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平穏な日常2


会社で何があったって帰ってしまえばこっちのもの。



「鍋パ。いや、タコパかなぁ。……うーん。悩む」


 主に金銭的な理由で親とは色々と揉めたけど今は実家を出て暮らしている。

裕福とは決して言えない家で常に崖っぷち人生だったのに、まさかこんな

 順調にいくとは思ってなかった。

 

 諦めかけた短大を卒業出来た上に無理だろうとされた一流会社に就職。

 まさか受かってしまうとは思わず何度も通知を確認したくらい。

 

 ただ家を出るのにいい部屋が見つけられなかったのは唯一の心残り。


「さっきからやたらとパパ言ってるけど。それってパーティの略?」

「はい。学生の頃から続いてる友達と久しぶりに話したいなと思って」

「部屋を貸してはいるけど玄関は一緒なんだし大家の私に一言いうべきでは?」


 お金持ちが1人で住んでいるマンションの使ってない部屋を間借り中。


 超高級なマンション住まいは夢があるけどちゃんと部屋代は払うし食事も

自分で用意。水道や電気は細かく分けられないからと勘弁してもらっているけど、

 その代わり家の手伝いやお掃除は必須。


 共有スペースである広いリビングのソファに座って思案していると

 やや不安げな顔で反対側の椅子に座るこの部屋の大家さん。


 昼間私の愚痴を聞かされた可哀想な社長様であり

 公表されていないしする予定もないが実は叔父という立場。

 

 それでいてもの凄く好きな人。


「まだ企画してる段階なので固まってないんです」

「詳細が決まったら教えてほしい」

「ハラハラしてます?知らない人が来るかもって」

「好きな人間は少ないと思うけど。食事会をするだけなら許可するよ。

分かっていると思うけど君の家ではないのだから騒がしいのは無しだ」

「はい」


 会社でずっとスーツなのだから家ではもっとラフな格好をしたらいいのに。

部屋着も何処か堅苦しい。

 私はいつ買ったか覚えてないくらい昔から愛用しているグレーのスウェット。


 一流な会社に着ていく服やカバンに靴に全財産を傾けた結果。

普段着は給料日まで諦めどうせ会社と家の往復だしこれで十分。

 ってなっていくうちに今にいたる。要するに無精。


「この週末何処か出かける用事はある?」

「消耗品の買い出しと風呂掃除しようかなって思ってたくらいですけど」

「買い物は一緒に済ませよう。早く終る。それで欲しい本があってね。

少し離れた本屋に行くつもりだったから」

「ネットで買えばすぐなのに」

「時間が無い場合ならともかく。それは風情がない」

「紙の本もいつかは全て電子書籍になるかもだし」

「かもしれないけど。そう言って君をドライブに誘う手は捨てきれない」

「普通に言えば良いのに」


 よいしょ。とソファから立ち上がって台所へ向かう。

冷蔵庫には自分の名前の書かれた飲み物。


 普段は質素な食生活で甘いものも殆ど口にしない大家さんなので勝手に

食べられる事も飲まれることも無いけど、隙あらば妹弟に食べられた

実家に居た頃の名残でつい書いてしまう。

 最近ハマっているコンビニのやたら甘いカフェラテを手に戻る。


「好きだね」

「ストレス爆発しそうになるとつい甘いものを買い込むんです。

気づけば私の机の中に結構お菓子入ってて」

「あまり褒められた話じゃないな。食べ物に頼りすぎては体にも良くない。

もっと効率的なストレスのはけ口を見つけられるといいね」

「すぐ馴染めるとは思ってないです。早く気持ち切り替えて大人にならきゃ」

「最初から高望みをしないのは悪くない防衛策だと思うよ」

「……はい」


 ラテを持ってぽすんと座ったのは大家さんのお隣。

会社ではすれ違う事も稀で社長だからそんな気楽に声を聞く事も出来ない

もどかしい距離だけど。


 家に帰ればどれだけ距離が近くても許されるしどんな話だって出来る。


 だから家って好き。



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