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追放

 なろうでミステリーを書き始めて早5年目。

 前から挑戦しよう,挑戦しようと思い,書き始めては挫折を繰り返していたハイファンタジーについに挑みます。

 1万4000字弱で完結ですので,興味本位でも読んでいただけるとありがたいです。


 流行りのテンプレを使ったハイファンタジーですが,ミステリーです。ラスト1行にも注目。

「セノン、悪いが君は今日付けでうちのパーティーを解雇だ」


——ついにこの日が来た。

 

 勇者アルマスの台詞は、十分に予期していたとはいえ、いざ実際に口にされると、頭を金づちで殴られたような衝撃であった。



「解雇……どうして?」


 僕——セノンが反射的に理由を訊いてしまったことは、後から考えると失策であった。

 解雇という結論には異存はない以上、黙って家を出て行くべきだった。

 しかし、理由を訊いてしまったがために、僕はさらなる屈辱を味わうことになってしまった。



 悪口の集中砲火の口火を切ったのは、魔法使いのミリナだった。



「なぜ解雇かって? 理由は10個、いや、100個くらいあるわ。それを強いて1つにまとめて欲しいというなら、セノン、あんたが使えないからよ」


「……使えない?」


「ええ。そうよ。……っていうか、まさか、あんた、自分が『お荷物』だという自覚ないの?」


「そりゃ、自覚はあるけど」


 ミリナは、ほぼ毎日、僕のことを「お荷物」と呼んでいた。これだけ「お荷物」と言われ続ければ、自覚したくなくても自覚せざるをえない。



「お前が具体的にどう使えないのか、俺が説明してやるよ」


 別に僕は具体的な説明など求めていないのだが、剣士ジャスティンは滔々と語り出した。



「まず、攻撃力が低い。防御力も低い。HPも低く、MPも低い。戦闘において、お前は何の取り柄もないんだ。うちのパーティーとしては、今後もお前を戦闘メンバーに使うことはないと判断したんだ」


 この世界の「システム」では戦闘で一度に参加できるメンバーは4人までである。

 パーティー内で5人中の5番手だった僕は、常にベンチ要員であった。そして、この世界では戦闘に参加していない限り経験値はもらえない仕組みとなっているので、僕と他のメンバーとの間のレベルの差はどんどん離れていき、いよいよ僕に出番が与えられることがなくなるという悪循環に陥っていたのだ。



「結局、お前が『魔剣士』なんていう中途半端な職業に付いてるから悪いんだ。下手の横好きで、打撃力も中途半端で魔法も中途半端。そもそもこのパーティーには魔法使いのミリヤと剣士の俺がいるんだから、魔剣士なんて要らないんだよ」


 それは言い得て妙な部分があるが、だとすれば、そもそもなぜ最初の時点で僕を雇ったのか、3年前に自分を選んだアルマスの判断こそが責められるべきではないのか。



 続いて、黒髪の美少女が口を開く。


「せめてセノンさんがイケメンで、目の保養になれば良かったのですが」


 僧侶ライムは、冗談でなく、心底そのように思っているのである。

 この子は見た目こそ清純派であるが、中身はただのイケメン好きのビッチだ。



「私、セノンさんには感謝してますよ。だって、セノンさんは誰もやりたがらない雑用をすべて引き受けてくれて、家のことは全部やってくれていましたから」


 戦闘で少しも使ってもらえなかったため、肩身が狭く、やらざるをえなかった、というのが本当のところである。



「でも、だったら、最初から家政婦を雇えばいいんですよね。そちらの方が安く済みますし。それでもなおセノンさんを雇ってるメリットは何かなって考えたんですけど、何もないんですよね。もしもセノンさんがイケメンだったら、私はセノンさんのままでも良かったんですけど」


 僕はこれ以上パーティーメンバーから馬鹿にされるのは耐えられなかった。


 近々この日が来ることは想定していたため、必要な荷物はすでにまとめてある。



 僕は一旦自室に戻り、荷物を担ぐと、再びメンバーのいる広間に戻ってきた。



「セノンさん、さようなら。戦闘では使えませんでしたが、セノンさんの作る料理は美味しかったです」


「転職してコックになればいいんじゃない?」


「さらに下手の横好きになりそうだな」


 冷やかしを浴びながら、僕は立ち止まることなく、玄関まで進んだ。このドアを開けて外に出れば、もう二度とこの家に戻ってくることはない。



「おい、セノン」


 靴を履き、ドアノブに手を掛けた僕に、最後に声を掛けたのは勇者アルマスだった。



「勘違いしないでくれよ。少なくとも僕は、君のことを重宝してたんだ。たしかに戦闘ではアレだったけど、雑用と家事をやってくれたことには感謝していて、できればずっと君を雇っていたかった。君と過ごした3年間は、決して悪い時間じゃなかった」


 でも、とアルマスは続ける。



「あの事件があった以上、君にこの家のことを任せることはできなくなってしまったんだ」


「あの事件?」


「もちろん例の窃盗事件だよ。僕の大事な紋章が盗まれた、ね。セノン、最後に一度だけチャンスをあげる」


「チャンス?」


「そう。僕の質問にセノンが正直に答えてくれたら、解雇は撤回するよ」


 僕には今さら解雇を撤回してもらいたいという気持ちはなかった。このパーティーに居続けても僕はこき使われ、ハラスメントを受け続けるだけだから。


 僕が黙って立っていると、アルマスは、僕に対し、予想通りの質問をした。



「セノン、君が紋章を盗んだんだろ?」


 この質問は、昨日からすでに99回、僕に投げかけられている。


 そして、僕は99回同じ回答をしている。



 100回目の今回も、僕は同じ回答をした。



「盗んでないよ」


 アルマスが、愛想が尽きた、と言わんばかりの大きなため息をつく。



「分かった。早くこの家から出てけ。もう二度と戻ってくるな」


 アルマスに言われなくとも、二度と戻って来ようなんて思わない。


 こんな最悪なパーティー、こちらから願い下げである。



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