつのまにかそばに居た。
「ゴメン、仕事忙しくて携帯見たのさっきなんだよね。」杏が謝りながら明日の朝のご飯の準備をする。
「だと思った。おばさんがね…いつのなったらこの家売って分け前くれるんだ?って。」長女の凛が心配そうに聞く。
「ハッ、何言ってんの?私達にどこで暮らせと?
だいたいお父さんのお金で買ったから、お姉さん関係ないのに?」杏が首をかしげる。
「お母さんから、そう、聞いてたから言ったんだ。
そしたら、それでも兄弟だし、家族なんだから
いくらか出すもんでしょ?って」凛が心配そうな顔をしてる。
「お父さんも可哀想に。お姉さんがそんなハイエナみたいな人になっちゃって…」本当は主人の両親もハイエナなんだが、我が子達は血縁なので言わない。
これがスナックのママが言ってた地獄の底かあ〜などと思いながら、目を閉じる。
『私が捕まらないからと、こんな子供にそんな言葉を浴びせるなんて…許せない!』怒りが沸々湧いてきた。
「ねっ、確か従姉妹の花ちゃんのインスタ知ってるよね?」杏が聞く。
「うん、花ちゃんのインスタ可愛いよ。今日も更新してた。」凛が携帯でそのページを見せてくれる。
「あら、可愛いわね〜♪
お母さん、コメントして良いかな?
ついでにママへの言付けしょっと♪」凛から借りてイイねして、コメントを書く。
「花ちゃんママが弟の金寄こせ!家売れ!ってうるさいの。
花ちゃんから注意してくれる?
ちゃんとママ働きなさい。稼ぎなさいって。」インスタのコメ欄に書いてあげた。
主人が生きてた頃の杏じゃあ、もう無い。
沢山泣いて生まれ変わったのだ。
『私の大事なものに手を出した奴は許さない!
地獄を見るのはお前らだ!』