第96話 かつての仲間たち集結。最終決戦へ
攪王が召喚した【GR】『破壊神』によって街は蹂躙されていた。
破壊神は50メートルの超大型の巨体を持ち、埴輪を想起させる虚な表情が非常に不気味であった。
破壊神がただ歩くだけで街は破壊尽くされていった。
厄介な事に日本中を転々として周り、全国の主要都市を踏み潰していった。
現在この国は大混乱へと陥っているのである。
未曾有の危機に探索士たちは団結した。
現在交戦中の風祭とレイラを除いた主要戦力が一堂に会した。
只野の呼びかけにより、これまでの仲間たちが全員集結したのである。
共にパーティーを組んできたアリサ、メイ、萌仁香、猫田、ムッツ。
プロ試験の同期である土門に畠山も駆けつけた。
皆、現在はA級探索士に昇格して活躍している。
試験官だった『黒剣の後藤田』『水龍の夏木』『炎獄のハチロー』も参加してくれた。
西からは堺茜、烏丸清恵が加わり、只野とは犬猿の仲だった『氷結の森迫』まで参加した。
かつての技討隊からは『猛犬の中野』『韋駄天のマサカズ』が加わった。
全員が会議スペースに集まると、只野はこれまでの経緯を皆に語った。
攪王は『時間操作』のスキルを持っていて無敵に近い存在である事。
『レイジ・リベリオン』撲滅のためにロスチャイルドら世界最強の5人が死力を尽くして戦い、幹部たちを壊滅させる事に成功した事。
そして現在攪王は世界に絶望し、このままだとすべてが破壊尽くされてしまうという事を。
話を聞き終えた仲間たちは自分たちの預かり知らぬ間に起こった壮大な事件に、驚きを隠せなかったようだ。
この中で唯一S級に昇格した『疾風のアリサ』が皆を代表して質問する。
「スケールが大きすぎてピンとこない話ね。でも今、実際に破壊神による攻撃で都市が壊滅状態なのは紛れもない事実。私たちで攪王と破壊神を止められるのかしら?」
「今の実力で挑んだら皆、一瞬で殺されるのは間違いないだろう。だから皆にはスキルを底上げして生存率を上げてもらう」
只野が美波に指示を出すと、台車に載せたダンボール箱を持ってきた。
テーブルの上に箱の中身をぶち撒ける。
そこに入っていたのは数千枚の【UR】カードだった。
きらびやかなプリズムはまるで金銀財宝のお宝だった。
探索士たちは当然その価値を知っているので、周囲からどよめきが起こる。
「攪王に対抗するためには【GR】が必要だった。そのため数億回ガチャを引いてきた結果、大量に【UR】カードが余ったんだ。皆好きなだけこのカードを使ってくれ。もっともスキルストックの都合上、A級の皆は100枚までだがな」
ムッツが派手な外見で派手なリアクションを取る。
「数億回ガチャを引いてきたですって!? ガチャ一回で一万円だから数兆円はかかっているじゃない! 只野ちゃんのどこにそんな国家予算並の資産があったのよ?」
「簡単な話だよ。世界一の大金持ちロスチャイルドが全額出してくれたんだ」
「それにしたって数億回もガチャを引くだなんて気が変になりそうね」
美波がボソリと付け足した。
「実際廃人化寸前だったからな。風祭とレイラのアホは絶対許さん」
美波の発言を聞き、メイが質問する。
「そう言えば風祭さんとレイラさんは戻ってないんですか?」
「二人共まだ敵の幹部と戦っているらしい。どうやら敵が作りだした【GR】の異空間の中に閉じ込められているみたいだ。今は二人の無事を祈るしかないな」
この時風祭はミレイの作り出した戦場に、レイラはアンネの内面世界に閉じ込められていた。
この最終決戦を前に人類最強の二人を欠いたまま戦わなくてはならないのは大きなハンデである。
そんな只野の悩みも知らず、仲間たちは目の前に積まれた【UR】カードに興味津々だった。
なにせ一枚10億円以上で取引されている超貴重品である。
猫田が小判を見つめるように目をキラキラさせて、カードの中身を検めている。
「本当にこれ貰ってもいいのかにゃ? あとから領収書が届くだなんてセコい真似しないよにゃ?」
「自由に使ってくれ。金なんか取らん。どうせ俺たちが攪王に負けたらこの世界は破滅だからな」
「そ、そうだったにゃ。このカードを受け取るイコール死地に赴く兵士と化すんだにゃ。私にはジャーナリストになる夢があったのにこんな世界になるだにゃんてな~」
「攪王と破壊神を倒し、平和な世界を取り戻すんだ。そのために皆協力してくれ。頼む!」
そう言って深々と頭を下げる只野。
只野の熱い思いに、皆心を動かされたようだ。
萌仁香が偉そうに大きな胸を張る。
「まあボクは最年少でS級探索士になるって目標をまだ叶えてないからな。天才のこのボクがさくっと世界を救ってやるじぇ」
すかさず美波が突っ込みを入れる。
「最年少記録は私のものだ。お前みたいに何の実績もない者がS級に上がれるわけないだろう。このXLピザが」
「JDのくせにJCみたいなチンチクリンのお前に言われたくないじぇ。どうせ大学で遊び呆けてろくに探索もしてないんだろ。今じゃ絶対ボクの方が格上だじぇ」
「【GR】持ちの最強最悪幹部をぶっ倒したばかりの私の方が強いに決まってるだろ。私の二つ名は『神殺し』で決まりだ」
「ぐぬぬぬぬ。そんなかっこいい二つ名ズルいじぇ」
3年経っても美波と萌仁香は口を開けば喧嘩ばかりだ。
相変わらず修験者のような白装束の土門も続いて宣言する。
「我、奈落と化した今生を救い、極楽浄土を築く一助とならん」
堺茜が土門に突っ込みながら、意気込みを語る。
「なんでいつも漢文みたいなしゃべり方やねん。まあ言いたいことは分かるで。破壊神のせいで大阪もゴジラが暴れ回った後みたいなボロクソ壊滅状態や。折れた通天閣の仇は取ったるで」
皆、決意を新たにし【UR】カードの選定に入った。
そんな中『氷結の森迫』がこっそりカードを盗み懐に入れていた。
「おいクソ森。次ネコババしたら裸にひん剥いて破壊神の前に突き出すぞ」
「ハハ……。か、軽いジョークじゃないか! ビークールで行こうぜ只野」
只野は心の中で、こいつは絶対に戦力にならないなと予想した。
皆、自身の特徴を活かすようなスキルを習得していった。
【SSR】も数十万枚あるため身体能力上昇系、特に耐久値を上げるパッシブスキルを皆に習得させた。
これで今までの様に破壊神の一撃で簡単に死亡する事はないだろう。そう願いたい。
スキルの確認のための実戦訓練を経て、準備は整った。
攪王と破壊神が札幌に現れたとの情報を入手したため、探索士たち一同は全員で最終決戦の地へと向かった。
既に住人は避難しており、駅前も繁華街もビルの中にも人は一人もいなかった。
札幌の街並は破壊神の行進によって徐々に破壊され始めていた。
50メートルの巨体を持っているため、ただ歩き回るだけで建物は踏み潰され、倒壊していく。
大通りの前に攪王を肩に乗せた破壊神が現れた時だった。
「そこまでだ! 攪王。もう止めろ!」
攪王が地面を見下ろすと、十数人の男女が立っていた。
中には只野と娘の美波もいる。他の面子はおそらく探索士共なのだろう。
「只野か。一体何の真似だ」
「攪王! お前を止めにきた。もうこんな誰も幸せにならない事をするのは止めろ」
「ふっ。私の鈍麻し切った心にはもうどんな言葉も届かん。止めたくば我らを倒してみよ」
攪王は破壊神に指示を出すと、巨大な足を引き上げ蹴りを放った。
動き自体はスローモーションのため回避には余裕があったが、その巨体だ。
繰り出された蹴りを回避した後も、凄まじい突風が押し寄せてくる。
暴風の様な風に仲間は散り散りになる。
更に破壊神は腕を高く上げ、上空から拳を振り下ろしてきた。
50メートル以上の高さから、落下してくる拳は巨大な爆弾の様だ。
拳が地面にめり込むと衝撃でアスファルトが陥没し、水道管やガス管がむき出しになる。
全員回避に成功したが、拳の着弾地点はまるで爆心地のようであった。
その絶望的な攻撃力に探索士一同は戦慄した。
まともに食らったらその瞬間にゲームオーバーだ。
破壊神の上で、攪王は冷徹な目でこちらを見ていた――。
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