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遠出デートをする 2

「……犯人は女ですよきっと」

「え?何の話し?」


 美味しい生パスタをほうばってしっかり咀嚼し終わったくらいで言う。

 スマホを眺めていた相手は不思議そうにこちらを見た。


「ほら。犯罪で毒を使うのは女が多いって」

「あの場に居た女性は当人の他は君だけなんだがそれは自白ということ?」

「……そうでしたっけ?」


 パニック状態であんまり覚えてない。けど、たしかにそうかも。


「まあ、それは冗談として。

私が入ったときには既に彼女は件のお茶を口に入れていた時だった。

入り口に1人。窓際に3人。廊下から8名ほど入ろうと歩いてくる社員が居た。

それから3秒ほどで彼女が突然苦しそうにして倒れた」

「相変わらず凄い記憶力。犯人も分かったりして」

「あの場面だけを思い返しても何も分からないよ」

「もし置いてあった訳じゃないなら誰かから渡されたのかも。

そうなら彼女と話が出来るようになったら分かりますね」

「そう簡単なら良いのだけどね」


 確かにそんな簡単に話が終わったら変かもしれない。けど。

 状況は分かるだろうから皆がコソコソしてる犯人探しは捗る。


 そういう私も結局ここで話題にしている訳だけど。


「私は雑用であっちこっち行ってて人の顔までは見てなくって。

あの女性も何処の部署の誰かさっぱり」

「第1営業部の係長だよ。主力企画も幾つか担当していた有能な女性」

「有能だからライバルにやられたとか」

「社内でも競争はあるだろうし水面下での衝突はあっただろうけど。

あまり角を立てるタイプの人間には見えなかったな」

「うーん」

「パスタが伸びるよ」


 人が毒を盛られ倒れる事件が起こってその近くに居たのに。

私の視線からは何も見えてこない。何の記憶も思い起こせない。

 ただ文句をたれて印刷したというだけ。お茶を運んできただけ。


 探偵のようにすらすらっと事件解決!には至らない。

 やっぱり物語みたいにはいかないか。



「うーーーん」

「まだ悩んでるんだね。君に解決は無理だ」 

「判断が早すぎます。大人なんだからもう少し余裕を持ってください」

「意味不明な反論」


 困ったような、でもくすっと笑って言われた。食後に少し歩こうと車を

海岸沿いの駐車場に止める。ここまで来たからには海にもっと近づきたい。


 手をつないで海を眺めるなんてロマンがありますよね。


 と言ったら渋い顔で砂浜を歩くのは靴に砂が入るからNGと言われた。

ので沿いの道を歩く。砂浜を親子連れやカップルがそれは楽しそうに

 笑顔で仲良く賑わうのを尻目に。


 私が腕を組んで無駄に唸っていたせいもあるけど手も繋げてない。


「社長は自社で事件が起こったら気になりません?明らかに悪意を持つ社員が

居るって事なんだし。皆犯人探しで……正直、風紀もあまり良くないです」

「社長だから何でも出来るわけじゃないよ。分かっている事は伝えたし、

警察にお任せしている。それ以上に出来る事は今は見つからないかな」

「毒で倒れるのが私だったとしても?」

「君だったら……か」

「もし貴方だったら私仕事辞めてでも犯人探すの必死になる。

推理モノは苦手だけど絶対犯人みつけて警察に突き出す」

「……」

「そう思うとやっぱり黙っていられなくて。あれこれ考え始めるとつい

熱中するんですよね……何も分からない癖に」


 何でも覚えている記憶力が羨ましい。私はもうあの場面を思い出すのも

怪しくなってきている。慌てていて一瞬だったのもあるけど。

 それでよく犯人見つけるなんて言えたものだ。


「君の熱意は理解してる。でも休日はもっと気を楽にしたほうが良い」

「あ」


 少し先を歩いていた社長が立ち止まって振り返った。

 そして私をじっと見つめてる。


「違うかな。咲子( しょうこ)?」


 凄く真面目な顔だ。


「そうでしたね」


 小走りで距離を詰めるとその腕に絡む。


「思い出してもらえてよかった」

「忘れてた訳じゃないですよ。……忘れたい事もありますけどね」

「そろそろ車に戻ろう。道に砂が増えてきた」

「夏は泳ぎに行きましょ。ここの海綺麗だし」

「暑いと分かっていて行くなんて冗談じゃない」

「もやしっ子おじさん……」

「何か」

「いいえ」


 手を繋いで車まで戻るときちんと砂を払ってから車に乗る。

もっと海を満喫したかったけれど、相手は潮風も好きじゃないらしい。

 来た道をゆっくりと戻り無事に帰宅する。




 買ってきたものを各々の収納場所に収めて。私の大事なお洋服はハンガーに掛けた。

時計を見ると14時。無駄なく寄り道も少なめに帰って来たからまだ余裕がある。

 お風呂掃除だって出来てしまう時間。


 ということで。


 実家から持ってきた年季の入った短パンにTシャツ姿になりいざお掃除。

汗もかいたし終わったらシャワーを浴びようと着替えも準備しておく。


 社長さんはリビングで買ってきた本を熟読中。



 30分後。


 

「……だから。何度も同じことを言わせないで欲しい。

私から言えることは全て話した。これ以上何を言えと?

え?協力?なぜ私が?……いい加減にしてもらおうか」


 掃除もシャワーも終えてリビングへ戻ってくると何やら険しい顔で電話中。

仕事関係だろうか?邪魔しないようにと思いつつも喉が乾いてしまったので

 冷蔵庫へ向かうには彼の側を通らないといけない。


「お疲れ様です……」


 私がリビングに入ると同時に電話は終了。

 バチっと視線が合ってしまって、一応反応する。



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