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第73話 狙われる只野。仇敵現る。

 都内某所のオフィスビル。

 ここの会議室で『技能犯罪討伐特別部隊』、通称『技討隊』の特別会議が行われていた。

 参加者は『猛犬の中野』などA級探索士の各方面の部長を中心に構成されていた。



 その中で『技討隊』の長であるS級探索士『千手観音の千住』が重い口を開いた。


「皆、忙しい中集まって頂きご苦労。無論、議題は犯罪組織『レイジ・リベリオン』についてだ。雲隠れを続ける奴らについて情報を共有したいと思う」

 

 千住の提案に九州地区代表の気の強そうな女性が答える。


「先日の国会議事堂に突如、集団で男女が現れたニュースがありましたがあれはもしかして転移魔法じゃないですか?」


 中国地方代表の壮年の男性が見解を述べる。


「いや、定点カメラの映像によれば黒い渦が現れて中から一人ずつ歩いてきたらしい。強制的に転移されたわけではないそうだ」


 関東地区代表の初老の男性が続く。


「帝都大教授に聞いた話だがあれはもしかしたらURアクティブスキル『亜空間移動』かもしれぬ。ただでさえ希少なURの中でも更に希少なスキルじゃ。『亜空間移動』の能力は世界中で数例しか確認されておらぬ」



 千住は眉間のシワを更に深くさせた。


「もし敵が『亜空間移動』のスキルを所持しているのならばすべてに説明がつく。突如町中に現れテロ行為を行う通称『同志』どもはあの黒いゲートを通って、任意の場所に移動出来るのだからな」


 東北地区代表の妙齢の女性が顎に手を当て考え込んだ。


「そうなると対処のしようがありませんね。警察も人員を増やして奴らのアジトを探しているそうですが、特定出来たとしても踏み込んだところで逃げられてしまうでしょうし」


 北海道地区代表のぶっきらぼうな男性が答える。


「そのアジトが特定出来てないんだけどな。まったく警察の奴らは何をやっているんだ。俺たち探索士にまで助力を願っておきながら、まるで成果を上げられてないじゃないか」

 

 千住がその発言を窘める。


「警察も自衛隊も懸命に捜索を続けている。彼らと協議した結果、我々『技討隊』も人員を増やし、捜査を拡大して欲しいとの事だ。今回はそれともう一つの謎について議論したい。敵は一体どうやってテロリスト共にスキルカードを提供しているかだ」


 

 ここに来て、会議室に初めて軽い沈黙が訪れる。

 口火を切ったのは近畿地区代表のがっしりとした体躯の男だ。


「富裕層のスポンサーから資金提供を受けているなんて噂は聞きましたけどね。そうじゃなきゃテロリストに高レアの攻撃スキルを習得させる事なんて出来んでしょう。【SR】の攻撃魔法のカードなんて100万じゃ効かないものだらけですし」

「やはり背後に暴力団か半グレでも付いているんですかね」

「しかし反社会的勢力にとって何の旨味があるんですか? テロ活動で奴らは何らかの利益を得られるって言うんですか」

「株価操作とか社会的不安につけ込んだ犯罪とかあるんじゃないか」

「私は極右か極左の過激な活動家や団体による犯行だと思いますけどね」


 喧々諤々の議論は続いたが、結局答えは出なかった。

 『レイジ・リベリオン』による情報が余りにも足りてないのである。  

 議長である『千手観音の千住』はもどかしい気持ちで一杯だった。







 ――○県某所。

 寂れた郊外にぽつんと残されたボーリング場跡地。

 ここが『レイジ・リベリオン』のアジトである。

 

 外部からは人っ子一人いない廃屋にしか見えなかった。

 必要な時にだけ撹王の『亜空間移動』で人員を集め、別命が出されるまでそれぞれの自宅等で待機していた。

 

 その廃屋に一人の女がいた。

 金髪にポニーテール、三白眼が特徴のミレイだ。

 ミレイは長く赤い舌をチロチロと動かし、何かを想像して愉しそうに顔を上気させていた。


「やっぱ我慢出来ねえよな。面だけでも見に行ってくっか。ガチャ屋只野」




 


 ――只野は仕事終わりに『技討隊』の活動に参加していた。

 X駅前をいつも通り先輩の『韋駄天のマサカズ』と共にパトロールしていた。


 東名阪といった大都市では未だテロ事件が頻発しているが、うちみたいな片田舎は殆ど標的にされる事はなかった。


 駅前から始まり、繁華街を通って、飲み屋街へと巡回する。

 マサカズさんは緊張感の欠片もない表情で、週末の競馬のレース予想を俺に聞かせていた。



 その話に適当に相槌を打っていると、前方に人影が現れた。

 灰色っぽい地味なレインコートを頭からすっぽり被っている。よく見るとローブのように布製の素材の服だ。

 そいつは170センチほどの細身なシルエットだった。


「てめえがガチャ屋只野か。見るからに貧相ななりだな」


 灰色ローブ野郎が突如口を開いた。

 否、その声色から野郎ではなく女性である事が分かった。


 マサカズさんが俺に「ガチャ屋の客か?」と呑気に尋ねる。

 最近は営業も好調なので、沢山の新規客が押し寄せている。一々全員の顔など覚えていられない。

 なのでガチャ屋の客かと問われても分かりませんとしか言えなかった。


「バーカ。ガチャ屋の客じゃねえよ。もっともお前に会いに来たってい言う意味では客ってのも間違いじゃねえがな」

「俺に会いに来た……? あんた一体誰だ」

「ふっ。笑っちまうくらい平和ボケしてんな。お前よくこれまで無事に生きてこれたな。『スキルガチャダス』がその筋の人間からすれば如何に利用価値のあるものか分かってんのか? そこらの組に捕まったら手足の腱を切断されて逃げられなくしてから一生ガチャを引かせる機械にでもされちまうぞ? それを知ってか知らずか『技討隊』だなんて危険な仕事まで掛け持ちするたぁお見逸れしたぜ。お前自分が殺されないとでも思ってんのか?」

「……マサカズさんこいつヤバいです」

「……ああ。やっと本命が現れたって奴だな」




 どうやらこの口ぶりから察するに、灰色ローブの女は犯罪組織『レイジ・リベリオン』の者らしい。

 目の前に現れたまいんの仇に、俺の拳は自然と握りしめられていた――。

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