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ある公爵家に起きた顛末  作者: じいちゃんっ子
第1章 愚かな公爵家夫人ミッシェル
2/14

閑話 やってしまったな

 1日の診察が終わり、疲れきった身体を引き摺る様に帰宅する。

 勤務先である王立医院から程近い場所に建てられた邸宅。

 このエリアは全て王立医院の関係者が住んでいる。


 「...広すぎるんだよ」


 一人者の俺には広すぎる邸宅。

 屋敷を管理する使用人を一応雇ってはいるが、もう必要ない。

 なぜなら、ミッシェルはこの家に帰って来る事は無いのだから...


「ヒューズ、遅かったな」


「お疲れ様ヒューズ」


 家の鍵は開いており、中に入ると2人の男女が俺を迎えた。

 公爵の住む家に無断で入る事は常識ではあり得ない。

 しかし、この2人は特別なのだ。


「ハリス殿下、ミリス様も」


 ハリス殿下はこの国の第三王子。

 王立医院の院長を務める優秀な医師。

 俺の学友であり、上司、そして親友だ。


「ハリスでいいよ」


 気さくに言うが、そう言う訳にいかない。


「そうよ私もミリスで、友人じゃない。

 いいえ、それ以上か」


「何を言うんですか」


 ミリス様はハリス殿下と15歳年下の妹、つまり王女様。

 彼女は現在、王立医院付属医師養成学校で教師をしている。


「相変わらず固いな」


「それがヒューズの良いところだけど」


 気さく過ぎる。

 まあハリス殿下とは20年以上の付き合いだ。

 ミリス様に至っては彼女が幼少期からの知り合いだし。


「...そうですか」


 諦めよう、今は俺の他に関係者は誰も居ないし。


「で、どうだ?」


「どうとは?」


「アイツらだ、もうとっくに書面は届いただろ。

 返事が来る頃じゃないか?」


 やはり来訪の理由はそれか。

 気に掛けていてくれていたのは嬉しいが。


「まあ...一応な」


「見せてみろ」


 ハリス殿下は手を差し出す。

 確かに書面は昨日届いていたが、王族であるハリス殿下達が知らない筈無かった。


「ほう...」


 読み進める2人の表情が曇る。

 書面の内容はハミルトン領と爵位は先代の子であるミッシェルが正統後継者であり、俺の退位を迫る内容だった。


「酷いわ!ヒューズを何だと思ってるの?」


「仕方ないさ、俺は元々平民だからな」


「今はハミルトン公爵の当主じゃないか」


「そうよ!」


 怒ってくれる2人の気持ちはありがたい。

 しかし、向こうの奴等はそう考えていなかった。

 俺なりに一生懸命ハミルトン家に尽くしたつもりだったが。


「向こうは、そう思ってなかったって事だよ」


 無駄な結婚生活だった。

 ミッシェルの事情は知っていた。

 恋人と引き裂かれ、未練を残しての結婚だった事も。

 だから寂しい思いをしない様、里帰りも許したが、完全に裏目となった。


「王宮にも届いたよ」


「王宮に?」


「ああ、ババアからな」


「ババア?」


「前ハミルトン公爵サラ夫人からだ」


「ああサラ様か」


 ババアとは大変な言い方だ。

 聞いたらあの人の事だ、王族相手でも噛みつくかもしれない。

 プライドだけは高かったからな。


「ほら見てみろ」


「良いのか、王族宛だろ?」


 王族に届いた手紙を見せても良いのだろうか?


「構わんさ」


「そうよ、ヒューズはもう家族みたいなものなんだから」


「ミリス様、それは...」


 一体何を言うのだ、意味がわからない。


「良いから読め」


「分かったよ」


 敬語は止めよう、疲れて来たし。


「...酷いな」


 余りの内容に思わず本音が出る。

 俺がハミルトン公爵家を乗っ取り、咎めたミッシェルとその家族を追放し、秘かに囲っていた愛人を妻に迎えるつもり。

 見るに耐えない荒唐無稽な内容だった。


「父上も呆れていたよ」


「陛下が?」


 国王陛下がこれを見たのか、頭が痛くなってきた。

 身内の恥では済まないな。


「それで今日、キャメロン侯爵を呼び出してな」


「キャメロン侯爵様を?」


 キャメロン侯爵は前ハミルトン公爵夫人サラの実家じゃないか。

 当主ジョンソン様の紹介で俺はミッシェルと結婚したのだ。


「様は要らんぞ、お前の方が爵位は上だろ」


「いやしかし...」


 簡単に割り切れない。

 ジョンソン様は元上司だ、今は退職されたが。


「サラを絶縁するとさ」


「なに?」


 絶縁とは、サラ達は戻る先を失った訳か。

 退路がまた一つ断たれたな。


「当然じゃないの?あんな事やらかしたんだから」


「そう...だな」


 不敬な手紙を直訴、真実は全て国が把握済み。

 最早あの連中に明日は来ないな。


「キャメロン侯爵はその場で息子に爵位を譲って隠居を父上に申し出たぞ。

 それと伝言だ『妹が申し訳ない、改めてお詫びしたい』と」


「...そうか」


 世話になった人のお詫びに胸が痛くなる。

 やはりハミルトン公爵家の縁談を断れば良かったのだ。


「まだお前はハミルトン公爵を?」


「当然だ、先代にはお世話になった」


 篤志家で名高かった前ハミルトン公爵。

 彼は私費を投じ、王国内に沢山の私学校を設立した。

 俺の様に騎士爵だった親と爵位を失った孤児院上がりに教育のチャンスを与えて下ったんだ。


 だから、ハミルトン家の危機を知り、何とか力になろうと...

 やはり、金銭の援助のみに留めるべきだった。

 熱心なジョンソン様とミッシェルの美しさに目が眩んだ俺も悪い。


「ハミルトン前公爵は忠臣だったな」


「そうね、私も可愛がって貰ったわ」


 2人が頷く。

 国王陛下もハミルトン公爵が亡くなった時は弔慰金を下賜された程だ。

 しかし、残されたハミルトン公爵家は商才も、領地経営能力すら無く、かといって贅を止めらず衰退した。


 だから立て直す為に俺は私財と、ミッシェルの元婚約者のハラウムに商売をさせたのだ。

 ハラウムに対するお詫びだった。

 裏切られたが。


「あのハラウムとか言う奴もかなりだ」


「だな」


 ハリスは知っているからな。

 下の息子、アランドがハラウムの種だと。


「それ以上だ、ハラウムを調べさせて貰った」


「本当、吐き気がしたわ」


「これは...」


 ハリスがもう一通の封書を差し出す。

 中を見ると新たなハラウムのやらかしが書かれていた。


「...気持ちが悪いな」


 一途にミッシェルを愛していたのなら、多少の事は目を瞑るつもりだったが、これは看過出来ない。

 ハラウムも破滅か。


「連中は二日前にハミルトン領を出たそうだ」


「そうか」


 こちらが全て知ってる事を知らず、直訴でもするつもりだろう。


 ここまで馬を飛ばせば3日だが、馬車だから一週間、って事はあと4、5日で到着だ。


「安心しろ、悪いようにはせんさ」


「そうよヒューズ、貴方の立場は磐石なんだから」


「うむ」


 そんな事は心配してない。

 だが、息子が哀れだ。


「ハロルドの事なら心配するな」


「そうよ、ハロルド君は紛れもなく貴方の子供だから」


「それは分かってるさ」


 黒髪、黒目は珍しいからな。

 ハミルトン家の関係者では俺以外一人も居なかったし、顔も俺そっくりだ。

 ちょっと将来が心配かもしれん。


「ハロルドは本物だ、あの頭脳は我がサルマン王国の宝だからな」


「ヒューズ、貴方もね」


「ありがとう」


 世界に冠たるサルマン王国の医療レベル。

 その養成機関でハロルドは群を抜いて優秀。

 これだけはミッシェルに感謝だ。


 ハロルドだけが俺を尊敬してくれている。

 だから気持ちが折れなかったんだ。


『ミッシェル...お前達はやってしまった』

 虎の尾を踏んでしまったのだ。


 覚悟するんだな。

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