たまには尖った異世界恋愛が見てみたい
(* ̄∇ ̄)ノ 奇才ノマが趣味を語る。
( ̄▽ ̄;) 一部作品のネタバレを含むます。ネタバレ嫌な人はブラウザバック。
「たまには尖った異世界恋愛ものが見てみたい」
「先輩、いきなりなんだ?」
「後輩君、僕がいろいろと読んでいるのは知っているだろう?」
「あぁ、俺は先輩を見て、本物の乱読家というのを知った気がする」
「悪役令嬢、乙女ゲーム転生、婚約破棄、というのも安心して見れる定番として悪くない。これはこれで、再放送される時代劇のような安定感があるし」
「定番ならではの安定感。『サザエさん』(長谷川町子)とか『ドラえもん』(藤子・F・不二雄)とかみたいなもんか?」
「そうそう、そういうのも悪くないけれど、たまには尖ったもの変わり種が見たくなる。定番から外れたもの。そうきたか、という驚きが感じられるもの」
「そういうのはランキングには乗りにくいし、探すのが難しいニッチなものになるか。で? 先輩の言う尖ったものって、例えば?」
「そうだね。『戦争を演じた神々たち』(大原まり子)は良かった。ある一組の夫婦がいる。その妻に助けられた主人公の男はその妻に恋してしまう。だがその妻は夫を愛していて裏切ることはできない性格」
「NTRか? 不倫にはならないのか?」
「その妻は夫も大事だが、自分に惚れた主人公の男に同情もしてしまう。なので妻は、自分のクローンを作って主人公の男にあげてしまう。二組の夫婦が誕生して、浮気も不倫も無くめでたしめでたし」
「未来の話だったのか? クローンか。科学技術が進歩すれば不倫は無くなるのか?」
「不倫は無くならないんじゃないかな? 見つからないようにコソコソとする背徳感を楽しむ人がいれば、浮気とは未来永劫、無くならないんじゃないかな?」
「異世界恋愛というよりはSFになりそうな。センスオブワンダーを感じたぞ」
「異世界を感じさせてくれる恋愛感、というのもジャンル異世界恋愛じゃないかい? たまにはそんな尖ったものを見たくなる。他には、『宇宙生命図鑑 ―book of cosmos―』(小林めぐみ)のような世界観もいい。これは女しかいない星の宇宙人の物語だ」
「女しかいないのか。ゆりゆりしてんのか、いちゃいちゃてえてえなのか」
「モデルはミジンコだと思う。平和なときには単性生殖でクローンを残す。環境の変化から進化して適応しようというときにだけ、オスが誕生して有性生殖になる」
「独特の恋愛観がありそうだ」
「その独特な部分が深く作り込まれているところがおもしろいよ。この小説はジェンダーSF研究会によるSense of Gender賞を受賞した小説だ。同じ賞を受賞したもので『スワロウテイル人工少女販売処』(籘真千歳)がある。この世界では男は男の自治区に、女は女の自治区に住み異性と顔を合わせることも無く暮らす。完全な男女平等社会だね」
「それでどうやって恋愛するんだ?」
「男性自治区には人の女そっくりの人工生命体が、女性自治区には人の男そっくりの人工生命体がいる。なので問題無し」
「問題しか無いような気もするが、住めば都なのかもな。異性恐怖症の楽園かも」
「連続殺人事件が起きて、その被害者が子宮を持つ男性というのもおもしろい」
「子宮を持つ男……、男と女って、なんなんだろうな?」
「電車の女性専用車両を発展させた先にあるのは、女性専用自治区、女性専用社会というものかな。いっそ日本でも試してみればいいのにね。女性専用県で男性立ち入り禁止、男性専用県で女性立ち入り禁止、とかね」
「少産化対策の新しいアイディアが誕生するかもな」
「後輩君は何かオススメのものはないかい?」
「そういう特殊なものとなると、マンガの『御石神落とし』(原:永久保貴一、画:増田剛)とか? 性行前にバトルして、相手にモリを打ち込んだ方が男、モリを打ち込まれた方が女になる、とかあったな」
「お、いいマンガを読んでいるね。カタツムリの交尾の恋矢だね」
「これは恋愛もの、になるのか? 他に虫っぽいのだと『ヒメノスピア』(原:村田真哉、画:柳井伸彦)とか。蜂のように女王に忠誠を尽くす兵隊のハーレムって感じだけど、女子高生ばかりでゆりゆりしてた」
「人もミツバチのようであれば、浮気も不倫も無いだろうにね。知ってるかい後輩くん? ミツバチのオスはね、女王との交尾が終わったあと、オスは挿入した性器と貯精嚢を女王の膣に残したまま、腹部からちぎれて空から地上に落下して死ぬんだ」
「そりゃ浮気も不倫もできないな。一回ヤった直後に死ぬ運命か」
「チョウチンアンコウもおもしろいよね。オスの体長はメスの15分の1と小さい」
「身長差15倍のカップルか。メス、でっかいなあ。男から見たらモビルスーツか?」
「小さなオスは大きなメスの身体の表面にとりつき、やがてメスの身体に融合してしまう。命も身体も全てメスに捧げて、メスの身体に溶けていき死んで子孫を残す、雌雄融合だ」
「命懸けの捨て身の恋にもほどがある」
「ちなみにモテモテのメスは身体に何匹もオスをぶら下げているという」
「オスはアクセサリーか? いや人間でもオスのステイタスはメスのアクセサリーみたいなもんか」
「男の役割が遺伝子という種を蒔くこと、となれば。子供ができたら資源の無駄遣いをしないように死んでくれ、というのも過酷な生存競争を生きる生物のやり方として正しいのかもね」
「人間の社会はぬるいから生存が可能という風にも聞こえる。次代を育てる社会を作る、ということで生存が許されてるのかもな」
「男女の違いで言うと『千獄のアンデュロメイア』(Monjiroh、N7063FR)がおもしろい。男女で役割がキッチリ別れている世界観だ。島の女たちが、どの島の男がいいかランキングを作るところとかおもしろかった。筋肉は全てを解決する」
「特殊な世界観となるとSFで探した方が良さそうだ。女しかいなくなった未来の世界、映画の『SFバイオワールド/女帝国の謎』とか」
「1983年のポーランド映画、もとのタイトルは『SEX MISSION』だね。転生したらハーレムだった、の元祖がこの映画かな? コールドスリープから目覚めたら男は全滅していた未来の世界だったというもの」
「これがマンガの『終末のハーレム』(原:LINK、画:宵野コタロー)のもとネタか?」
「どうだろうね? 男女の比率が変化した世界というのは思いつきやすいんじゃないかな? 魚のギンブナのようにオスがほとんどいないとか、ミツバチも巣の群れの中でオスは全体の1割しかいないとか、男女比が極端な生物というのもいる。モデルにしやすいんじゃないかな」
「なるほど、男女比は1対1と決まってる訳では無いと」
「小説『エイリアンに支配された日常と非日常 ~頭の良いアホなエイリアンに支配されて、地球は大変な事になってしまいました~』(クロウクロウ、N5802EX)はなかなかスゴイよ。宇宙人が地球上からセクハラを無くすために、男を全て女に変えてしまう」
「なにしてくれてんだ宇宙人?」
「なにせ、頭の良いアホなエイリアンだからね。この小説はなかなか痛烈な風刺を含んでいて刺激になる」
「男がいなくなったら、その世界の恋愛ものとかエロいものとかどうなってしまうのか?」
「その辺りの思考実験として面白いんじゃないか」
「ハーレムものがマシに思えてきた」
「ハーレムというか一夫多妻も時代によって必要とされる。戦争が多く男が戦でよく死ぬ時代では、一夫一妻に拘ると未亡人ばかり増えてしまう。平和な時代で男があまり死なないとなれば、遺産相続で揉めないように一夫一妻にした方が都合がいい」
「つまり、戦時には女性も男性と同じ比率で前線に行くなら男女平等ということか」
「生物の目的が子孫を繁栄させて種を残すことなら、その男女平等は使い方がおかしいよね」
「人としての正しさと生物としての最適解は違うものになるのかもな」
「一夫多妻が社会に根付くところでは、妹が結婚するとき、姉が未亡人ならついでに一緒に結婚したりする。人は家族で支えあって生きる者とすれば、道徳的に正しいとも思えるね」
「男がポンポン死んで数が少ない社会だとそうなるのか。ところで、男が少なく女が多いとハーレムになってわりと明るい感じになるけど。男が30人で女が1人で島に暮らすと、アナタハンの女王事件のように殺伐とするのはなんでだろ?」
「男の方が奪いあいから即、殺人に繋がるからじゃないかな? 人間の場合、男が戦う為に骨格も筋肉も強くなるように進化しているからね。女の場合は殺すのは保険金目当てとかになるか。いや、マンガ『碧いホルスの瞳 ――男装の女王の物語――』(犬童千絵)では、血統を大事にする王族が兄と妹を結婚させようとして、妹は兄が嫌い過ぎて毒殺してるか」
「怖い兄妹ゲンカもあったもんだ。兄妹なら仲良くすればいいのに。マンガの『pupa』(茂木清香)のように」
「お兄ちゃんが好きすぎて、お兄ちゃんを食べる妹のカニバな愛、か」
「いや、お兄ちゃんは再生力高くて、ちょっとぐらい食べられても死なないから」
「それで言うと『魔界食肉日和』(トネリコ、N0769DT)はいいね。好きだー結婚しよーぜー、と言いながらトカゲの腕をもっしゃもっしゃと食べるワニ。血をぶっしゃーと流しつつもまた腕が生えてくるトカゲの恋物語」
「それジャンルはなんて言うんだ? スラッシュラブ? せめてマンガの『羊のうた』(冬目景)くらいのものにしてくれないか?」
「そっちはどんな話だっけ?」
「吸血衝動を世間に隠して暮らす姉と弟の話」
「ほう、後輩くんは近親相姦が好みかい?」
「いや、そんなつもりは無いが。そこに追い込まれてしまった人、という物語が好きなのかもな。『BLOODLINK: 獣と神と人』(山下卓)とか『妖聖記』(竹河聖)とか」
「人喰いにクトゥルフか。真っ当な人間同士の恋愛では無さそうだ」
「そういう話を見たかったんじゃないのか先輩? 純愛なら、ゲームの『ワンダと巨像』とか? 死んだ彼女を甦らせるために死体を禁断の地まで運んだ主人公とか」
「マンガの『パンデモニウム ――魔術師の村――』(柴本翔)のようだね。ふむ、どうして恋人を生き返らせようという物語は、主人公が男が多いのだろう? 小説『闇魔術師ネフィリス 聖なる暗黒』(梅津裕一)は娘を生き返らせようとする父親が主人公だし。ギリシア神話のオルフェウス、日本神話のイザナギ、愛する人を生き返らせようというのは昔から男のようだね」
「そこは女の方が男より現実的だからじゃね? 死者は死者と割りきるというか、男の方が後を引きずり夢見がちというか」
「なるほど、そこで男性向け、女性向けの差違が出るのかもね」
「女が主人公、でおもしろかったのは、『暁のビザンティラ』(菅浩江)とか? 女武人が主人公の少女を助けて旅をする。この話は、やがて少女が女武人に惹かれていくんだが、実は女武人は呪いで女に変えられてしまった王子様だったという」
「呪いで性別を変えられた王子、か。いいね、そういう想像の刺激になるような要素があると、この先どうなる? と興味が湧く」
「オチとしては呪いが解けて女武人は男に戻り、少女とくっついてハッピーエンド、なんだが。これには一部からは、『男に戻っちゃダメなんやあ! 女の姿のままでイチャイチャして欲しいんやあ!』と、不満を感じる人もいたり」
「なんだか『美女と野獣』(Gabrielle-Suzanne Barbot de Villeneuve)のようだね。アレもレベルの高い人は野獣が人間に戻るところで残念に感じてしまうという」
「そりゃ当然だろ。愛をテーマとしながら最後は見た目かよ、ってなる。結局、見た目がイケメンじゃないとダメなんじゃないか。真心どうしたよ」
「見た目か。最近の異類婚姻譚ではケモ耳もオッケーという人もいるけど、相手が人の形かどうかというのはひとつのキーポイントになるか」
「ケモ耳の何がいいって、相手が人じゃ無いから人権を考慮しなくていい、とコメント拾って言ってしまいその後、謝罪会見したVチューバーがいたっけ」
「それはなかなか近代的で斬新な異類婚姻譚だ。人権と来たか。ところで『浦島太郎』は亀が乙姫で亀女房だったのに明治以降、亀と乙姫が別のキャラクターになっていったんだよね。亀だと何がダメだったのかな?」
「うーむ、亀とどうやってエロイことするのか想像がつかないとことか?」
「愛から即エロなんてのはアダルトコンテンツのようだね。人では無いものとの婚姻となると、リアルではイギリスで犬や猫、イルカと結婚した事例があるか」
「は? 動物と結婚って、それ社会的にはどうなるんだ?」
「イギリスでは人間の異性以外の動物との婚姻は合法だよ。世界を見れば人間が人間以外と結婚した事例はいくつもある。
ネパールのとある部族では、再び歯が生える老人は犬を花嫁として迎えるべきだ、という習わしがあるし、インドでは村で病が出ないようにとカエルと結婚した少女もいる。
同じ人間の異性としか法律上婚姻は認めない、という方が狭量なんじゃないかい?」
「あぁ、犬とか猫とかと結婚してもいい社会となれば、同性婚なんてたいした問題では無いか」
「それで言うと小説『ヘルシー彼氏ケンジ』(ナチ、N4204CF)はいいね。ダイエットしたい女性と彼氏面する体重計との恋物語」
「彼氏面する体重計というのが、既になんというか……、あたおか?」
「何を言うんだい後輩君。あたおかとは失礼な。未来においては、イケメンボイスで愛を囁く体重計とか冷蔵庫とか、家電に恋する乙女が現れるかもしれないじゃないか。現代でも人工知能と結婚したいという人がいる。ゲームのキャラクターに恋するのとあまり変わらないだろうに」
「せめて家電じゃなくて人型ロボットとかにしてくれんかな。それなら理解できそうだ」
「演劇の『トランスホーム リフォーム』(TEAM 発砲・B・ZIN)では冷蔵庫が人型に変形するけれど、これならいいのかい?」
「冷蔵庫が人型ロボットに変形する理由と意味が分からない」
「息子の将来を心配した母親の霊が冷蔵庫に取り憑くんだ。で、トランスホーム!の掛け声と共に冷蔵庫がお母さんに変形する」
「科学と見せかけてオカルトだった」
「人とロボットの恋となると『火の鳥復活編』(手塚治虫)だね。主人公は交通事故で瀕死の重症を負う。それが手術により脳も含めて体の大半を人工物と交換することで生き長らえる。しかし後遺症により生物が無機質の塊にしか見えなくなってしまった。代わりに人工物が生物に見えるようになる。そして作業用ロボットに恋してしまう」
「脳まで機械に置き換えたなら、そいつは人間なんだろうか?」
「何を持って人間とするか、人間らしさとは何か、恋愛感情からヒューマニズムを探るのも恋愛物語の醍醐味なんじゃないかい? 『攻殻機動隊』(士郎正宗)においては、主人公はラストに情報の海から誕生した新しい生命体と結ばれるよ」
「それは恋なのか? 愛なのか? いや、自分に無いものを求めることも恋愛感情の一種か?」
「サイボーグと人の恋物語となると、『間の楔』(吉原理恵子)かな。脳だけが生身で全身人工体のエリートが支配する世界。そのエリートの1人が主人公の男をペットに飼う物語」
「人間が機械のペットになった世界か」
「AIが進歩した先にはこんな未来もあるかもね。政治も経済も軍事もAIに任せるようになったら、人の役目なんてAIに癒しを与えるペットか愛人くらいしか、できること無いんじゃないかな?」
「そりゃまた素晴らしいディストピアで」
「ちなみに『間の楔』では、男女比9対1の世界で女性は政府が人口調整の為に管理している。なので街には男しかいない。男同士の恋愛や性行が当たり前の世界観だ。主役の二人は生身の人の美少年と全身サイボーグの美青年。主人とペットの関係」
「なんというか、倒錯が行き過ぎているような」
「人が人以外の存在に恋することもあるし、そうなれば人以外の存在が人に恋するのもいいんじゃないか? 後輩君はそういうのは何かないかい?」
「人と人外の恋ねえ。あぁ、そういうのが異類婚姻譚か。だったら『最弱獣の献身』(白銀トオル、N4757CU)か? 異世界の最強種族の獣に転生してしまった女が主人公で、森で出会った迷子の少年を保護する。転生もので、もと人間の価値観とか考え方に囚われて葛藤するところとかおもしろかった」
「そういう違いを浮き彫りにするところが異なる世界との接触というドラマだよね。そういうのだとマンガの『幽形聖境クークラ』(原:田沢孔治 画:御船麻砥)がオススメだ」
「それはどんな話?」
「妖魔の女王と人間の少年が結婚するまでの話。異類婚姻譚はいくつか読んだが、このクークラのラストは他に類を見ないもので、最終話のタイトル、マトリョーシカの意味を理解したときには背筋が震えたね」
「マトリョーシカって人形の中に人形の入ってる、ロシアの入れ子人形だよな。人形相手にするとなると、マンガの『宵闇眩燈草紙』(八房龍之助)とか?」
「アレ、恋愛要素あったかね?」
「あるだろ。ほら、人形師が愛する人の死体から顔の皮を剥いで、自分の人形の顔に張り付ける」
「あぁ、またネクロマンチストなものを。せめて『塊根の花 ジャック&ジュネ』(八房龍之助)のようなカップルを持ってきては?」
「アレも良かったな。ジュネが今のジャックとの関係を守るために、かつての幼馴染みを殺すとことかゾクッとした」
「後輩くんはイカれた女性が好みなのかい?」
「先輩がそれを俺に聞くのか? まあでも、行き着いた人というのは魅力があるよな。マンガの『危ノーマル系女子』(真田ジューイチ)とか、小説の『電波的な彼女』(片山憲太郎)とか楽しんではいるか」
「『電波的な彼女』はいいね。2004年に刊行された小説だが、その中身はまるで現代の予言書じゃないか。人を自殺するまで追い詰める独善的な正義感が蔓延する空気感、とかね」
「こうなるかもしれない、という未来への警告も含んでいた物語なのかもな」
「未来を描くというものでは、コレの世界観での恋物語とはどうなるのだろうね? 映画の『26世紀青年』原題は『Idiocracy』2006年のアメリカ映画だ。
この映画では500年後のアメリカが描かれるんだが、その未来世界は類を見ない斬新なものだ」
「500年後の未来か。どんなディストピアなんだ?」
「IQの高い夫婦は子育てについて真面目に考え、なかなか子供を作ろうとしない。一方でIQの低い夫婦は後先考えずに子供を作り、浮気相手からも妊娠した、と電話が来たり。
賢い夫婦は子供を作らず、おバカな夫婦はどんどん妊娠して子供を増やす。
これを500年繰り返した結果、賢い遺伝子は淘汰され、おバカしかいなくなった未来のアメリカが舞台のブラックコメディだ」
「そりゃスゴイな。未来にはバカしかいないのか」
「まさしくアホカリプス。『Idiocracy』とはIdiot、バカ、間抜けの意味と、cracyは、〇〇による支配を意味する接尾辞を合わせたもの。democracyが民主主義なら、Idiocracyとは間抜け主義のことだ。こんなおバカしかいない未来の恋愛物語とはどうなるだろうね?」
「無いんじゃないか? 『好きっ! しよっ!』『うんっ!』となって、恋の駆け引きも愛の障害も無くなってるんじゃないか?」
「多様性が大事、と理解しないままに口にするのが当然となった先にあるのは、本能と衝動がダダ漏れの社会になるだろうね」
「それイカれた妄言に多様性のレッテルを貼ってるだけなんじゃないか? ところで先輩、なんでこんな感想の話し合いになった?」
「それはだね、後輩君。このコンテンツ飽和時代に自分の好みにあったものを探すのがたいへんだからだよ。2022年、小説家になろうの異世界恋愛には6万を越える作品がある」
「6万作品とは。1日ひとつ読んで6万日は楽しめるな」
「僕のような活字中毒が好みに合うものを探すのは難しいんだよ。なのでこんな話をしたら僕の趣味に合うものを教えてもらえないかな? とね。こんな尖った世界観の小説があるぞ、とか、こんなイカれたカップルを書いてみた、なんて。自薦他薦を問わずに感想欄で張り付けてもらえないかな?」
「他人にスコップさせる為にダベッてたのかよ」
「僕と似たような趣味の人にも需要あるんじゃないかい? それにこういった部分。作品や商品を必要とするエンドユーザーと生産者を結びつけるマネジメントが弱い、というのがランキングへの不満や日本経済の低迷にも繋がっているのだよ」
「まさか小説投稿サイトのランキングと経済の問題点に関連があるとは」
「母数が増えるほどに専門的なもの、マニア受けするものが埋もれがちになる。エンタメを意識しすぎれば、おもしろさよりも分かりやすさを重視するようになる。これが新たな知見を得ることを楽しみとする層とは衝突するようになる」
「面白くなくても分かりやすい方がいい人と、分かりにくくとも面白い方がいい人では、好みは違うか。皆が知ってるから話のネタにする為に消費するコンテンツとなると、分かりやすさ重視になるか」
「なので僕の好みを述べつつ、小説を書く人には想像の刺激になりそうなものを言ってみた。この世に物語が数限りなくあるのは、人によって刺さるものが違うから。この個人の趣味とそれにあったコンテンツを結びつける分野というのが、これから発展していかないかな?」
「そういうのはドイツの書店員みたく、専門の資格を持つ人を育てる職業学校とか?」
「小説家になろう、ならば、『信仰は現実という煉獄をくぐり抜けねばならない (「カラマーゾフの兄弟」について)』(ヤマダヒフミ、N1688HL)のような評論や、『読書のススメ あなたは『走れメロス』をどう読んだ?』(鶴舞麟太郎、N8638HK)といった、読書感想文のようなエッセイが出てくるとかね」
「ゲームならプレイ実況、アニメなら同時視聴とかあるが、小説やマンガには無いか」
「異世界恋愛なら、『愛しのヘルガ』(平井星人、N0939EU)の第五話『罪深き純真』とか好きなんだよね。こういうのが増えないかな?」
「まあ、俺や僕先輩の好みになるものは、絶対にメジャーヒットはしないからな。悲しい性というものか」
BGM
『Black in truth』
BAROQUE MODE
BAROQUEオープニング




