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第85話 美波と父。4年ぶりの邂逅

 美波は自宅のマンションで学校の課題に取り組んでいた。

 大学生になって引っ越したマンションは、高校時代を過ごしたボロアパートより家賃が5倍も高いものだった。

 もっともA級探索士として活躍する美波にとって、その程度の家賃は大した負担ではなかった。


 机に座ってじっとしている事が性に合わない美波は、やがてシャープペン回しを始め、現実の課題から逃避するように他の事を考え始めた。

 その中で、最近よく考えるのが家族の事だ。



 母が亡くなって4年。

 思い出すのはあの優しい笑顔だ。

 小柄で少し太り気味。明るく陽性な人だった。

 顔も性格も自分とはあまり似ていなかったが、美波は母の事が大好きだった。


 そして母の死後、失踪した父。

 父については複雑な感情があった。

 今日の自分があるのは父のおかげだが、釈然としない気持ちもある。

 自分に探索士の才能があると分かると厳しい鍛錬を課せられ、共に何度もダンジョン探索を行った。

 

 子供の頃は比較の対象もいないため、父は自分よりもずっと強い立派な探索士だと思っていた。

 だが簡単にC級、B級、A級に上がっていった自分と違い、父はD級の下級探索士だった。

 大人になった今ならば分かるが父にはあまり才能がなかったのだろう。


 長身で痩せぎすなところ、自分に自信が無さげなところが、会ったばかりの頃の只野に似ていた。


 母の治療方法を探すために四方を駆け回り、騙されて莫大な借金を背負わされた哀れな男だ。

 その後は自分を親戚に無理矢理預け、失踪してしまった。

 今でもその行方や生死は不明のままだ。


 その後美波は、高校入学と共に不仲の親戚の家を出てひとり暮らしを始めた。


 不思議と父に恨みは持っていない。

 卑怯者だとか、身勝手に捨てられたとか、親として無責任だとかいくらでも罵れるのだろうが、そうしたいとは思わない。

 自分にとって父は怒りではなく哀れみの対象だったからだ。 


 父は母を誰よりも愛していた。

 娘の自分の存在などどうでもいいと思えてしまうほど、母の死はショックだったのだろう。

 とても愚直で純粋な人だったのだ。





 ――なぜこんな回想に耽っているのだろうか。

 最近不思議と両親の事ばかり考える。

 高校生の時は過去を思い出すなんて事はまるで無かったと言うのに。



 その時。

 居間に気配を感じた。


 机のある寝室で課題に取り組んでいた美波は、扉を開け居間へと向かう。


 一体誰だ? 明らかに人の気配を感じる。

 それも突然別の空間から移動してきたかのように、急に反応が現れた。


 用心のため、今はスペアとなった妖刀ムネマサを手に居間の扉を開けた。



 そこに立っていたのは黒い外套を着た男だった。

 顔に見覚えがある。

 深いしわが刻まれ、幾分年を重ねて見えるが、紛れもなく父の姿だった。


「――もしかしてお父さん?」

「ああ。久しぶりだな美波。大きくなったな」


 その大きく切れ長な目を細めて、微笑む父。

 4年前に失踪した父で間違いなかった。


「4年も一体どこに行ってたの」

「そうだな、どこから話せばいいのか。とても長い話になってしまうが、私には君に説明する義務があるな」


 父は話し方といい、身に纏う雰囲気といい、別人のようであった。

 元々陰気な人間であったが、今の父からは深い闇のようなものを感じる。


「本題から話そう。私は『レイジ・リベリオン』の創設者であり、撹王かくおうと呼ばれる首魁だ」

「な……何を言っているの。冗談は止めて」

「冗談ではないんだ、美波。A級探索士の君なら分かるだろう。我々が探索士協会の敵であり、ひいては世界の敵であるという事を」

「は、はは。いや、ないわ。ないない。だって……今だから分かるけど、お父さん弱かったじゃん。あんなパッとしない下級探索士が『レイジ・リベリオン』のボスって……。いや、ないわー」



 美波は必死に父の言葉を否定した。

 いつも冷静沈着な美波としては珍しいほど動揺していた。

 自分の中から湧き上がってくる恐怖をかき消すには、父の言葉を否定するしかないと感じていた。


「簡単な話だよ。沙友理が亡くなってからダンジョンに行き、そこで『スキルガチャダス』を手に入れたんだ。美波も知っているだろ。君とパーティーを組んでいた只野一人も同じ能力を有しているんだから」

「え……! お父さんも『スキルガチャダス』を持っている……?」

「発動してみせよう。スキルガチャ屋の手伝いもしていた君なら見間違う事もないだろう」


 そう言って、父はスキルガチャダスを発動した。

 目の前に漆黒のガチャ筐体が現れる。

 カラーリングこそ違うが、見た目は只野の『初号機』とまったく同じであった。


「このガチャ能力で自分を強化したり、テロリストにスキルカードを提供したのだ。沙友理を殺した田黒をかばい続けたのは、保身にかられた上流社会の人間どもだ。奴らに鉄槌を下していくうちに『レイジ・リベリオン』はいつの間に大きくなってな。部下の要望も聞き入れているうちに世界中に賛同者が増えていった」

「もういい。止めて!」


 美波は父が敵の首魁である攪王である事を理解した。

 否、実際はもっと早い段階で気付いていた。

 父からは常人からは感じた事のないほど「死」や「憎悪」の匂いを強く嗅ぎ取れたからだ。


「だがな美波よ。私は自分のしてきた事を弁解するつもりはないが、真の目的は初めから一つだ。沙友理にもう一度会いたい。会って今度は彼女が辛い思いをしないで済むような人生を送らせたい。そのために、私は彼女を生き返らせる事が出来るスキルカードを探している」

「……」

「私の真の狙いは現在所有している『時間操作』で過去に戻り、沙友理が難病で亡くなった時点で彼女を生き返らせる。そうすれば4年前の平和な時代で、家族仲良く平和に暮らしていける。素晴らしい企みだと思わないか?」

「そんな事をしてお母さんが喜ぶとは思えない」

「理解してもらおうとは思わないさ。きっと私の行動は狂気にかられているように見えるだろう。だがな、私はどんな手を使ってでも沙友理を甦らせるぞ。4年前私は世界に見捨てられたが、今度は私が世界を見捨てる番なのだ。フフフ。フハハハハ。ハーハッハッハッハッ!」


 口角が裂けた様に大口を開け、不気味な高笑いを上げる父。

 瞳孔が眼球内で激しく狂奔していた。

 

 美波は生まれて初めて、心の底から恐怖を感じた。

 自分の数倍の大きさの魔物に対しても感じた事のない、底冷えするような戦慄を味わった。


「さらばだ。美波。私はガチャを引かなくてはならないから、ここでお別れだ。君の()()()()に言っておけ。もし私より先に意中のカードを引いたのなら攪王が交渉に応じてやってもいいぞ、とな」



 そう言い残し、父こと攪王は『亜空間移動』で去っていった。

 美波は不安と恐怖からこみ上げてくる吐き気を懸命に堪えるので精一杯だった――。

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