第83話 ロスチャイルド、最期のメッセージ
もし少しでもご興味頂けましたらブックマークと評価で応援をお願い致します。
下にスクロールしていくと、ポイント評価を付ける部分がございます。
下にある「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にして頂けると執筆の励みになります!
ロスチャイルドは『時間停止』を解除した。
撹王の『時間操作』の前では自身の能力はなんの意味もない事を悟ったためだ。
時間停止が解かれ、風祭とレイラは自分たちが宮殿前から移動している事に気付き驚いた。
攻撃の巻き添えにさせないように、ロスチャイルドが二人を移動させていたのだ。
そんな配慮も無駄となってしまいそうだ。
このままでは確実に自分は負ける。
ロスチャイルドは二人に撹王の能力を知らせる必要があると考えた。
時間稼ぎも兼ねて撹王に質問をする。
「まさか私の能力を上回る、時間を操るスキルが存在するとはナ。分身体やオーディンを倒した手段は時間を停止してから早送りでもしたのかネ?」
「ご想像にお任せするよ。律儀に説明してやる必要もない」
「『レイジ・リベリオン』の撹王ともあろう者が随分小さい事を言うナ。どの道我々が負けた時点で世界は貴様のものダ。少しくらい教えてくれてもいいだろウ」
「ふん。まあ貴様らが全滅するのは不可避の事実だ。さらなる絶望を抱えて死んでもらおうか。私の『時間操作』は過去にも未来にも自由に行き来できる能力だ。故にこの『時間操作』を引いた時点で我々『レイジ・リベリオン』が天下を手中に収める事は決まっていたのだ」
二人の話を聞いていた風祭が、口を挟もうとした瞬間、レイラが肩を掴んで制止した。
何も喋るなと首を振る。
風祭は彼女の意図を察し押し黙った。
「『レイジ・リベリオン』の天下カ。君は果たして本当にそれを望んでいるのかネ」
「どういう事だ」
「社会的弱者救済の名目で始めたテロ活動だガ君の真の狙いは他にあると見タ」
「つまらん戯言だ。私が弱者を救うため、彼らにスキルを授けたのは紛れもない真意だ。他意などない」
「確かにナ。だが私はテロ活動はあくまで副次的なもので、真の目的は達成出来ていないと読んでいル。そしてその目的は君のパーソナルな部分に関わっていル。どうだ、私の推理間違っているかイ?」
そこで初めて撹王が口を噤んだ。
表情がスーと能面の様な無表情に変わる。
撹王の変貌に心配したアンネが声をかける。
「どうしたの撹王? あんなお爺さんの言うことに耳を貸しちゃ駄目だよ♪」
「……ああ。ありがとうアンネ。雑談はここまでだ。そろそろ奴の口を黙らせよう」
撹王の雰囲気が変わった。
これから自分たちを始末するための行動に移るだろう。
その雰囲気を感じ取ったロスチャイルドは、ある一つの選択をした。
「させんぞ! 『イミテーション・サン』!!」
ロスチャイルドは擬似的な太陽を創出し、地下施設内全体が巨大なスタングレネードでも使用したかの様な光に包まれた。
予想外のスキルに、撹王の動作が一瞬遅れる。
その間隙を突き、ロスチャイルドは自身が放てるスキルの中で最大の奥義を放った。
「『七星龍総覇弾』!!」
七つの属性の龍が星の様に降り注ぎ標的を蹂躙する全属性攻撃だった。
世界一の探索士ロスチャイルドのユニークスキルで、この技を食らって生還出来る生命は存在しない。文字通りの一撃必殺だ。
七色の龍が撹王と幹部3人に向かって飛来していく。
(行けル! このタイミングなら奴は時間を操れなイ!)
七龍が敵を食らい尽くすその刹那だった。
直撃する間際に、七龍はその姿を消失させた。
ロスチャイルドは一瞬で事態を悟る。
巻き戻しされた時間の中で自分が殺された事、現在の時間軸に達した時には既に絶命していると言う事実を。
(後は頼んだゾ。風祭、レイラ。そして只野一人ヨ)
――動き出した時間の中で、心臓に大穴を開けられたロスチャイルドは膝から前に崩れ落ち、落命した。
ミレイが『イミテーション・サン』を浴びて眩む目を自分で治療する。
周囲を見渡すと、そこにはロスチャイルドの死体だけが存在した。
「ああー。逃げられちまったか。つまんねえな畜生! こんな事なら私もトンネルで門番でもやれば良かったぜ」
「あの光は退却の合図だったのだろう。ロスチャイルドめ。勝てぬと見て二人を逃したか」
一方。風祭とレイラは『瞬間移動』にてロスチャイルドの屋敷に戻っていた。
屋敷の主の帰還を待つも、いつまで経っても彼が現れる事はなかった。
5分を超えても戻らないロスチャイルドに二人は覚悟を決めた。
「くそ! 旦那早く戻ってきてくれよ」
「残念ながらロスチャイルドは殺された可能性が高いわ。貴方も内心では理解しているはずよ」
「んな事は分かってるさ! あんな会話を聞いた後じゃな。いかに撹王が反則級の能力を持っているか、旦那は俺たちに伝えようとしてたんだろ」
「ええ。おそらく自分では時間を自由に操れる撹王を倒すことは出来ないと悟ったのよ」
「だがよ。『時間停止』を持つ旦那でさえ勝てなかったてのに、俺たちが撹王を倒せると思うか?」
風祭の問いにレイラは口を固く結んだ。
静寂の中、屋敷の中の時計だけがコチコチと針を進める。
二人はギュッと拳を握りしめ、ロスチャイルドの遺言を思い出した。
「旦那はこう言っていたな。もし撹王に勝てない様な事態になれば、必ず誰か一人が生きて離脱し、只野一人の元に向かってガチャを引けと」
「ええ。おそらく撹王に対抗出来る【GR】を引くしかないって事よ」
「それしか手段はねえよな。行こうレイラ。スキルガチャ屋只野の元に」
「また長い戦いになりそうね」
風祭とレイラは探索士協会に匿われている、只野の元へ向かった――。
円卓の間では、4人だけになった撹王と幹部との会合が開かれていた。
「これで主だったS級探索士どもは抹殺した。あとは残党どもを始末すればいい」
「それよりよ。只野一人もぶっ殺しとかないと不味いんじゃねえか? ロスチャイルドの野郎の『時間停止』だって只野のスキルガチャダスから出現したんだろうしよ。考えにくいけど撹王より強い能力を引かれたらやべえじゃんか」
「確かにその可能性は否定出来ない。だが、私の目的を早める為にも只野は殺したくない。奴の方が先に目当てのカードを引き当てるかもしれん」
「そしたらどうするんだ? 殺して奪うのか?」
「向こうの態度次第だな。カードさえ得られれば奴は用済みになる」
アンネがぷくーっと口を膨らませ、会話に加わる。
「ちょっとー。撹王の目当てのカードってなんなのさ。いい加減教えてくれてもいいでしょ♪」
「すまんな。これだけは私の秘密なんだ」
「まったくー。そのカードは【GR】なんでしょ? だったらいつ現れるか分からないね」
「初出の時の様に1億分の1という事はないだろうが【UR】よりも遥かに確率は低いだろう。今日の会合はここまでにして、私はガチャを引く。それでは皆解散してくれ」
そういうと、撹王は『亜空間移動』で姿を消した。
大好きなボスが目の前から去り、アンネはつまらなさそうに口を尖らせた。




