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第76話 只野、成功者と化す

 X県の高級住宅地。

 小高い丘に敷地面積300坪を超える豪邸が建てられていた。

 通称「ガチャ御殿」。株式会社スキルガチャダスの創業者、只野一人の住む家である。


 広大な庭には広々としたプールが設けられていた。

 傍らには南国風のヤシの木も植えられている。

 屋敷の主、只野はプールサイドで上半身裸になりながら日光浴をしていた。


 サイドテーブルには高級ブランデー。

 最近お気に入りの葉巻を咥えながら、温かな日差しを浴びていた。

 サングラス越しに眺める青空が美しい。

 まるで南国にバカンスに来た気分になれる。





 そんな只野の元に歩みよる人物が一人。

 防犯の為に常時発動しているカーバンクルが何も報せないということは()()()だろう。


「成金過ぎてドン引きだわ。隠居したマフィアかよ」

「僻むな貧乏人。これが成功者のライフスタイルだ」

 

 そこには3年の歳月を経て少しだけ成長した美波の姿があった。

 相変わらず黒髪の重たいボブヘアに、大きな瞳を眠たげに半開きにしている。

 小柄な身長や、少し寂しげな胸も変わっていない。

 四六時中制服だった服装が、白いTシャツとデニムのショートパンツという大学生らしいファッションに変わっていたくらいだ。


「大学の方はどうだ? 楽しんでいるか」

「Fラン私立文系なんて動物園みたいなものだよ。野郎どもは酒と女とギャンブルの話だけ、ビッチどもは男とSNSとファッションの話しかしていない。底辺の見本市みたいな場所だ」

「そんなところにしか入れなかった自分の学力のなさを恨むんだな。友達は出来たのか?」

「会えば多少口を聞くくらいの子が何人か。男は自慢出来る事が睡眠時間の短さだけの猿ばかりで興味ないわ」

「中々酷い環境だな」

「ああ。A級探索士の一芸入試枠でMARCHにでも行っておけば良かった」

「周りのレベルについていけなくてすぐ中退するパターンだろそれ」


 只野も美波もこの3年でA級探索士に昇格していた。

  

「お前はてっきり高校卒業後は探索士一本に絞って活動すると思ったがな」

「高校時代は借金返済に明け暮れていたからな。キャンパスライフを満喫したかったんだ」

「お前はよくやったよ。返済義務のない親の借金を完済したんだからな」

「育てて貰った恩がある。今こうしてA級になれたのも厳しく鍛錬されたからだし」


 そう言って美波は、只野の隣のサマーベッドに腰掛けた。

 レイバンのサングラスを勝手にかけて、指をパチンと鳴らす。

 すると、美麗な羽衣を身にまとった神々しい女性がお盆にトロピカルジュースを乗せてやってきた。

 召喚獣セイレーンである。


「ご苦労」

「召喚獣に変な芸を仕込むんじゃないよ。そんなつもりで入学祝いにプレゼントしたわけじゃないぞ」

「固いこと言うなよ。只野もカーバルくんに屋敷の見張りをさせてるだろ」

「仕方ないだろ。俺は今や狙われる立場なんだからな。この屋敷も安全のために『スキル使用特別許可区域』に指定してもらってるんだから」

「きゅっきゅきゅうーーっ!」


 そう言って只野はカーバルくんのモフモフの頭を撫でる。

 カーバンクルは、この3年で体高1メートル越えの超大型犬並の巨体へと変化していた。



 二人でのんびり日向ぼっこをしていると、黒いスーツを着こなした黒崎メイがやってきた。

 メイは大学を卒業後、只野の設立した会社の秘書を務めていた。


「只野社長。午後からのスケジュールですが15時に新聞社、業界紙の取材が3件あり、18時にJ社社長との会食の予定……」

「ご苦労、メイ。了解だ」

「……だったのですが、すべてキャンセルになりました」

「なんだと? 一体どういう事だ」

「探索士協会から招集がかかっています。なにやら重要な要件との事ですので、大至急協会X県支部を訪れて欲しいとの事です」

「一体なんなんだ。ここ最近じゃ『技討隊』も活動してない状態なのに」


 只野は早速スーツに着替え、探索士協会の支部へと向かう事にした。


「そういえば美波。俺になにか用でもあったのか?」

「……別に。ただ日光浴をしにきただけだ」

「しょうもない理由だな。まあ俺は出かけるけどゆっくりしていけ。適当に好きな物食っていいぞ」

「そうさせてもらう」


 只野が去ると、美波はどこか寂しげな表情でトロピカルジュースを啜った。







 協会X県支部に向かうと最上階の特別な応接室に案内された。

 なにやらただ事じゃ無いことが起こっているのが分かった。


 扉を開けると、初老の白人男性が立っていた。

 高級スーツを着こなし、長身で背筋がスッとしている。

 どこかで見た気がする顔だが思い出せない。


「君が只野一人カ。私はアダム・ロスチャイルド。ご存知の通り世界一の探索士にして世界一の大富豪ダ」

「ロ、ロスチャイルド!?」


 世界を牛耳る資産家にして、探索士ランキングで常に世界一を守り続けてきた『伝説』だ。

 そんな大物がなぜここに。


「単刀直入に話そう。只野、君の力を借りたイ。君のスキルガチャダスが無ければ世界は『レイジ・リベリオン』の手に落ちるだろウ」

「なぜ俺のスキルガチャダスが必要なんですか?」

「内偵の調査により『レイジ・リベリオン』のボスは君と同じスキルガチャダスの能力を所有している事が分かっタ」

「なっ!? 敵の親玉が俺と同じ能力だって!?」

「イエス。そして奴は通算1億回ガチャを回し【GRゴッドレア】を開放するつもりダ。【UR】以上の能力となるとまるで想像もつかなイ。おそらく世界の仕組みを変えてしまう様な能力かもしれなイ」


 スキルガチャダスを1億回回すと【GRゴッドレア】が開放されるだと。

 いきなり現れた世界一の探索士といい、あまりの急展開に理解が追いつかない。


「只野。ここまで話を聞けば理解してもらえたと思うが、我々は敵より先に【GR】を出したイ。そこで君に協力して貰い、これから君のスキルガチャダスを1億回まで回そうと思ウ」

「はぁ!? 1億回って! 俺のスキルガチャダスはまだ通算260万回くらいしか回されてないですよ」

「ならば人海戦術でまずは通算1000万回まで回そウ。1000万回のアップデートで個人の回数制限が撤廃されるらしイ。これから早速東京に向かおう。場所は東京ドームダ。人も金も私が集めルから君はスキルガチャダスを発動してくれればそれでいい」


 東京ドームに人を集めてガチャを引かせるとは。

 世界一の大富豪はとんでもない事を考えるものだ。

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