魚料理
翌朝の取り調べには、ジュークは同席させなかった。
昨日の取り調べで、すでにセノンが犯人でないことが証明されたから、ということもあるし、そもそも今日はジュークが非番だったからというのもある。
しかし、それ以上に大きかったのは、今朝までにあった捜査の進展だ。
「グラナムさん、アルマスたちが食べた料理が何か分かりましたか?」
「ああ、分かったよ。それどころか、事件の真相まですべて分かったんだ」
「本当ですか!!??」
「ああ」
セノンが気にしていた料理の正体こそが、今回の事件の真相を握る最大の鍵だったのである。
「今回の事件は、そもそも『事件』じゃなかったんだ」
「『事件』じゃない? じゃあ、何なんですか?」
「食中毒だよ」
料理を食べたことによる食中毒、それが今回の「事件」の真相だったのだ。
「アルマスたちが食べた料理は、魚料理だった。魚を煮た料理だ」
「料理名は?」
「それが、料理名の付くようなそんな立派な料理ではなかったんだ。単に魚を丸ごと塩と醤油で煮ただけ、というか……」
「彼ららしいですね。彼らに料理なんかする能力はないですから」
まさしくそのとおりなのである。
そして、その「能力不足」こそが今回の惨劇を引き起こしたのだ。
「そして、問題なのが、その魚なんだが、フーグーだったんだ」
「……ああ、なるほど」
セノンは合点したようだ。
「フーグーの臓器には、猛毒の成分が入ってますからね。ちゃんと臓器を取り除いてよく洗ってから調理しないと、食中毒になります。ましてや、丸ごと煮て鍋にするなんて論外です。そんなもの口にしたら確実に死にますよ」
「詳しいですね」
「ええ、もちろん。フーグー料理は僕の得意料理ですから」
「恥ずかしながら、私は、フーグーという魚を食べたことないんだ。それはポピュラーな魚なのか?」
「いいえ」
セノンは大きく首を振る。
「おそらく、この国の人はほとんど食べたことがないと思います。一部の島国でしか食べられてない珍しい魚です。味は絶品なのですが、先ほど話した毒の関係で、調理が困難なので、あまり広まってません。ちなみに、フーグーが常用されている大抵の国では、フーグーの調理のためには特殊な免許が必要なんですよ」
なるほど。それほど珍しい魚であるがゆえに、捜査機関は、食中毒の可能性に気付くのに遅れたのか。
あ、そういえば、とセノンは口を開く。
「パーティーは皆、フーグーが大好物で、毎日食べたがってました。僕はかなり頻繁にパーティーにフーグー料理を振る舞っていたので、定期的に外国からフーグーを取り寄せていたんです。僕が追放されたときにも、冷凍庫にはフーグーが何匹か入っていました。彼らは、不用意にも、そのフーグーを、猛毒の内臓を取り出すことなく食べてしまったわけですね」
「そういうことか。これで謎は全て解けたな。まさにこれは『追放ざまぁ』だったわけだな」
「どういう意味ですか?」
「つまり、パーティーが死んだのは、セノン、君を追放したせいだったんだよ。今までは君が丁寧にフーグーを調理していたから、パーティーが食中毒になることはなかった。しかし、君が追放されたから、パーティー内にフーグーの毒を取り除くことができる人がいなくなってしまい、パーティーは毒に侵されたんだ。まさに『追放ざまぁ』じゃないか」
「たしかにそうですね。全く意図してませんでしたが」
真相が分かってしまった今、私の中では、故人に対して同情する気持ちは少しも湧かなかった。むしろ、なんて気味の良い「事件」なのだろうかと思う。
「アルマスたちは、もっとも追放してしてはいけない大事な人を追放してしまったんだよ」




