勇者の紋章
「——というのが、君が逮捕された経緯だよ、セノン。今度は君が説明する番だ。知ってることは全部話してくれ」
私は説明している最中、ずっとセノンの顔色を窺っていた。
パーティーメンバー4人が何者かに毒殺されたことを話したとき、セノンは唖然とした表情を見せた。それが演技なのかどうかを見分けるのは、私の仕事である。ジュークは言葉の嘘しか見抜けないから。
「グラナムさん、僕のことを信じてください」
「もちろん、信じるよ。だから、まず君にはハッキリ宣言してほしいんだ。『僕は4人を殺していません』と」
「僕は4人を殺していません」
………………。
しばらく待ってみたが、ジュークがケタケタと笑い出すことはなかった。
ということは、犯人はセノンではないということか。私の取り調べへの意欲は一気に下がる。
「たとえば、4人全員は殺してないものの、パーティーのうち誰かを殺したということはないか?」
「いいえ。誰1人として殺してません」
やはりジュークは黙ったままだ。
「君は、君を追放したパーティーメンバーを恨んでいなかったのか?」
「もちろん。恨んでましたよ」
「君は相当雑用をやらされていたと聞いたが」
「そうなんです。3年前に新メンバーとしてパーティーに迎えられて以来、僕の役割はもっぱら雑用でした。おかげで家事全般はとても上手になりました。自分で言うのも難ですが、料理の腕はプロ並みだと思います。とりわけ魚料理が得意で、世界中から珍しい魚を取り寄せて、僕にしか作れない料理を振る舞っていました」
「君は本来は魔剣士のはずだ。それにもかかわらず、掃除や料理ばかりやらされてて悔しくなかったのか?」
「それはとても悔しかったですよ。ただ、それ以上に悔しかったのは、奴ら……すみません。死んでしまった人のことを『奴ら』なんて呼ぶのは良くないですね。僕が何より悔しかったのは、彼らは僕の家事を全く評価してくれなかったんです」
「どういう意味だ?」
「彼らは、たしかに戦闘面では優秀かもしれませんが、生活能力はゼロなんです。自分のことすら自分でできない人間のクズの集まりなんです……あ、すみません。また口が悪くなってしまいましたね。ただ、彼らの自活力は赤ちゃん並みで、僕が全て面倒を見てたんです」
たしかに、パーティーは、セノンを追放した翌日に、早速家政婦を呼んでいるのである。それは、自分たちで家事を行うことができなかった何よりの証左である。
「それにもかかわらず、彼らは僕の些細なミスや至らなかったところを突いて、常に僕の家事に難癖を付けてきました。これってハラスメントじゃないんですか?」
「……おそらく、ハラスメントに当たるだろうな」
「彼らにとって、僕は家政夫兼サンドバッグだったんです。僕を虐めることが彼らの何よりの楽しみだったんです」
「それはヒドイ話だな。とすると、やはり、君には、アルマスたちに復讐をする確固たる動機がある気がするんだがどうなんだ?」
この間もジュークはずっと黙ったままであった。ということは、セノンがパーティーからヒドイ仕打ちを受けていたこともすべて真実だということである。
「僕を追放したことを後悔させてやる、とは思っていました。しかし、まさか毒を盛って殺そうなどとは考えてはいませんよ。そうでなく、新しい仲間とパーティーを組んで、そこで活躍することによって見返そうと思ってました」
つまり、セノンは「追放ざまぁ」をしたかったということだ。「追放ざまぁ」はこの世界ではトレンドであるし、とても爽快である。セノンも「追放ざまぁ」を目指して、実際にギルドに足を運んでいたということなのだ。
「そういえば、君は窃盗の濡れ衣も被せられてたらしいな」
「ええ。そうなんです」
「実際には、君は何も盗んでないんだよね?」
「もちろんです」
ここでもジュークは笑わなかったから、こちらもまた冤罪ということらしい。
「パーティーからは、何を盗んだと疑われてたんだ?」
「これがあまり上手く説明できないんですけど、『勇者の紋章』と言われているものでして……」
「勇者の紋章? なんだそれは?」
「名前だけ聞くとイカツイんですけど、見た目は、ドドメ色した缶バッジみたいな感じで、とてもチャチいんです。正直、ガラクタにしか見えなかったです」
「一体それは何に使うものなんだ?」
「さあ、そこに関してはアルマスから説明を受けていなかったので、よく分かりませんでした。アルマスは『大事な物』とは言ってましたけど、実際は家に適当にほっぽらかしたままでしたし」
よく分からない話であったが、セノンにいくら説明を求めても仕方ないだろう。
「とにかく、セノン、君はその勇者の紋章がどこにあるか知らないということなんだね?」
これまでスムーズに受け答えをしていたセノンが、突然黙った。
「セノン、どうしたんだ?」
「いいえ、別に。何もありません」
そうは言ったものの、セノンの目は泳いでいる。怪しい。
「セノン、もう一度訊く。君は勇者の紋章がどこにあるか知らないんだね?」
「……知りません」
先ほどの反応からすれば、このセノンの「知りません」というのは嘘に違いない、と私は確信した。
しかし、ジュークが笑い出すことはなかった。
ジュークは、真顔で、じっとセノンの顔を見つめたままなのである。
このことは、セノンが本当に勇者の紋章の場所を知らないということを意味する。
「一切知らないということか?」
「多分、家の中にあるとは思います。あんなガラクタ、誰も外に持ち出すわけありませんし」
勇者の紋章がガラクタだとすれば、たしかに誰も盗むことはないのだろう。
取り調べによって、セノンが今回の事件に関与していないことがほぼ明らかになった。本来であれば、セノンを即日釈放するところであるが、事件があまりにも大き過ぎる。
念のため、明日までは身柄を確保しておき、明日の朝、もう一度取り調べをすることにしよう。
真犯人は一体誰なのだろうか。
現段階では全く見当がつかない。
私が、今日の取り調べを終えることを告げると、セノンは、ホッとした表情を見せた。
「グラナムさん、あまりお役に立てず申し訳ありません」
「いや、むしろ君を犯人と疑って悪かったな。明日中にはおそらく君は釈放されるだろう」
「グラナムさん、一つ質問してもいいですか?」
「なんだ?」
「毒の入っていた料理についてなんですけど、それが何だったか教えて欲しいんです。普段料理を作っていた僕がいなくなって、彼らは一体何を食べていたのでしょうか?」
素直に取り調べに応じてくれたお礼として、私は、セノンの質問に応じたかったのだが、生憎、毒が入っていた料理が何かについては、情報を持っていなかった。
そこで、明日の朝までに確認することをセノンと約束し、その日の取り調べを終えたのであった。




