第74話 『レイジ・リベリオン』幹部ミレイ急襲!
マサカズさんはこれまで見たこともないほど真剣な表情で、警棒を引き抜き敵と対峙した。
町中での銃の発砲が許可されていないため、俺も用意した特注の警杖を構える。
「へえ。面白え。私とやろうってのか? いいぜ。かかってこいよ」
「一つ確認する。貴様『レイジ・リベリオン』の者か?」
「さあてどうかね? 知りたかったら力づくで聞き出してみろよ」
「そうか。ならばとりあえず拘束させてもらう」
マサカズさんが凄まじい速度で駆け出すと、一瞬で灰色ローブの女の背後を取った。
速い! さすが『韋駄天』の二つ名を持つだけある。
腹の出た四十のおっさんとは思えないスピードだ。
マサカズさんが女を拘束しようと左手を伸ばした瞬間だった。
ローブの隙間から大ぶりの曲刀が抜かれ、マサカズさんの左手が切り飛ばされた。
「ぐああああああっ!!」
「汚ねえ手で触るんじゃねえよ。ぷっ! その叫びようじゃ『痛み耐性』も『痛覚遮断』のパッシブも持ってねえようだな」
「マサカズさんっ!」
ローブの女は身体をわずかに動かし、一瞬でマサカズさんに肉薄した。
曲刀を持った手だけを動かし、マサカズさんを攻撃する。
曲刀での攻撃を警棒で必死に防いでいた。
俺はマサカズさんをサポートするべく、『疾駆』で距離を詰めローブ女に警杖で殴りかかった。
女は俺の攻撃を回避し、後方に大きく飛び上がり、自動販売機の上に飛び乗った。
マサカズさんの左手首から出血が止まらない。
「大丈夫ですか! 今、治癒魔法をかけますから」
「俺の事はいい! 只野、お前はまず無線で増援を呼べ! は、早くしろ!」
「分かりました!」
敵の女の力量を見て、二人で相手にするのは厳しいと判断したらしい。
確かにB級探索士である俺たち二人相手でも、あの女はまるで余裕そうだ。
「おいおーい。雑魚が増えたところで変わらねえぞ? 死人が増えるだけだっつーの」
「黙れ!! 貴様一体何の目的でやってきた? 只野に何か恨みでもあるのか?」
マサカズさんは右手で、左手首に治癒魔法をかけながら質問をする。
治癒魔法は治療に時間がかかる。
メイの様に治療時間を短縮出来るパッシブを持ってる者は少ない。
相手に質問をして、時間を稼ごうって魂胆らしい。
「ああ? 別にそんなもんはねーよ。ただスキルガチャ屋の面ってのを拝んでおきたいと思ったんだよ」
「どうしてスキルガチャ屋に興味を持ったんだ!? 理由があるはずだ。それを話せ!」
「……チッ。うるせえな」
なんだ? 急に歯切れが悪くなった。
もしかして今のマサカズさんの質問は核心を突くものだったのか。
その時、駅前の交番から駆けつけてきた制服警官がやって来た。
遅れて他の警察官も合流し、俺たちも含めて7名もの包囲網が完成した
じりじりと女を囲んで追い詰めていく。
「もう逃げられんぞ! 大人しく逮捕されろ!」
「まったくお仲間が現れたら強気になりやがって。群れないと何も出来ねえのかよ」
灰色ローブの女は自販機から飛び降りると、堂々とこちらに近づいてきた。
あっさりとお縄につこうって態度には見えない。
警官が手錠をかけようと女に近づいた時だった。
「『マイティグラビティ』」
女がそう呟くと、目の前の警官が、ぐしゃっと地面に叩きつけられた。
まるで見えない巨人の足にでも踏み潰されているかのようだった。
その能力の正体に気付いたのはベテランのマサカズさんだった。
「ヤバいぞ! あの女、上級重力魔法【SSR】『マイティグラビティ』を発動しやがった!! 早く逃げろ!」
マサカズさんの叫びも虚しく、警官たちが一気に地面へと叩きつけられていく。
皆、全身に数百キロの重しでも乗せられたみたいに、潰されていき、声にならない声で喘いだ。
『マイティグラビティ』の範囲は俺とマサカズさんにも及んだ。
「う!? ぐううううっ!!」
「ほーう。さすが探索士二人は耐えるな。『耐久上昇』か『重力耐性』でも持ってたか? だがそれじゃ動けねえだろ」
俺もマサカズさんも地面に這いつくばらず、必死に両足で踏ん張るので精一杯だ。
一方、術者の女はこの重力圏を自由に動く事が出来る。
ここで攻撃されたら一巻の終わりだ。
「来てくれ! カーバルくん!!」
俺はこの窮状を脱する手段を召喚獣カーバンクルに託した。
「きゅっきゅきゅー!!」
カーバルくんは俺に向かい、赤い光のベールをかけてくれた。
すると、力士にのしかかられていた様な重さが解消され、身動きが取れるようになった。
魔法攻撃を緩和するバリアの様なものか。
まだ全身に負荷がかかっているが、走り出せるだけの力はある。
突然、スピードを取り戻した俺に女は驚きの表情を浮かべる。
その隙に俺は長さ2メートル程の警杖でローブの女に【SR】スキル『ヘビースイング』を放った。
女は両腕をクロスしてガードに徹する。その姿勢のまま足を踏ん張り、数メートル後方へと吹き飛ばされる。
細い警杖とはいえ、『ヘビースイング』の一撃を耐えきるとは。
「痛つつつ! クソ。まさか召喚獣なんか持ってるとはな。思ったよりやるじゃねえか只野さんよ」
そこで倒れていたマサカズさんや周囲の警察官が、ヨロヨロと立ち上がり始める。
カーバルくんが一人一人に、赤いベールの魔法障壁をかけてあげたおかげで、重力魔法が緩和されたらしい。
「チッ。潮時か。ボスが、今のお前は殺す価値もないクソ雑魚ナメクジだって言ってたけど、中々強えじゃねえか。これじゃ素人のクソヤクザや半グレ共じゃ相手にならねえわな。じゃあなガチャ屋只野。精々スキルカードを沢山集めてもっと強くなれよ」
「待ちやがれ!!」
女は煙玉を地面に叩きつける。
周囲は数十センチ先も分からないほど、視界を遮る煙に覆われた。
十秒ほどで少しずつ煙が晴れていったが、そこはもぬけの殻であった。
女の去ったであろう方向に必死に駆け出すも、そこには既に誰もいなかった。
近接戦闘でも圧倒され、【SSR】の重力魔法まで使いこなす。
犯罪組織『レイジ・リベリオン』の底知れなさを、身を持って感じた。
一体あの女は何の目的でやってきたんだ? 『スキルガチャ屋』であるこの俺の元に――。
謎の女の襲撃から数日が経過した。
幸い死者は出なかったが、重力魔法を間近で受けた警官2名が内臓破裂の重傷を負った。
マサカズさんの切断された左手は、手術で直ぐにつなぎ合わされた為、経過は良好との事。
この出来事は「X駅前技討隊襲撃事件」として全国に報道された。
俺もたっぷり事情聴取を受ける羽目になった。起こった事をありのまま話したが、あまり有益な情報は語れなかった。
あの灰色ローブの女が俺の能力を知っていたのは気になった。
『スキルガチャダス』は謎が多くネットなどで調べても情報はあまり出てこない。
俺の商売を知ってるのは不思議では無いが、俺の能力について詳しいのはなぜだろうか。
この違和感が『レイジ・リベリオン』壊滅の糸口になればいいのだが。
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只野の淡い期待も虚しく、『レイジ・リベリオン』は巧みに捜査の網を掻い潜っていた。
やがてテロ行為は日本のみならず世界中へと拡散して行き、スキル犯罪が大きな社会問題へと発展していった。
物語はここから3年の月日が流れた世界で再開する。
只野や仲間たちはどう成長したのか。
撹王の狙いは一体なんなのか。
全ての真相はまだ闇の中である――。
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