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第95話 ワールド・ディストラクション

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 攪王は『レイジ・リベリオン』の解散を条件に、只野一人から目当てのカードを手に入れた。


 すぐさまスキルを習得し、『時間操作』によって過去へと戻っていった。

 

 事前に実験を繰り返し、時間の遡行の仕方も分かっていた。

 リモコンの早送りボタンを押すように、徐々に速度を上げて過去に遡っていった。

 2倍速、4倍速、8倍速、16、32、64、128……。

 時間を後ろに吹っ飛ばしながら刻々と景色が過去に戻っていく。


 『レイジ・リベリオン』のテロ活動によって荒廃した街並みも、元のきれいな建造物へと戻っていった。

 限界速度までスピードを上げ、逆回しの映像が加速して展開していく。

 攪王は町中にある年度と日付の書かれた電光掲示板を見ながら、目当ての時間まで巻き戻していった。



 ――この日をどれだけ心待ちにしただろうか。遂に『死者蘇生』を手に入れた。

 これであの日に戻り、沙友理を生き返らせる事が出来る。 




 攪王はやがて目標の4年前のあの日まで辿り着いた。

 自分の体感ではここまで来るのに数日から数週間はかかった様な気がするが、それはあくまで攪王の主観でしかない。

 時間を巻き戻してる間は当然現実の時間は経過していない。


 攪王は妻が亡くなって直ぐの病院に向かう事にした。

 時間を停止して病院内に入り込む。


 あの時の自分は臨終の際には立ち会えなかった。

 少しでも治療の見込みがある方法に縋って四方を駆け巡っていたのだ。

 すべて無駄な事と分かっていても、あの時の自分の行動を笑う気にはなれなかった。



 病院の妻が眠っているベッドへと向かう。

 そこには白い布を顔にかけられた妻がいた。


 彼女の身体は見事に痩せさらばえ、骨と皮だけになっていた。

 その光景を見て、慟哭を必死に堪える。


(待たせたな沙友理よ。これでお前の辛かった闘病生活も終わる。また家族3人で暮らしていけるんだ)




 攪王は何の躊躇もなく『死者蘇生』を発動した。

 攪王の両の手の平から神々しい光が発せられる。

 小さな天使たちが天上から舞い降り、ベッドで眠る沙友理の元へと舞い降りる。

 徐々に沙友理の身体に変化が訪れ始めた。


 それはまさに神の如き力だった。


 生気を失い、冷たくなっていた沙友理の肌に血が通い初め、やせ細っていた腕にはふっくらと肉付きが戻った。

 青ざめていた頬は紅潮する様に血色を取り戻していった。



 やがて沙友理はゆっくりと目を開ける。

 霞む視界の中、沙友理は目の前に男が立っている事に気付いた。


「……あなた誰?」


 気がついたばかりで混乱しているのだろう。

 攪王は穏やかな微笑みでこう言った。


「僕だよ。君の夫、英介だよ」 

「……英介さん? …………」


 妻はそこで黙り込んでしまう。

 まだまだ頭の中で整理がつかないのだろう。

 慌てることはない。ゆっくり思い出していけばいい。


「嘘よ。本当の英介さんはどこ?」

「なっ……。僕だよ! 僕が本物の英介だよ! 一体どうしたんだい? なぜ疑がったりするんだ?」

 

 攪王が沙友理に触れようとする。

 そこで妻はベッドからガバっと上半身を起こした。

 そのまま、攪王の手から逃れるように後ずさる。


「やめて……! それ以上近寄るとナースコールを押すわよ」

「沙友理!? どうして信じてくれないんだ! 僕の顔を見れば分かるだろ! 少しだけ年を取ったが間違いなく君の夫だよ!」


 攪王が伸ばした手を、沙友理は思い切り払い除けた。


「ふざけないで!! あなたが英介さんなわけないでしょ!! あなたみたいな血の匂いで溢れた人間は初めてよ!! 私に近付かないで!!」

「ぁ…………」

「一体何のつもり? 英介さんに変装して私に近寄るなんて。言わなくても分かってるわ、あんた人殺しなんでしょ!? 英介さんは魔物を殺すのさえ躊躇するような優しい人なのよ。部屋に入ってきた虫さえ殺せなくて生きたまま逃してあげるような気の弱くて優しい私の大切な人。その英介さんを騙るなんて絶対に許せないわ! この卑怯者!」


 フーフーと息を荒げ激昂する沙友理。

 彼女がこんなに怒る姿は初めて見た。

 そして彼女が怒っているのは、すべて愛する夫、英介のためなのだ。


 改めて自分はこんなに彼女に愛されていたのかと思い、嬉しさで涙が溢れた。

 それと同時に、この状態の彼女を説得する事は今の自分には不可能だと悟ってしまった。


 彼女が愛しているのは攪王となった血みどろの自分では無く、まだ誰一人殺めた事のない、かつての自分だけなのだ。




 

 攪王は居た堪れなくなり時間を止めた。

 これ以上この時間帯にいても自分も彼女も苦しむだけだ。

 なに。他に方法はいくらでもある。


 彼はまた少しだけ時間を遡った。

 ここから約1年ほど前。

 今度はこの時代の英介を殺して自分が成り代わり生きていこうと考えた。


 だが結果は同じだった。

 沙友理は直ぐに自分が英介ではないと見抜いてしまった。

 彼女は鼻が利くのか、人間の本質でも見抜ける眼力でもあるのか、攪王は直ぐに英介ではないと気付かれてしまった。



 あらゆる時代、あらゆる手段を試しても結果は同じで、彼女は攪王を拒絶した。

 英介と出会う前の時代まで遡って自分の事を好きになってもらおうとしても、沙友理は攪王をゴミを見るような目で見た。

 彼女の目には自分が悍ましい人殺しにしか見えてなかったのだ。

 


 自分が攪王である限り、沙友理は自分を愛してくれる事はないと知ってしまった。

 自分の愛する者から、未来永劫嫌われ続ける。

 こんな残酷な仕打ちはない。

 まるで出口のない迷路。醒めない悪夢。蜘蛛の糸の垂れない地獄だ。


 この世に救いはなかった。

 どこまで言っても自分は世界に嫌われている。

 攪王は心の底から世界に絶望し、逃れられない苦しみに咆哮した――。








 それからどれくらいの時間をかけてきたのか分からない。

 様々な分岐した世界線を移動した。

 沙友理を生き返らせた時代。

 英介を殺した時代。

 沙友理に拒絶された時代。 


 同じ場所に留まりたくなくて、ここではないどこかへと時間を移動し続けていると、いつの間にか元の時代へと辿り着いていた。


 懐かしい光景が目に留まる。 

 只野と美波、キッドがそこにいた。

 なぜかキッドは血まみれで倒れていた。


 自分に向かって何か叫びながら縋り付いてくる。

 こいつは相変わらず自分勝手で耳障りな事を宣う奴だ。


 もういい。

 空っぽだ。

 俺の心にはもう何もない。

 

 疲れた。

 すべてに嫌気がさしてしまった。

 

 なにもかもすべて破壊してやろう。

 こんな世界ぶっ壊れてしまえばいい。

 沙友理のいない世界なんて。沙友理が俺を愛してくれない世界なんて。――必要ない。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーっっっっ!!」


 攪王は声の限り叫んだ。

 喉が張り裂け、体中のあらゆる場所から血が吹き出そうなくらい、全力で叫んだ。

 やがて叫びを終えると、キッドの頭を踏み潰し、只野と美波に向かって宣言した。


「この世界はもう不要だ。すべて破壊して回る。止めたければ止めてみろ。私の最後の【GR】カード『破壊神』と、私をな」




 攪王はそう言うと一瞬で姿を消していった。

 只野の前に残されたのはキッドの死体と、不安そうに眉を細める美波だけだった――。

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