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第94話 只野・美波VSキッド②

 じりじりとキッドの不気味なプレッシャーに押され、引き下がる只野と美波。

 打開策も見つけられないままだったが、このまま無策で殺されるわけにもいかない。

 只野は脳内にて会話が出来る『念話』を使用し、美波に呼びかけた。



(美波。聞こえるか?)

(うん。不味い事になったな。絶体絶命だ)

(最悪『瞬間移動』で離脱する事も考えておいてくれ)

(分かってる。だけど悔しいな。このまま何も出来ずに尻尾巻いて逃げるなんて)

(なにか突破口が見つけられれば良いんだがな。戦っていて気付いた事とかないか?)


 そこで美波の返事が少し遅れる。


(う~ん。奴の憎たらしいニマニマ顔がムカつくって事くらいかな)

(そういう事言ってるんじゃないよ。なにか弱点になりそうな事はないかな)

(一つだけ気になった事がある)

(なんだ?)

(奴が私の最初の斬撃を防御したって事だ)

(ああ。そういえば確かに召喚獣の凄まじい攻撃は防御一つ取らなかったし不思議だな)

(ただの偶然だろうか)

(…………そうか。あったぞ! 突破口が)

(一体なんだ?)


 只野の力強い声が美波の脳内に反響した。


(奴の能力は『全スキル無効化』って言ったよな。って事は()()()()()()()()なら通用するんじゃないのか?)

(確かにその可能性はある。だが通常の攻撃など通用するか? 奴も身体能力上昇系のパッシブスキルを習得しているだろう)

(ああ。最大級の『耐久上昇』も習得している筈だ。普通に考えたら通常攻撃なんて通用しない。だが、美波の剣ならどうだ?)

(なるほど。刀本来の切れ味と私の技術があれば、通常攻撃でもダメージを通せるかもしれない)

(その通りだ。と言うよりもそれに懸けるしかない。俺が注意を引き付ける。美波はなんとか隙をついて、奴に防御系のスキルを使わせないよう斬りかかってくれ)

(簡単に無茶を言う。だがやるしかないな。……死ぬなよ只野)

(しぶとさだけが俺の取り柄だ。やってやろうぜ)




 青ざめた表情で後ずさる二人に、キッドは落胆した顔で近づいてきた。

 

「なんだよ。なにか策はないのかい?無茶でも無謀でもいいからかかってきなよ」

「――ああ。ならばそうさせてもらうぜ!」



 只野はエナジーガン『ライファー』をキッドに向けて発射した。

 エナジー弾は途中で分裂し、上下左右斜めと全方向からキッドを襲う。

 だが、キッドが作った赤い壁に弾かれてしまう。


(やはり通常攻撃はガードしに行くな)


 只野は続いてマジックガン『ウルティマ』を洞窟の天井目掛けて発射した。

 天井から氷柱の様に、大量の土塊が降り注いでいく。

 この土塊攻撃もキッドは防壁を作り出して防いだ。


 周囲に土煙が巻き起こる。少しずつ視界が晴れていくと美波が大技を放つ準備をしていた。

 八相の構えから天へと登る様なオーラを刀に纏わせ、切り下ろす。


「山田流刀剣術奥義『斬鉄剣』!」


 面食らった様な表情のキッドは、大慌てで赤い防壁を作りだした。

 だがこの技が『全スキル無効化』の対象だと分かると、防御を解いた。

 美波の砲撃の様な斬撃も、キッドの身体を透過して通り抜けていく。

 

(駄目だ! スキル攻撃はどんな大技でも通用しない)


 


「やれやれ。君たちの実力はそんなもんかい? 受けてばかりなのも癪だしこちらからも攻撃するね」


 キッドは青龍刀を亜空間に収納し、新たに大鎌を取り出した。

鎌を横に倒し、そのまま真後ろに大きく振りかぶる。

 打者が来た球をスイングする様に大鎌を繰り出す。


(明らかにこの技はやばいな。回避しなくては)


 只野は『瞬間移動』で一旦、別の空間へと離脱した。

 その後、また『瞬間移動』で洞窟内へと戻ると、キッドが鎌を振るった先の壁が真っ二つに切り裂かれた。


「あの鎌は放置出来ん。ミカエル! 鎌を破壊しろ!」


 ミカエルはキッドに向かい飛翔して直接剣戟を振るう。

 大鎌の刃で防御すると、ミカエルの剣戟に押され刃が砕けた。


「チッ! 調子に乗ってるんじゃないよ!」


 キッドは大鎌を捨てると、宝石がジャラジャラついたグローブを取り出して嵌める。

 すると、キッドが突然姿を消し、一瞬のち只野の目の前に現れた。

 防御をする余裕も無いまま、キッドの下から突き上げる様なアッパーカットを腹に食らってしまった。


「『ファイナル・バウト』!!」

「げふぉっ!」


 キッドの拳は只野の胴体にめり込み、衝撃が全身を駆け巡った。

 食らった瞬間、只野は「あ、死んだな」と死を悟った。

 そのまま上空に高々と舞い上げられ、地面に叩きつけられる。


 通常であれば即死してもおかしくない攻撃を受けて無事だったのは、只野の危機を察して現れたカーバンクルの物理軽減魔法のおかげだった。

 カーバルくんはご主人の只野に治癒魔法をかけながら必死に呼びかける。

 只野は半死半生になりながらなんとか、意識を取り戻す。



「きゅっきゅっきゅぅ~!!」

「お。てっきり拳が貫通したと思ったのに、無事とはな。カーバンクル様様じゃないか。しかしまあ無敵過ぎるってのもつまらないもんだな。これじゃ危機感がなくなって弱くなっちゃいそうだよ」

「言ってろ……。お前みたいな小物にはたとえ悪の組織だとしても首領なんか務まらない……。『レイジ・リベリオン』はもう終わりなんだよ!!」




 只野はよろよろと起き上がり、痛めた腹を抑えながらマジックガンをキッドの足元に放った。

 水魔法によって水柱が発生し、水流が下から上へと舞い上がっていく。


「そんな攻撃通用しないって言ってるだろ。避けるまでもないね」


 只野は続け様、雷魔法を放ちキッドを攻撃する。


「水で濡らして電撃で痺れさせるって魂胆かな? 無駄無駄。俺にスキルは通用しないんだって」


 その時、水溜りの中から美波が現れた。水面から飛び出しキッドに斬りかかる。

 だが、この攻撃を読んでいたのか防壁に簡単に弾かれる。

 キッドの拳を受けて美波の分身体は消滅した。


「隙を見て影分身で攻撃ってか? 程度が低いんだよ! そんな攻撃食らうわけないだろ」


 只野は立て続けに雷魔法で、電撃の球体を作り出した。

 キッドの頭上で静止した光球に光球をぶつける。


 すると、激しい光が発生し只野は思わず手で目を隠す。

 だが、この閃光もキッドには通用しなかった。


「ははは! 浅はかだな。俺には攻撃だけじゃなくスキル自体が通用しないんだって。目眩ましなんて通用しないっての!」



 嗤うキッドの身体から影が伸びていた。

 スキルは通用しなくても、光を浴びれば影が生じる。その当たり前の物理法則を曲げる事は叶わなかったらしい。

 その影から音もなく美波が現れ、キッドを背後から切り捨てた――。



「ぐっ!?」



 背中に熱い衝撃を感じる。

 どうやら美波に刀で切られたらしい。

 だが、この程度の攻撃は唸るほど身に付けたパッシブスキルでカバー出来るはず。

 所詮はただの通常攻撃。俺の肉体に傷を付ける事など出来やしない……。


 その時、遅れてキッドの背中から血飛沫が舞った。

 名刀『鬼切丸・綱吉』と美波の技量が、超人と化したキッドの肉体を切り裂いたのだ。


 キッドは激しい痛みに地面にうつ伏せに倒れた。

 どくどくと血が流れ、体温が低下していくのが分かる。



「ぐわぁあああ! な、なぜだ? この程度の攻撃で俺がやられるなんてありえない!」

「今起こっている事が現実だ。貴様は負けたんだよキッド」

「なっ!? 俺は神の如き力を持っているんだぞ。そんな筈がないだろ」


 美波は刀に付いた血を忌々しそうに振り払い、こう言った。


「単純な話だ。お前は人として弱かった。それだけの話だ」 

「ぐぐぐ! く、くそぉ」



 キッドはなんとか立ち上がろうとするが、傷が深かったのか身体に力が入らない。


「只野。こいつどうする?」

「拘束しよう。お前を人殺しにするわけにもいかない」



 スキルの効かないこの男をどう拘束するか悩んでいると、突如空間に歪みが生じ()()()()()()

 攪王はフードをかぶり、その表情は見えなかったがいつもと雰囲気が違って見えた。



 あまりの想定外の事態に、衝撃で頭が真っ白になる3人。

 これを好機と捉えたのはキッドだった。

 造反劇など無かったかのように、芋虫の様に這いつくばりボスの元へと縋り付く。

 

「た、助けてくれよ攪王! あんたの娘に突然斬りつけられたんだ! 見ろよこの背中の傷。なんだか力も沸かないしこのままだと死んじまうよ! なっ!? あんたのために今まで散々尽くしてきたんだ。早く助けてく……」


 グシャリと音がしてキッドの頭部が踏み潰された。

 攪王はそのまま脳漿のついた足を動かさない。

 やがて小刻みに震えだすと、雄々しく吠え、叫び出した。


 フードがバサリと落ちる。

 そこに現れた男の表情は怒りと絶望が綯い交ぜになったものだった。

 攪王は白目を剥き、忘我状態で叫び狂った。

 

 只野と美波には、この男に一体何が起こったのか検討もつかなかった――。

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