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ある公爵家に起きた顛末  作者: じいちゃんっ子
第1章 愚かな公爵家夫人ミッシェル
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第2話 どうしてこうなったの.... 前編

 ヒューズからの手紙にお母様は怒りを爆発させた。


「身の程知らずめ!思い知らせてやる!!」


 そう息巻いていたお母様は知り合いに大量の手紙を送った。

 しかし返って来た返事に、


「どうしてなの...」


 そう言って項垂れた。

 そしてハラウムも、


「許さんぞヒューズ!!」


 取り引きを全て停止され、予め仕入れていた医薬品の在庫に怒り心頭だった。


「私をなめるな!このハラウム商会をな!!」


 そう言っていだが、医薬品はどこにも出荷されなかった。


「畜生...ヒューズめ」


 ヒューズが各所に手回しをしたらしい。

 ハラウム商会は王国だけでは無い、他国にも取り引きを断られてしまった。


「国王陛下に直訴するしかないわね」


「聡明な国王陛下様にヒューズの悪行を告発するのだ!」


 こうして私達はハミルトン領を発ち、王都へと向かう事となった。


「お母様...」


「大丈夫よアランド」


 不安な顔で私を見るアランドの頭をそっと撫で微笑む。

 親である私が不安な様子を見せてはダメだ。

 この子だけでも助けなくては。


 ハロルドには悪いが、この子こそ正統なハミルトン公爵の後継者なのだから。


「そろそろですよ」


「ありがとう」


 サライの声に馬車から顔を出すと懐かしい王都の門が見えて来た。


「何をするか!」


 サライの怒鳴り声に私達は顔を見合せる。

 次の瞬間、馬車の扉が乱暴に開いた。


「ここで降りろ」


「は?」


 門を護る衛兵が私達に降りる様命じた。

 意味がわからない、まだ王宮までかなりの距離があるのに?


「貴方達は何を言ってるか分かっているの?

 私達はハミルトン公爵の者よ」


「そうだ、不敬な扱いは許さぬぞ」


 お母様とハラウムが衛兵に叫んだ。


「陛下の命である。

 文句があるならこの場で捕らえても構わぬのだ」


「な...なんですって?」


「...まさか」


 呆然とするお母様達だが、もう既に私は気づいていた。

 ヒューズの怒りは本物。

 国王陛下の信任も厚いヒューズはおそらく、親友であるハリス王子と計らい、幾重にも準備していたのだ。

ヒューズからの手紙に王印がされていたのが、何よりの証拠だったのに...


「お母様、降りましょう」


「何を言うのミッシェル!

 貴女はハミルトン公爵の正統なのよ!」


「そうだとも、ましてやアランドは次期ハミルトン公爵を継ぐのだぞ!」


 ダメだ、2人は全く理解出来ていない。


「仕方ない」


「何をするか!」


「痛い!離しなさい!」


 衛兵達が縄でお母様達を縛りあげる。

 その様子にアランドが泣き始めた。


「どうなさいますか?」


 縛られたお母様とハラウムは馬車から蹴り落とされ、地面に身体を打ち付け動かなくなった。

 気を失ったみたいだ。


「私はどうなっても構いません、でもアランドだけは」


「ダメだ、自分でおぶって行け」


「そんな...」


 無慈悲な言葉に目の前が暗くなる。

 王宮まで歩くとなると、数時間は掛かってしまうじゃないか。

 ましてやアランドをおぶるとなれば、半日は覚悟をしないと。


「嫌なら...」


「分かりました!だから止めて!!」


 アランドに縄を掛けようとする衛兵に頭を下げた。

 もう観念するしかなかった。


「お母様...熱いよ」


「我慢して...もう少しだから」


 夏の日差しが容赦なく照りつける。

 喉が乾く、私は良いが、アランドだけでも


「お母様!」


 後ろ手に縛られ、猿轡でしゃべる事が出来ないお母様が倒れた。


「おい」


「...はい」


 すっかり観念し、怯えたハラウムに衛兵が近づく。

 何を言うつもりなの?


「コイツをおぶれ」


「え?」


「聞こえ無かったか?コイツをおぶれと言ったのだ」


「どうして俺が?」


「情夫の務めだろ」


「...なぜそれを?」


「..嘘よね?」


 ハラウムがお母様の情夫(愛人)

 そんな馬鹿な!!


「早くしないとこの場で貴様の罪状もぶちまけるぞ」


「ま、待ってくれ!!」


 慌ててハラウムは気を失ったお母様を背中におぶる。

 私から顔を背け、真っ青なハラウム。

 言葉が出なかった。


 王都の人々が私達を見ている。

 その中に知った人もいて、恥辱で気が狂いそうだ。

 私はそんな酷い事をしたの?

 幸せになりたかっただけなのに。


「ここまでだ、後はこれに乗れ」


「これは?」


 限界寸前の私達に衛兵は一台の馬車を指差した。

 鉄格子の馬車...


「早く乗れ、陛下の慈悲だ」


「分かりました」


 罪人が乗る馬車。

 しかしもう歩けない、私達は項垂れながら鉄格子の中に入り、ハラウムとお母様は縄を(ほど)かれた。


「水だ、その子に飲ませなさい」


 衛兵が水筒を鉄格子の中に差し入れた。

 ありがたい、早くアランドに飲ませなくては。


「ありがとうござ...」

「貸せ!」


「何をするの!!」


 ハラウムが水筒を引ったくる。

 貴方の子供なのに!


「うるさい!」


「早く!!全部飲んだら許さないわよ」


「黙れババア!!」


「ババアですって!!」


 意識を取り戻したお母様とハラウムが水筒を取り合って取っ組み合いを始める。

 余りにも見苦しい光景に益々民衆の注目が集まり、もう消えてしまいたい...


「ほら」


「...すみません」


 私達の様子に衛兵は呆れながら新しい水筒と冷えたハンカチをそっと手渡した。


「これは?」


 手拭いに施された刺繍に息が詰まる。

 それは私がした物、ヒューズの為に私が。

 結婚当初、知り合いの居ない王都で、一人帰りを待つ私がヒューズの為に...


『ありがとうミッシェル』


『いいえ』

 ヒューズは刺繍の入ったハンカチを受け取り、嬉しそうに笑ったっけ。


 幸せだった...どうして私は...あのままヒューズを愛せなかったの?

 そっとハンカチをアランドの頭に被せ、水を飲ませる。

 溢れ落ちる涙を止める事が出来なかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] これ、男女を入れ替えると、「婚約変更したのに、元婚約者と縁切らないどころか托卵して、“お飾りの妻”を捨てて“真実の愛”に生きようとする――ついでに真実の愛の結晶に爵位等を回そうとする――クソ…
[一言] うえーんこの家気持ち悪すぎるよー とっとと処しちゃっておくんなましー
[良い点] 徹頭徹尾クズな主犯なのに、自分だけは お母様とは違うんですって態度が 味わい深い。 自由にしてあげたいとか、好き放題の 浮気と托卵と追放の三冠王の謀略の スローガンも秀逸 悪徳を自覚してる…
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