第91話 風祭VSミレイ 『永劫の戦場』
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攪王の『亜空間移動』によって風祭は、交渉が行われていた洞窟からどこか分からない場所へと転移させられていた。
周囲を観察してみると空には青空が澄み渡っており、野外に飛ばされた事が分かる。
ここは青々とした草木が生い茂る広大な草原だった。
只野と美波の事が心配だ。
風祭は『瞬間移動』で交渉の行われていた洞窟へ戻ろうとすると、遥か一キロほど先の場所に遅れてミレイが現れた。
「くっくっく。ボスは気が利くぜ。こんな楽しめそうな遊び相手を用意してくれるとはよ」
「貴様にかまっている暇はない。悪いがさっさと移動させてもらうぜ」
風祭が瞬間移動を発動しようとした瞬間だった。
青空が一転、夕焼けの赤い空へと変わった。
変わったのは空だけではない。
地上も青々とした草原から、煙硝香る戦場へと変貌した。
「な、なんだこれは!? 突然景色が……空間が変わりやがったのか?」
「【GR】『永劫の戦場』だ! ボスが餞別にくれた置き土産だぜ。このスキルは架空の戦場を生み出し、古今東西の軍隊を生み出せる素晴らしい能力さ」
「チッ、『瞬間移動』が使えんな。貴様の作り上げた空間に閉じ込められたって事か」
「御名答、その通りだ。さあ存分に殺り合おうぜ風祭大吾! てめえみたいな我が国の英雄様をこの手でぶっ殺せるなんて夢みたいだ!」
ミレイは右手を高く上げると、風祭の方向目掛けてゆっくりと振り下ろした。
すると、遥か後方から地鳴りの様な足音と雄叫びが聞こえてきた。
その光景に度肝を抜かれる風祭。
「お、おい。嘘だろ!? なんだあの古めいた格好の軍隊は?」
「第二次世界大戦中のドイツ兵たちだ! 皆お前を殺しにきてるからな。しっかり返り討ちにしろよ?」
緑の軍服の兵隊たちが突撃銃を持ってこちらに迫ってくる。
その決死の表情と、一人ひとりが発する声の生々しさから、実態を持った生身の人間に見えた。
さすがに民間人を簡単に殺すわけにいかない風祭は、一先ず防御を固めてやり過ごす事にした。
分厚い黄金の防壁を展開すると、壁に向かって旧ドイツ兵たちが発砲してきた。
銃弾などではこの壁に傷一つ付かない。
旧ドイツ兵は突撃を続け、怨敵であるかのように風祭を攻撃した。
なんの恨みも買ってないのに好き放題発砲されるのは癪に障る。
「おいおいつまんねえな! さっさと反撃しろよ。どうせこいつらは私の能力が生み出した亡霊みたいなもんだ。なんなら無理矢理手を出させてやるぜ」
ミレイが右手を上げ「突撃!」と叫ぶと、旧ドイツ兵は全身に爆薬をくくりつけて黄金の壁へと体当たりを始めた。
風祭の作った壁の前で爆発し、肉片をぶち撒けていく兵士たち。
それでも風祭の防壁には微塵も傷は付かなかった。
「やめさせろ! こんな事してなんになるっていうんだ」
「お前が壁の裏に引きこもって安寧を貪ってるのが悪いんだろ。出てきて戦士らしく潔く戦えよ。知ってるんだぜ。お前の本質が戦闘狂だって事はな」
「てめえみたいな狂った戦争屋と一緒にするな! いつまでこんな空間に閉じ込めておくつもりだ」
「私を殺すか、この兵士どもを皆殺しにするかだな。もっとも、どちらも簡単な事ではないがな」
「ようし分かった。だったらお前をぶっ殺す!」
風祭は防壁を消して、うって出ると全速力で駆け抜けた。
まるで黒豹のように人間の速さを超越したスピードで、数キロ先のミレイの元へ駆け出す。
ドイツ兵から銃撃を受けるも今の風祭は、大したダメージを受けない。
ミレイへの距離を徐々に詰めていく風祭。
「銃撃よりもこっちが効くかもな。来い、スパルタの重装歩兵たちよ!!」
ミレイが手を振り下ろすと、丸い大盾に鉾を持った筋骨隆々な兵士たちが現れた。
金色の兜をかぶり、赤いマントを翻している。
スパルタ兵たちは、風祭に向かって雄叫びを上げながら襲いかかってきた。
「悪いな。あんた達は強そうだから本気でいかせてもらうぜ」
風祭は走りながらリレーのバトンを求めるように後ろに手を伸ばす。すると亜空間から槍が出現し、その手に握られた。
目の前の屈強なスパルタ兵の集団目掛けて、走りながら槍攻撃を放つ。
「『魔槍一天衝』!!」
槍の先端にエネルギーが収束し、穂先が巨大な刃となってスパルタ兵を襲う。
まるで丸太の攻城砲のような分厚い刺突攻撃に数百のスパルタ兵の戦陣に風穴が空いた。
そのままの勢いで後陣のミレイ目掛けて槍を繰り出す。
が、ミレイは殿の位置から姿を忽然と消した。
気配を探ると自分が駆けてきた遥か後方数キロ先の位置にワープしていた。
「ひゃーはっはっは! 簡単に敵将を討ち取れると思うなよ? まずは雑兵から片付けるのが戦の基本だぞ」
「そうかよ。あーもういい。どうせ旧ドイツ兵もスパルタ兵も、もうこの世には存在しないんだ。こいつらは確かに亡霊だ。人型の魔物として気兼ね無くぶっ殺させてもらうぜ」
「そうだその粋だ! やってみろよ。ただ一つ言っておくがこの戦場にいればいくらでも兵隊は生み出せるんだぜ?」
そう言ってミレイは自分の周りに薄緑色の軍服を着た兵を召喚した。
見覚えのあるその衣装は旧日本兵のようである。
体勢を立て直したスパルタ兵と旧ドイツ兵もこちらに向かって攻め込んでくる。
「『バハムート』召喚! 上空から爆撃しろ!」
風祭はバハムートを召喚し、上空へと飛翔させると『オメガ・フレア』を放って敵軍を攻撃した。
その威力は凄まじく、着弾の衝撃で敵兵がみるみる焼け焦げていった。
地上からは亜空間から創出した大量の機関銃で、一斉掃射を仕掛ける。
またたく間に、この空間は爆炎と煙硝煙る地獄の戦場と化した。
その光景にミレイが満足そうに高笑いを上げる。
「ひゃーはっはっは! これだよこれ!! 私が本当に求めていたものはさ! あーそうだったんだ。私は初めから戦場に向かい、戦場で死ねば良かったんだ。ありがとよ攪王。私も人生の真の目的というものに気付かせてもらったよ!」
ミレイは更に、最新装備のアメリカ兵を生み出した。
バハムートに向かって戦闘機F-22 ラプターが襲いかかり、地上の風祭目掛けて航空機から降下攻撃が行われる。
風祭は更にヘカトンケイルを召喚し、地上と上空からの攻撃に対応した。
戦場は次第に混沌と化していった。
際限なく湧いてくる、古今東西の兵士たちとの戦闘に風祭は徐々に疲労を蓄積させていった。
戦闘を回避し、一足飛びに敵将のミレイの元にワープし攻撃を仕掛けるも、それは幻影だった。
どうやら簡単に王手とはいかないようだ。
この空間から離脱するためには、敵軍を殲滅するしかないのだ。
その過酷な戦いは数週間にも及んだ。
風祭は疲労が溜まると分身体を作り出し戦わせ、自身は防壁の中で休息を取った。
食事は亜空間から取り出して摂取した。
こうして体力を温存しながら、不屈の闘志で終わりの見えない戦いを続けた。
既に何十万、何百万人もの人間をその手で殺めても、風祭の心は折れる事はなかった。
たった一人で戦い続けるその強靭な精神はまさに『孤高』の二つ名に相応しかった。
戦いの中で敵を観察すると、皆違う軍服を着ている事に気付いた。
おそらく呼び出せる兵士は戦争が行われていた一つの時代につき、一度きりなのだろう。
その証拠に太平洋戦争時の旧日本兵は一度しか出現せず、次に現れた日本兵は日露戦争時代の軍服を着ていた。
風祭は段々この『永劫の戦場』の正体に気付き始めていた。
「戦争中の兵士を部分的に取り寄せる能力か。敵兵のバリエーションも減ってきたしそろそろ終わりが近いみたいだな」
古代ローマ軍の兵士の最後の一人を倒したところで、戦場に静寂が訪れた。
しばらく姿を消していたミレイが、拍手をしながら風祭の前に現れる。
ミレイは戦争映画の長編大作を見終わったばかりの観客のように非常に満足そうな表情だった。
「おめでとう。今のが最後の軍隊だったよ。あんたは世界中のあらゆる兵士を殺し尽くしたんだ。間違いなく個人としては世界一の人殺しだな」
「それはどうも。もう戦争ごっこは終わりか?」
「ああ。ここまでいいもの見せてもらったんだ。最後は私がお相手させてもらうぜ」
「そうか。んじゃ、さっさと終わらせるぞ」
風祭は一瞬でミレイの背後に回ると、心臓を抉り出した。
激しく喀血し、地面へと崩れ落ちるミレイ。
「……ひゃはは。ありがとよ。げぼっ! ……ずっと思ってたんだ。平和な時代は私にはつまらな過ぎるって」
「貴様の様なケダモノはどの時代に生まれても同じだ。永遠に理解なんてされないストレンジャーだよ」
「ひゃはは、違いねえ。あーでもよ、戦場で散れるなんて、夢、みたいだ――」
ミレイは血と涙を流しながら絶命した。
その引き攣ったような笑い顔を死相に残して。
同時にミレイの能力が解かれ、風祭は戦場から開放された。
来た時と同じ真っ青な青空と、緑の草原に立っていた。
現実での時間がどれくらい経過したのかは不明だが、数ヶ月の過酷な戦場を体感した風祭は疲労困憊のため、草むらに突っ伏した。
「すまん。さすがにもう限界だ。俺は少し寝る。後は頼んだぞ只野、美波――」




