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第90話 狂気の芽

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 自分について説明出来る事はほとんど無い。

 一体どこの国で生まれたのか知らないし、産みの親の顔も覚えていない。


 本名木戸一郎。19歳。男性。職業ダンジョン探索士。

 現在はキッドの通称で『レイジ・リベリオン』に密偵として参加し、幹部にまで登り詰めている。




 過去を振り返ってみよう。

 一番最初の記憶は掃き溜めみたいな街で揺り籠に揺られているものだ。

 育ての親は売春婦だった。


 彼女がずっと母親だと思っていたが、金髪碧眼で色白な俺とは肌の色も髪の色も違っていた。

 彼女は色が浅黒く、天然パーマで派手な化粧をした女だった。

 

 恐らく俺をバービー人形か何かだと思って拾ったのだろう。

 初めは仕切りに可愛がってくれていたが、飽きるとあっさり育児放棄された。


 なので子供の頃の俺はいつも汚い服で垢にまみれ、腹を空かせた欠食児童だった。

 

 


 父親は定期的にかつ頻繁に変わり、日替わりで変わる事もあった。

 大半がギャングかマフィアのクズ野郎で母親がいない時にはひたすら殴られ蹴られ嬲られた。

 中には母親より俺の身体に欲情する変態野郎もいた。

 ガリガリに痩せた貧弱なガキが抵抗出来るはずも無く、行為の間は天井の染みを数えて気を紛らわせた。



 誕生日も祝ってもらえなかったので、自分が何歳かも分からなかった。

 周りの子供たちから推測して、おそらく10歳くらいの時に母が消えた。

 数日いなくなることはざらにあったが一週間が過ぎた頃、大家がやってきて母が失踪したから俺に家から出ていくよう告げた。


 どうやら家賃を払えなくなったらしい。

 俺は当たり前のように置き去りにされた。


 路上生活も初めは苦労したが、ゴミ捨て場を漁って飯を確保する術を覚え餓死はしなかった。

 ホームレスの様にダンボールで家を建てて生活をしていると、背広を着た大人たちがやって来た。

 誰かが俺の事を通報したらしい。





 俺はしばらく孤児院に預けられた後、異国の地へと送られた。

 その国は信じられないほど豊かで、街にはゴミ一つ落ちていなかった。

 それが日本だった。


 俺は木戸という老夫婦の家に養子として迎えられた。

 優しい養父母、新しい名前、学生という身分。

 温かいベッド、栄養価の高い食事。

 喜びを分かち合える友、正しい道へと指導してくれる恩師。


 地獄から天国へとやって来た俺は、すくすく成長していった。

 


 木戸夫婦は探索士協会の重役で、俺も幼少時より探索士としての訓練を積まされた。

 探索士協会の中に協会のための汚れ仕事を行う暗部という存在があった。

 俺は暗部の一員として育成され、15になる頃に初めて人を殺した。

 その後も木戸夫婦に育ててもらった感謝の念から汚れ仕事も進んで引き受けた。


 身元不明の孤児に恩を売っておけば、簡単に逃げ出さない兵隊に育つ。

 完全にゲリラ組織の少年兵の作り方と同じであった。

 


 それでも俺は、任務をこなしていく中で不思議と胸がスーッと晴れていく感覚を味わった。

 上司から褒められる事が嬉しかったわけではない。

 自分が他者よりも優位に立っていると感じる瞬間が嬉しかったし、楽しかったのだ。


 ゴミみたいな掃き溜めの祖国から脱し、新天地で充実した生活、教育を受けても俺の芯になる部分は歪んだままだった。

 俺の心根は真っ直ぐにならなかったのだ。


 きっと育ってきた環境で俺は狂気の種を植え付けれられたのだ。

 その芽が今になって発芽したのだろう。


 それでも俺は表面上は自分の本質を隠して生きてきた。

 4年前、『レイジ・リベリオン』が現れるまでは。






 『レイジ・リベリオン』の活動が激化し、俺は探索士協会から密偵を命じられた。

 攪王の信頼を得るため積極的にテロ活動に参加し、民間人を虐殺し、街を蹂躙していった。

 

 初めて炎魔法で人間を丸焼きにした時、俺は不覚にも絶頂に達してしまった。

 性に関しては子供の頃のトラウマからずっと忌避してきたが、この歳にして自分の性癖というものを初めて知ってしまった。


 それ以来俺はテロ行為の合間で、あらゆる方法で人を殺した。

 水魔法で窒息させたり、雷魔法で感電死させたり、土魔法で圧死させたりした。


 中でも一番楽しかったのは直接自分の手で命を断つ行為だった。

 強化した肉体で、殴ると人間の胴体など簡単に穴が空く。

 少しエネルギーを纏うと手刀で簡単になます切りに出来てしまう。


 この楽しさを知ってしまってからは、俺の居場所は探索士協会ではなく『レイジ・リベリオン』にある事を悟った。

 

 


 テロ行為だけではなく『技討隊』の探索士狩りも楽しかった。

 無抵抗の人間を殺すよりずっと、歯向かってくる自信家の探索士共を叩きのめす事に快感を覚えた。


 上級探索士を殺す毎にボスから新たにスキルカードを貰えた。

 新たにスキルを覚える事で益々強くなり、気がつけば俺はS級探索士さえも寄せ付けない程の強さを手に入れていた。


 この愉しい破壊と殺戮の日々を永遠に続けていきたいと思っていた。

 そのため、ボスの真の目的を聞かされた時は正直落胆した。

 まさかそんな下らない復讐心のために、世界に悪意をばら撒いていたとは。


 おまけに解決策を見つけたらすべてを放棄して、過去に戻るだって?

 まったく。

 バカバカしくて嫌になっちゃうよ。


 せっかくここまで築き上げてきたものを放棄しようなんて勿体無い。

 ボスの作ったこの組織は俺が引き継がせてもらうよ。

 二代目攪王の誕生さ。もちろん俺が二代目だという事は秘密にするけどね。


 アンネとミレイも賛同してくれればいいな。

 まあ邪魔するようなら始末して、幹部も一新するだけだね。

 




 攪王が置き土産にくれたこの【GRゴッドレア】カードがあれば、俺はこの世の誰にも()()()()()()()


 さあ、まずは二代目攪王の初仕事だ。

 ガチャ屋只野とボスの娘美波を抹殺しようか。


 最近じゃテロ行為も控えめで、S級暗殺も停滞気味だった。

 ここまで我慢してきたんだ。禁断症状が出そうだよ。



 こいつらはたっぷり甚振ってから始末する事にしよう――!

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