第86話 只野の居場所を探せ
美波は父が『レイジ・リベリオン』の首領、攪王である事を誰にも言えずにいた。
もしこの事を探索士協会に話せば、『レイジ・リベリオン』壊滅への糸口が見つかるかもしれない。
だがS級探索士も数えるほどになり、世界の軍事関係者も及び腰な現状では、必ずしも有益な情報にならないかもしれない。
美波はこの数日間悩み果てていた。
これまでの人生で一番といっていいほどの苦しみを感じていた。
こんな誰にも話せない悩みを相談出来そうなのは只野だけだった。
だがその只野も数ヶ月前から仕事と称して行方をくらませている。
携帯にも繋がらず、秘書のメイに聞いても「場所は答えられない」と言うばかりだった。
美波は仲間たちと連絡を取り、只野の情報を探った。
同じくA級に昇格したアリサや萌仁香、猫田、ムッツに聞いてみても梨の礫だった。
手当たり次第に只野の行方を問い質すメールを送っていると、只野の銃の師匠だったステファニーから連絡があった。
彼女はS級探索士に昇格していたが、まだ駆け出しという事もあり『レイジ・リベリオン』の魔の手からは逃れられていた。
ステファニーのメールにはこう書かれていた。
<S級探索士の間での噂ですが、2ヶ月ほど前に『レイジ・リベリオン』のボスを倒すため、世界最強の探索士たちが日本に向かったそうデース。もしかしたら彼らなら只野サーンの行方を知っているかも知れまセン>
美波はステファニーに頼んでレイラ・アンダルシアの連絡先を手に入れた。
レイラのアドレスに「只野に会わせてくれ。どうしても伝えなければならない事がある」とメッセージを送った。
すぐに「こちらが指定する場所に来てもらいたい」とレイラから返信があった。
美波は指定された場所へと向かうため新幹線に乗った。
京都駅に辿り着くと、駅前の人混みで待機した。
やがてネルシャツにジーンズのラフな格好の男が現れた。
スポーツ新聞で口元を隠しながら耳打ちしてくる。
「美波さんですね。私、探索士協会副会長の畔上と言います。レイラさんから話は聞いてます。私が貴方を只野さんの元へと案内致しますのでよろしくお願いします。……ちなみに尾行はされてませんよね?」
「新幹線の中の人間全員の気配を捕捉していたが、ここまで私を尾けてくる者はいなかった」
「さすが史上最年少でA級探索士に昇格しただけはありますね」
「世辞はいい。只野の元に案内してくれ」
「かしこまりました。一応敵に捕捉されていないかを確認するため、ここから電車と地下鉄、バスを乗り継いで行きます」
「分かった」
凄い用心の仕方だ。
まるで、この国のVIPの様な扱いだ。
恐らく探索士協会は何らかの方法で只野と攪王の能力が同じであると気付いたのだろう。
只野を軟禁してこれ以上敵にスキルガチャダスが行き渡らない様にしているのだろうか。
電車、バス、車を乗り継ぎ、自分たちを追ってくる気配がない事を確信した。
畔上について行くと伏見稲荷大社で車が止まった。
千本鳥居をくぐり抜け、稲荷山を登っていく。
途中脇道に入ると、沢山いた観光客がいつの間にかいなくなった。
鬱蒼とした木々の間を進んでいく。
不思議な事に、霧も出ていないのに数メートル先がぼやけて見えない。
静寂が支配する幻想的な場所だった。
やがて、畔上が歩みを止めると「転送を開始します」と美波に告げた。
美波の足元に五芒星の紅い光が現れると、彼女の身体が光に包まれ一瞬で消失した。
美波が辿り着いたのは、先程のように靄や霞がかかった竹林だった。
稲荷山との違いは山の斜面ではなく、広い空間である事だ。
美波は背後から気配を感知し、後ろを振り向くと靄の向こうからセクシーな白人女性が現れた。
「レイラ・アンダルシアよ。よろしくね美波」
『技能達人』レイラ・アンダルシア。
探索士に詳しくない美波でも彼女の事は知っていた。
同じ女性でありながら、信じられない偉業を幾つもこなしてきた彼女は憧れの的だった。
でもなぜ世界一の女性探索士が只野を匿っているのだろうか。
「只野はどこにいるんだ? 会って話さなればならない事がある」
「只野一人は今ガチャを引いているわ。本当だったら部外者に会わせている余裕はないのだけれど、肉体的にも精神的にも大分支障が現れ始めているのよ。だからお願い美波。会って彼を励ましてあげて」
「ガチャを引いてるだけで参っている? どういう事だ」
「……この2ヶ月間、彼はほとんど不眠不休でガチャを引き続けているわ」
「な、なんだと? 頭おかしいのかお前ら。一体なんのためにそんな無茶をさせているんだ」
「攪王を殺すために必要な【GR】を出すために只野はガチャを回し続けてきたの。そして先日、私達は『レイジ・リベリオン』殲滅のため、敵のアジトに乗り込んだわ。結果は惨敗。リーダーロスチャイルドは攪王に殺されてしまったの」
レイラの口から攪王という名前が出て、美波の心臓は大きく跳ねた。
攪王の真の目的を知っているのは、もしかしたらこの世で自分だけかも知れない。
美波はその悩みを只野に相談しに来たのだ。
だが、只野の方が自分よりも遥かに困難な状況に置かれていた。
「攪王は時間を操るスキルを持っているの。対抗出来るスキルを引いてもらうため、彼にはガチャを回し続けてもらっているの」
「だからって不眠不休で回す必要なんてないだろう。『レイジ・リベリオン』が焦って攻めてくる事はない。攪王だってガチャを引いているんだ」
「美波? あなたどうしてそんな事を知ってるの」
「……」
美波は思わず口を噤んだ。
レイラに「自分の父が攪王です」と打ち明けてしまえば楽になるだろう。
だが、その踏ん切りがつかない。
美波は今ほど只野に会いたいと思った事はなかった。
「ついたわよ。あの屋敷の中に彼がいるわ」
塀に囲まれた武家屋敷のような建物があった。
玄関から中に入り、居間の襖を開けると大量のスキルカードが雪崩込んできた。
そこには、心神耗弱な状態で目が虚ろになりすっかり痩せこけた只野がいた。
椅子に腰掛け、目の前の筐体からひたすらガチャのダイヤルを回している。
身体をふらふらと揺らし、ぶつぶつと譫言をつぶやいている。
その横では日本人なら誰でも知っている探索士、風祭大吾が護衛のように立っていた。
只野をこんな酷い状態にさせてまでガチャを回させるレイラと風祭に、美波は髪が逆立つ様な激しい怒りを覚えた。
二人の顔を思い切りぶん殴る。
レイラも風祭も、美波の攻撃を甘んじて受け入れた。
頬を腫らしながら風祭は一言「すまねえ。世界のためだ」とつぶやいた。
美波が来たことにも気付いていない只野は、ぶつぶつと呟きながらガチャを回し続けている。
まるで夢遊病のパチンコ中毒者のようだ。
美波は、優しく只野の肩をさすった。
「只野、会いに来たよ。話したい事があるの。まずは少し休もうか。ゆっくり眠ってまたお話しようね」
美波の言葉が届いたのか、はたまた体力の限界が訪れたのか、只野は美波の身体に崩れ落ち寝息を立て始めた――。
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