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第92話 レイラVSアンネ 『ゴシック・ワンダーランド』

 瓦礫が散乱する狭くて薄暗い室内にレイラは立っていた。


 コンクリートむき出しの建物で辺りはほこりにまみれている。

 どうやら攪王かくおうの能力により、交渉の行われていた洞窟から、見知らぬ廃墟に転移させられたようだ。


 ここがどこかは分からないが、一刻も早く只野と美波の元に戻らなくてはならない。

 レイラは『瞬間移動』を発動した。が、転移が始まらない。

 これは一体どういう事だ?



 この現象はまるで、階層の移動が出来ないダンジョン内のようだった。

 

(ここがダンジョンの筈がないわ。だとしたらなんらかの閉鎖空間に閉じ込められたということ?)


 レイラの予想は正しかった。

 突如、灰色の色褪せた廃墟に目映い光が灯った。

 眩しさに目を細めると、人が一人しか通れないほど狭い室内にいたのが、いつの間にか広い野外へと転移させられていた。


 目の前にはなぜか電飾を纏った回転木馬メリーゴーランドが回っていた。



「どういう事? ここはまさか……遊園地?」

「正解だよ♪ 私の『ゴシック・ワンダーランド』にようこそ♪」


 園内放送のスピーカーからアンネの声が響き渡る。


「せっかく招待してもらって悪いのだけど私は交渉の場に戻らなくてはならないの。ここから解放してもらえないかしら?」

「それは出来ないよ♪ せっかくボスから【GRゴッドレア】『内面世界創造』を貰ったんだから少し付き合ってよ♪」


 『内面世界創造』か。

 この閉鎖空間はアンネの生み出した内なる世界という事だろうか。

 ゴスロリ趣味の彼女の内面世界だ。きっと悪趣味で不気味なものだろう。


「ここから出る方法はないのかしら?」

「さぁどうだろう? なにせあなたが最初のお客様だからね♪ 私も分からないな~。とりあえずこの能力の実験台になってもらうね♪」




 アンネがそう言うと、目の前に巨大なクマのぬいぐるみが現れた。

 血まみれでところどころに包帯を巻いており、空洞になった目からは赤い光を放っていた。

 ぬいぐるみは口を開けるとコウモリの様な鋭い牙が生えていた。そのまま大きな口を開け、齧りつく様にレイラに襲いかかった。


「『絶対零度』!!」


 ぬいぐるみはレイラの魔法を食らい空中で氷漬けになった。

 だがそれだけでは絶命しなかったのか、手の甲から爪を出して氷を破壊し、再度レイラに襲いかかる。


「『千刃旋風』!!」


 無数の風の刃がぬいぐるみを切り裂いた。

 細切れにされて、今度こそぬいぐるみは活動を停止した。



 自慢のおもちゃが簡単に倒されてしまい不満気味のアンネ。

 そこでなにか妙案を思いついたようだ。


「いい事思いついちゃった~♪ レイラちゃんがここから脱出する方法を与えてあげる事にしたよ♪」

「……なにか条件があるのでしょう?」

「もちろん! これから用意するステージをすべてクリアしたら、ここから出してあげるよ♪」

「やるしかないようね。分かったわ」

「それじゃ最初のステージ行ってみよーう♪」


 



 レイラはアンネの指示通り、ミラーハウスへと向かった。

 室内は迷路の様な構造になっていた。壁の代わりに鏡が使用されているため、自分の姿があちこちの鏡に映し出されている。


 ここで敵に急襲されると対応が遅れてしまいそうだ。

 敵群を探知しながら用心して進む。


 四方八方を鏡に囲まれているため、自分の姿が万華鏡の様に映る。

 なんとはなしに左の鏡に目をやった。

 するとその鏡のレイラだけが別人の様に不気味な笑顔を浮かべていた。


「!! 『ソーラー・レーザー』!」


 鏡に向かって手の平からレーザー光線を射出すると「グギャッ」と断末魔の叫びを上げ、太った中年男性が鏡から現れ、絶命した。

 どうやら鏡の中に魔物が潜んでいたらしい。

 レイラは用心を重ねながら出口を目指した。




 ミラーハウスから脱出すると、今度のステージは廃病院だった。

 レイラは少しでも脱出に繋がる情報を集めようと、棚に置かれた書類に目を通した。

 すべてのステージをクリアしても解放される保障などない。


 ここはアンネの内面世界である。

 であるならば、彼女の弱点や弱みが見つかるのではないだろうか。

 無造作に置かれた書類の中にアンネのカルテを見つけた。


「これは……」


 そこに書かれていた内容に軽い衝撃を受ける。

 このネタがあればアンネに揺さぶりをかけられるかもしれない。

 もっと有益な情報はないか探っていたところ、廊下から何やら奇妙な物音が聞こえた。


 ペタリ……ペタリ……と、濡れた布を引きずる様な音だ。

 不吉な予感を感じ廊下を見ると、白い服を着た髪の長い女が廊下を這いつくばっていた。

 女はレイラを認めると、上目使いで睨みながら絶叫した。


「返せ……返せええええええ!!」

「っ!? 気色悪いわね」


 レイラが火炎魔法を放つと白い服が真っ赤に燃え盛り、女は業火に焼かれながら咆哮した。

 燃え盛った身体のまま立ち上がり、レイラに向かって手を伸ばしながら掴みかかった。


「返せええええええ!! 私の……」

「しつこいっての!」


 レイラの回し蹴りを食らった女は十数メートル後方までふっ飛ばされ、壁に激突。そのまま地面に突っ伏したまま痙攣し、動かなくなった。


「まったく。嫌な世界ね。敵自体は大して強くないから体力的には問題ないけれど精神面ではかなりくるものがあるわ。私ホラーは苦手なのよ」


 廃病院から脱出しようと、レイラが背を向けた時だった。

 突如、黒焦げになった女が立ち上がり背後からレイラに向かって襲いかかった。


「お約束ね。残念ながら一般人と違って気配を探知出来る私たちには効かないドッキリよ」


 レイラは後ろを振り返りもせずに、重力魔法で女の身体をぺしゃんこに押しつぶした。

 巨人の足にでも踏まれたかの様に、その場で女はぐしゃりと圧潰された。





 次のステージは廃れたラブホテルが舞台だった。

 フロントから入ると、中は瓦礫まみれになっていて通行が制限されていた。

 仕方なく、壊れた壁からホテルの室内を通って進む。

 

 部屋の中には大きな丸いベッドが置かれていた。

 ダンスホールの様にカラフルなネオンの光が点滅している。

 

 レイラは出口を目指して通れる場所を探した。

 少しずつ階層を上がっていき、4階に辿り着いた時だった。



 何か泣き声の様なものが聞こえてきた。

 誰かがシクシクと悲しそうな声で泣いている。

 声の高さから子供のようである。

 やがてその泣き声は徐々に大きくなっていき、最終的には耳をつんざく大音量へと変わった。


 耳を塞いでも聞こえてくるその泣き声を発しているのは、どうやら赤ん坊だった。

 レイラは声のする方向へと向かった。

 徐々に大きくなっていく声に辟易としながら、発生源を突き止め、部屋の扉を開いた。



 そこにいたのはまるで象の様に巨大な赤ん坊だった。

 裸のまま仰向けになり、ギャン泣きしている。


 赤ん坊はレイラを見つけると、泣くのをピタッと止めた。


「マンマ。マンマ」

「ごめんなさい。私はあなたのママじゃないのよ」

「バブバブ。マンマ。マンマ」

「悪いけどあなたにかまっている暇はないの。先に進ませてもらうわね」

「マンマ。マンマ。……駄目だ。この先にはいかせねえよっ!!!!」

「!?」


 突如赤ん坊のしゃべり声が甲高い声から、野太い男の声へと変わった。

 レイラに巨体を活かして平手打ちを放つ。

 攻撃をまともに食らったレイラは壁へと叩きつけられた。衝撃で壁に放射線状に亀裂が走る。


「油断したわ。可愛い見た目に騙されてはいけないって事ね」

「ゲハハハハ。ぶっ殺してやるぜぇ。姉ちゃんよぉ」

「意思の疎通が出来るみたいだから最後に聞いておくわ。あなたはこの世界の創造主アンネと関わりがあるの?」

「そんな事俺がしゃべると思ったか? 考えが甘すぎるんじゃねえか? ゲハハハハ」 

「まあいいわ。判断材料は大分集まってきたから」


 レイラはくるりと背を向けると、自身の真上に小さな黒い渦巻きを作り出した。

 そのまま赤ん坊を振り返りもせずスタスタと出口に向かって歩いていく。


「おぉい! 背中ががら空きだぜ! 姉ちゃんよぉ!!」


 赤ん坊が平手打ちを放とうと、右手を高く振りかぶって襲いかかってきた時だった。

 黒い渦巻きがまるでブラックホールの様に拡張し、赤ん坊は吸い込まれていった。


「ひっ!? ぎやああああああああ!! た、助けてマンマー」

「自業自得ってやつね。さようなら赤ちゃん」






 

 レイラはその後いくつものステージを攻略していった。

 時計の無いこの場所では時間の感覚が曖昧になった。

 数日なのか数週間になるのか、レイラはこの狂った空間に長期間勾留され続けた。


 体力、気力ともに限界を迎え始めた時、アンネがようやく姿を表した。

 相変わらず髪をツインテールにし、ゴスロリ衣装に身を包んだ派手な格好をしている。


「楽しんで貰えたかな? 私の『ゴシック・ワンダーランド』は♪」

「……残念ながら微塵も楽しめなかったわ。ここまで不快なテーマパークは初めてよ。それでステージはすべてクリアしたって事かしら?」

「とんでもない! まだまだ100分の1、1000分の1、10000分の1だよ~♪ レイラちゃんは未来永劫この空間に閉じ込められて、醒めない悪夢を見続けるんだよ♪ 覚悟してね」

「……そう。やはり解放するなんて約束は嘘だったのね」



 レイラは静かに溜め息を突き、不気味に嗤うアンネを指差した。



「本当は他人の傷口を抉ったり、トラウマを刺激するのは気が進まないけれどあなたの場合は別ね、アンネ。このままではこの邪悪な魔境から抜け出せないみたいだし、あなたが心の奥底に押し込めて隠している秘密をここで暴露するわ」

「秘密~? なんの事かな♪ アンネ分かんないな~」

「あなたには子供がいたわね。それも赤ん坊のまま死んでしまった子供が」


 そこにきて、初めてアンネの表情が固まった。


「父親はミラーハウスにいた中年男性ね。ずいぶん年齢の離れた相手だったのね」

「なんの事かな♪」

「隠しても無駄よ。この内面世界の登場人物はすべて死人なのね。大方子供の父親を殺したのはあなたなんでしょうよ」

「なにを根拠にそんな事言ってるの? めちゃくちゃだよ~♪」

「廃病院で見つけた資料よ。そこにあなたと父親、赤ん坊のカルテを見つけたわ」

「っ!!」


 余裕綽々だったアンネの表情が一変した。

 黒目がちな瞳孔が収束し、カマキリのような三白眼へと変わる。 


「あなたは道ならぬ恋をしてしまったようね。さしずめ母子家庭で育った少女が父性を求めて年上男性に恋をするって感覚かしら?」

「やめろ」

「男性も初めは戸惑ったでしょうね。なにせ自分の教え子に迫られるなんて思ってもいなかったでしょうし」

「おい」

「行為を繰り返すうちに妊娠。子供を身籠ったあなたは男性の堕胎の勧めも拒否して、あの赤ん坊を出産した」

「やめろっつってんだろゴラ」

「そしてその赤児を男性に殺されてしまった。大切な子供を殺されたあなたは怒り狂い男性を殺害した。とんでもない悲劇ね」

「やめろおぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!」


 アンネは喉から血が出そうな声で絶叫した。

 ハァハァとその場に立ち尽くして息を荒げる。


 レイラは駄目押しにカルテを見て気付いた()()()()()を告げた。


「アンネ。あなたも薄々気付いていたのね」

「……ひっ!」

「まさかDNA検査までしているとは思わなかったわ」

「ひぃぃ!」

「検査の結果はこう記されていたわ。ほぼ100%の確率でアンネとお相手の中年男性が()()()()であるとね。別れた実の父親とこんな形で出会うなんてとんだ悲劇ね。まあ近親相姦の末の不義の子でもあなたにとっては大切な我が子だったのね。可愛そう。同情するわ」

「あひゃ、あひゃ、あひゃっはっっはっははっははははっははははっは!!!!」



 

 アンネが発狂し、『ゴシック・ワンダーランド』が解除された。

 レイラは無事に元の世界へと戻る事に成功した。


 狂人のように笑い続けるアンネを見て、レイラは一言付け足した。


「ごめんなさい。さっきの言葉は嘘。今のあなたを見ても可愛そうだなんて思わないわ。そうやって永遠に自分の内面世界に囚われてなさい。そこは犯した罪を償うにはぴったりの……地獄よ」

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