テディベアの少女
古びたテディベアを抱きしめて、
彼女は飛び降りた。
崖までがんばってのぼって、
最期に飛び降りた。
足は羽のように軽く浮いた。
体は鉄のように重く落ちた。
どこかで船の汽笛が聞こえた気がした。
気づけばゴミだらけの世界。
朽ち果てたゴミと一緒に
彼女は横たわっていた。
今までテディベアだけはずっといっしょで、
だけどもう限界で、
寝られなくてクマが定着して、
彼女はそれでもがんばってきた。
けれどもうそれも今日でおしまいだ。
成功したからおしまいだ。
やっと求めていた安穏を得たのに、
何故か喜びは湧いてこなかった。
それから時の経たない永遠の日々を
つまらなく過ごした。
このゴミ世界では、誰もがんばってる人はいなかった。
ただただ埃だけが降ってくる。
時折燃えカスと灰も降ってくる。
今日もまた灰色の空で
燃えるゴミが焼かれているのだ。
人生でたった一つの宝物だった
テディベアを抱っこして
人生でたった一人の味方だった
テディベアを抱きしめて
着たおしたチェックのシャツと
くたびれたジーンズの少女は、
ゴミ世界でも崖にのぼって
今日も1日ボーッと世界を見る。
もう誰かが遠くで倒れても
なんとも思わない。
ただただテディベアは
ずっと笑っているだけ。
彼女はもう笑わないだけ。
朽ち果てたゴミの世界で、
埃がしんしんと彼女に積もるけど、
彼女はもう動かない。
ひたすらボーッと、
世界を見ている。
朽ち果てた世界を、
何も映さない眼で見ている。