第69話 ざまあ炸裂! 『氷結の森迫』に倍返し
実戦訓練のため俺たちは講堂から移動し、武道場へと向かった。
講師の中にはあの憎き『氷結の森迫』がいた。
全員が武道場へ集まると、『猛犬の中野』が手を叩き自身に耳目を集める。
「これから実戦訓練を始めたいと思います。対人での戦闘が未経験の方もいますし、大怪我をされても困りますので簡単な防具も付けて戦ってもらいます。また、当施設内はスキルの使用が出来ないよう、封印が施されています。誤ってスキルが発動する事はありません」
スキル無しでの戦闘訓練か。
それって格闘技の心得とかが無いと厳しいよな。
少なくとも俺はまったく自信がない。
「これから試しに模擬戦をしてみようと思います。自分の実力に自信がある、我こそはという方はいませんか?」
『猛犬の中野』の呼びかけに次々と手を上げて、参加の意を示すルーキーたち。
東日本組からは土門や畠山、西日本組からは堺茜や烏丸清恵らが名乗り出ていた。
この4人が手を上げた時、突如森迫が前に出て声を上げた。
「ちょっと待ったーー! 僕の相手として是非リコメンドしたい人がいるんだがよろしいですか? なにせ彼は、今日お集まり頂いた50人のルーキーたちの中でナンバーワンの実力者だという噂なんです。デモンストレーションをするなら一番ストロングな男のファイトをこの目で見たいと思いませんか?」
会場からほんのりと怒気が漂う。
そりゃそうだ。
腕に自信のある者たちが集う中で、我こそは一番だなんて騙る者がいれば実力を疑いたくなるだろう。
俺はと言うと背筋に冷や汗が流れるのを感じていた。
このクソ森がこれから何を言おうとしているのか察知出来たからだ。
森迫はニヤっと口角を上げると馬鹿みたいな声を張り上げ俺を指差した。
「彼がルーキーで最強の男! スキルガチャ屋只野だ! ベリーフェイマスだから知ってる人も多いだろう! 誰でもドロー出来るガチャで大儲けをしてるそうだ。もっともそのガチャは【N】ばかり出るらしいから皆ビーケアフルだ!」
あの下衆野郎め!
こんな恥かかせやがって。俺にどれだけ恨みを持ってやがるんだ。
しかもしれっと俺のガチャをディスってやがるし。
あいつを営業妨害で訴えたら勝てるんじゃないか?
『猛犬の中野』はそこまで推薦するなら、戦ってみたまえと俺を森迫の対戦相手に選んだ。
会場から鋭い視線を感じる。
皆、俺に好感情を抱いていないのがひしひしと伝わってくる。
「畜生。やるしかないのか」
意を決して立ち上がる俺に、美波が声をかけてくれる。
「只野。骨は拾ってやる。お前がやられたら私があの青ミミズをぶちのめしてやるから安心しな」
そう言えばこいつも只野と取り巻きに暴言を吐かれていたな。
内心俺以上にむかっ腹が立っているのかもしれない。
「やれるだけやってみるよ。駄目だった時は俺の屍を越えていけ」
そう美波に言い残し、俺は森迫のところへ向かった。
実戦訓練では剣道の面、ボディアーマー、厚手の甲手、レガースを着用する。
武器は竹刀、薙刀、ヌンチャク、トンファー、ボクシンググローブなどから好きなものを選べた。
どれも扱った事が無いので仕方なく竹刀を選ぶ。
俺と森迫がデモンストレーション第一弾になってしまったため、周囲の注目を一身に浴びる。
森迫はフェンシングのサーブル剣の様な武器を装着していた。
『猛犬の中野』が試合開始の合図を出す。
「3分間の実戦訓練を開始します。目突き、首絞め、噛みつき、後頭部などの急所への攻撃は反則です。苦しい時は参ったをするように。それではいざ尋常に……始めッッ!!」
森迫は開始の言葉と共にフライング気味に突っ込んできた。
棒立ちの俺は森迫の刺突を胸に思い切り食らう。
杖を胸に突き刺された様な痛みが走る。
「痛てえ!! こんの卑怯者がっ」
俺は返す刀で、森迫に横薙ぎを払う。
あっさりバックステップで躱されてしまう。
こいつ。中々動きが俊敏だ。
森迫はステップを整えると、またしても半身になって突っ込んできた。
来ると分かってたらこちらも対処は出来る。
右手に握ったサーブルごと突進してくる。
俺もバックステップを取り、突き攻撃を躱した。
が、森迫はそこから二撃、三撃と連続で攻撃を繰り出した。
俺はヨタヨタと後ろに下がりながら躱すも、前に思い切り突っ込んでくる森迫に捕捉されてしまった。
シルバー・チャリオ○ツみたいな連続サーベル攻撃を食らってしまう。
全身に刺すような痛みと衝撃を感じる。
「痛だだだだ!! だ、駄目だ! 退避っ!」
俺は堪らず、真横へと退避した。
そのまま這うように十メートルほど距離を取る。
俺のその情けない姿に森迫が不快な哄笑を上げる。
「HAHAHAHAHA! どうした只野!? 逃げ回ってたんじゃヴィクトリーは掴めないぞ。ほらカモンカモン!」
手をクイクイっとこちらに向けて挑発する森迫。
会場のあちこちで失笑が漏れる。
「プッ。只野って奴全然弱いじゃねえか」
「なぁにがナンバーワンルーキーだよ。てめえなんかより俺の方が余裕で強いっての」
「おいおい。何だよあの只野って野郎。口だけかよ」
「ほら、逃げ回ってないで戦いなさいよね」
会場の奴ら好き勝手言いやがって。
俺は一言も自分が強いだなんて言ってないわ!
森迫の口車に乗せられやがって。
しかし森迫の野郎『新四天王』とは言え、なんでこんな強いんだ?
剣の腕前も半端じゃない。
「只野は大した事ないがやはり森迫は強えな」
「フェンシングで全国大会に出たらしいぜ」
「まじかよ? 『氷結の森迫』って言うから氷魔法だけかと思ってたわ」
フェンシングの経験者だったってのかよ。
しかも全国大会にまで出たのか。
そんな武芸の心得がありながら、俺みたいな素人をいたぶるのか。
どこまでも性根が腐った野郎だ。
途端に俺はむかっ腹が立った。
この試合は実戦訓練だ。ルールに則れば何をしてもいいはず。
俺は立ち上がると、森迫目掛けて全力で駆け出した。
予想外の俺の行動に、それまで余裕綽々だった森迫は虚を突かれた表情へと変わる。
俺は竹刀を握ると、走りながら槍投げの要領で森迫に投擲した。
「甘いわ!!」
真っ直ぐ向かっていった竹刀をすんでのところで躱す森迫。
だが、竹刀の後に飛んできた俺のタックルは避けきれなかった。
勢いよく飛びついてきた俺にのしかかられ、組み敷かれる森迫。
「ぐわっ!! き、貴様ぁ」
「拳でも食らいやがれ! クソ森が」
俺はマウント状態で、森迫の上から拳のパウンドラッシュを浴びせてやった。
剣道の面っぽい物で頭部を保護してるから効果は薄いが、じわじわと効いている。
「アウチ! 痛ててて。や、やめろ只野。やめるんだ、このア○ホールがっ!」
「黙れ卑怯者がっ! 散々嫌がらせしやがって。人間が小さいんだよお前は! このこの!」
俺はマウント状態で森迫を力の限り殴り付けてやった。
腕でガードされているため、有効打は中々入らない。
だが好き放題憎き相手を殴れてる今の状態には胸がスッとしている。
多少これまでの憂さ晴らしにはなっている。
森迫は必死に身を捩り、マウント状態から抜け出した。
床に吹き飛んでいたサーブル剣を拾い直す。
俺も放り投げた竹刀を拾って、両者剣を構えあった。
「只野~! 貴様だけは絶対に許さんぞ! 僕のホーリーソードで蜂の巣状に突き刺してやる!」
「闇属性のお前が聖剣なんて使えるわけねえだろがっ!」
やはり剣の戦いになると、ヤツの方が遥かに上手だった。
遠くの間合いから自在に出入りして、サーブルを突き刺してくる。
もう一度ダメージ覚悟でタックルを仕掛けようとしても、攻撃が激しくて突っ込めない。
審判の『猛犬の中野』が「残り一分!」と叫んだ。
じわじわと刺突攻撃を受け続け、俺の身体は全身蜂に刺されたような痛みが広がっていた。
なんとかしてあの野郎に竹刀での一撃をくわえてやりたい。
審判が「残り30秒!」と叫んだその時だった。
この試合初めて奴の、刺突攻撃を竹刀で受け流す事が出来た。
体勢が前につんのめる森迫。
その一瞬を見逃さなかった。
「面ーーーっ!!」
剣道未経験なのに思わず、そんな言葉を口走ってしまった。
俺の上段からの切り下ろしをまともに食らう森迫。
「ぐはっ!」
脳天に竹刀を受けて、ぐらつく森迫に今までのお返しとばかりに竹刀を叩き込んだ。
俺の素人竹刀ラッシュを受けてヨロヨロになった奴は、このままでは不味いと思ったのか俺の身体に組みついてきた。
後ろからしがみつかれ身動きが取れない。
「は、離せクソ森」
「ふ、ふふふ。わ、悪いけど試合終了までこの体勢でいさせてもらうよ。君のラッキーパンチでちょっと脳が眩んでね」
「だったら素直に負けを認めやがれ」
「嫌だね。あと十数秒で試合も終わりだ。まさか講師がルーキーに負けるわけにいかないだろう?」
くっそー。ここまで追い詰めたってのにこんな幕切れか。
もう少しで森迫の野郎をギャフンと言わせてやれたのに。
奴に後ろから拘束され、時間経過を待っていると、後頭部に衝撃が走った。
一瞬何が起こったのか分からなかったが、どうやら奴が俺の後頭部目掛けて頭突きを放ったらしい。
「HAHAHAHAHA! 最後まで気を抜いてはいけないぞ! 正義は勝ーつ!!」
何が正義だ。こんな禁じ手を使いやがって。
森迫は拘束を解き、俺に刺突攻撃を繰り出そうとしていた。
俺は頭が眩んで、わけも分からず、竹刀をアッパースイングで振り上げた。
その俺の竹刀が、森迫の股間にジャストミートした――。
「◎△$♪×¥○&%#!?」
森迫は声にならない叫びを上げて、うつ伏せにぶっ倒れた。
ちょうど「時間いっぱい! それまで!」と終了の合図が出される。
互いに向かい合って礼をするよう指示を出す『猛犬の中野』。
だがいつまで経っても床で突っ伏したまま立ち上がらない森迫に、違和感を感じたのか奴の顔をのぞき込む。
「どわ!! た、大変だ! 救護班! 担架を持ってきてくれ! 早く!」
うつ伏せの状態から身体を上に向かせると、そこには真っ青な顔で泡を吹いて失神している森迫がいた。
どうやら最後の俺のアッパースイングが森迫の股間に大ダメージを与えてしまったらしい。
担架で運ばれていく貴公子に、美波が駆け寄る。
そこで美波は、出会ってから初めて見るような爽やかな笑顔で「イエ~イ。ざまあ」と微笑んだ。
奴のせいで心身ともにボロボロにされたが、文字通り一泡吹かせてやれたので少しは溜飲が下がった。
元はと言えば俺の後頭部への反則攻撃が原因とは言え、切なそうに股間を押さえている姿に同じ男としてちょっとだけ同情した。
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