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第68話 東西のルーキー集合! 『B級探索士講習会』開催

 俺たちは新幹線と電車を乗り継いで『B級探索士講習会』が開催される長野県の松本市に来ていた。

 交通費も宿泊費も探索士協会に申請すれば後から支給されるとの事。


  

 道中でメイ、猫田、ムッツらと合流し講習が行われる会場に向かうと懐かしい顔ぶれが現れた。

 『山梨の怪僧』土門雄浩と『秋田の希望』畠山栄作だ。


 土門は相変わらず山伏の様な白い法衣を着ていた。

 畠山はドストエフスキーの文庫本をつまらなそうに読んでいる。

 この二人が最終試験『春虫秋草』採集で1、2フィニッシュを決めたらしい。



 土門と軽く挨拶を交わしていると、金髪に青いスカジャンのヤンキー少女が現れた。

 髪の長さはベリーショート、耳はピアスだらけで男みたいな格好だが、顔立ちは童顔で可愛らしかった。

 彼女が土門に向かって話しかける。


「自分えらいけったいな格好しとるな。これから修行にでも行くんか?」

「我、常時、是修行なり」

「なんで漢文みたいなしゃべり方やねん。まあおもろいからええわ」


 ケラケラと笑う関西弁のヤンキー少女。

 あまりにも自然に会話に加わったため、土門の知り合いかと思ったが違うらしい。

 彼女はこちらを認めると、あっと大きな声を出し近づいてきた。 

 どうやら俺の背後にいる美波と萌仁香を知っているらしい。


「あー! お前が美波か。史上最年少でプロ探索士になったちゅうやっちゃな。こんなチンチクリンやったとは知らんかったで。しかし悔しいわぁ。あと少し早く生まれてたら最年少記録はウチのもんやったのに」

「いやお前だれやねん」


 なぜか関西弁が感染うつってしまった美波が問いただす。


「ああ。自己紹介がまだやったな。ウチは堺茜さかいあかね。大阪出身の高校2年生や。ウチが一個上やけど細かい事は気にせぇへんからタメ口でもええで。そんで美波の隣におる妙ちくりんな格好の女はアニータやな。お前も知っとるで」

「アニータじゃなくて萌仁香もにかだじぇ! 適当にラテン系の女の名前出すなだじぇ! それと誰が妙ちくりんな格好だじぇ。お前に言われたくないじぇ」

「なんや話し方までえらい変わっとるのう」

「標準語圏のボクらからすればお前の話し方も十分変わってるじぇ!」



 萌仁香がプンスカと頬を膨らませ反論する。

 一方堺茜の方は、悪意がないのか飄々としていた。

 

 そこにスッと小紋の着物姿の女性が現れた。

 髪を後ろでまとめたアップにしている。 

 どことなく妖艶で夜の仕事をしている女性みたいだ。


「堺はん。初対面の方に突っかかるんはあきまへんえ」

「ゲッ。烏丸からすまやんけ」

「ゲッとはえらいご挨拶やな。堺はんがお子様めいた行動を取るんは勝手やけど、上方の品位を下げるんはやめなはれ」

「わ、分かっとるわ! お前にそんな事言われたないんじゃ」


 着物姿の烏丸という女性が窘めると、堺茜はあっさりと大人しくなった。

 烏丸は俺の方に向きを変えると、意味ありげな笑みを浮かべて話しかけてきた。


「うちは烏丸清恵と申します。あんたはんがスキルガチャ屋の只野はんでっしゃろ?」

「ああ。俺の事を知ってるのか?」

「突如現れた摩訶不思議なスキルを持つ男として、探索士界隈では有名ですえ」

「摩訶不思議って。まあ俺も自分のスキルの事をまだよく分かっていないんだけどな」

「気を付けなはれ。今のご時勢あんたはんの能力は悪い輩に目を付けられたら大変どす」

「はあ」


 そう言って烏丸清恵は去っていった。

 確かに俺の『スキルガチャダス』は悪用しようと思えば、いくらでも金を生み出せる危険なスキルだ。 

 もし不逞の輩にでも拉致監禁されたら大変な事になる。

 そうならないよう俺自身心身を鍛えてきたし、今ではカーバルくんもいるから、いきなり不測の事態に巻き込まれる事はないだろう。


 だが、妙に烏丸清恵の残した意味ありげな視線が気になった。

 一体彼女の視線は何を意味しているのだろうか。






 会場内に入ると大学の講堂の様になっていて、各自好きな席に座り講習の開始を待った。

 講堂内には約50名ほどの駆け出しのB級探索士たちが集っていた。

 時間になると、若い女性とブルドッグの様に深いしわが目立つ初老の男がやってきた。


「只今より20☓☓年度上半期B級探索士講習会を開始します。司会は私、A級探索士の『猛犬の中野』が務めさせていただきます。さっそくですが、皆さんにはこちらの映像を眺めてもらいます」


 そう言って『猛犬の中野』は若い女性に指示を出し、講堂正面のスクリーンに映像を映した。

 そこに映されたのは驚愕の映像だった。


 銀座の往来で覆面を被った男が火炎魔法をぶっ放し、人や店が焼け焦げる凄惨なシーンだ。

 高級ブランド店が入ったビルが燃え盛り、人間が何人も炭化して黒ずみとなっていた。


 そのスプラッター映画ばりの生々しい場面に会場からはどよめきが起こった。

 思わずメイがうっと吐き気を催し、手で口を抑える。 

 映像はまだまだ続く。


 続いて、渋谷のスクランブル交差点で突如竜巻が巻き起こり、何十人もの人間が宙に舞い上げられた。

 そのまま十数メートルも高々と舞い上がり、やがて地面に落下した。

 叩きつけられた人間は芋虫の様に、わずかに蠢く者もいれば、打ちどころが悪かったのかピクリとも動かない者もいた。


「おいおい。この映像マジかよ?」

「これって先月起きた銀座炎上事件と渋谷暴風事件だろ?」

「実際の映像見たの初めてだわ。まさかこんな悲惨な状況だったとはな」


  

 映像が終わると『猛犬の中野』は渋面を作り、厳かに話を切り出す。


「皆さんもお気付きの通り、これは『スキル犯罪』により引き起こされた事件です。銀座では死者6名負傷者57名を出し、渋谷では死者8名負傷者45名を出しました。銀座の事件では犯人が防犯カメラに映ってましたので逮捕されましたが、渋谷の事件では人混みの中から風魔法を放ったため、未だ犯人は捕まっていません」


 なんと渋谷のスクランブル交差点の暴風事件は犯人がまだ捕まっていないらしい。

 確かにあの映像では交差点の人混みの中から急に竜巻が起こった様に見えた。

 あれだけでは犯人を特定するのは難しいかもしれない。


 『猛犬の中野』は苦虫を噛み潰した様な表情で、太い声を絞り出す。


「現在、東名阪の大都市圏を中心に『スキル犯罪』が頻発しております。本来スキルカードは探索士資格が無いと入手出来ないはずなんですが、不思議な事に探索士ではない一般人がスキルを身に付け、悪事に手を染めているのです。逮捕者の供述によれば、ネットで世の中に対する不平不満を書き込んでいたら謎の男からメッセージが届き、幾度かのやり取りをするうちに意気投合。その後自宅に何枚かのスキルカードが送られてきたそうです。男からスキルの使用方法を教わり、街に繰り出して犯行に及んだとの事でした」


 どうやらスキルカードを送ってきた男が黒幕らしい。

 とは言え高価な攻撃魔法のスキルカードをよく簡単に送れたものだ。レアリティに応じてマナ切れを起こさないように魔力上昇のパッシブスキルも必要になってくる。


 映像から察するに【R】か【SR】の魔法を使用しているように見えた。

 黒幕は相当な資産家なのだろうか。


「現在、警察や自衛隊が中心になって『スキル犯罪者』の取り締まりに乗り出してますが急増したスキル能力者に対応するための手が足りてません。そこで我々探索士協会にも協力の依頼が舞い込みました。もちろん任意ではありますが、皆さんの中でプロ探索士の一員として社会に貢献したいという方がいれば是非手を貸して頂きたいと思っています」


 まさか探索士になって、犯罪者を取り締まる側になるとは思わなかった。

 魔物相手の戦いには慣れていても、人間相手の戦いなんて未経験だ。

 一体どれだけの探索士たちが協力を申し出るのだろうか。


「皆さんの街にも『スキル犯罪者』が現れるかもしれません。そうなった時自分や周りの命を守れるよう鍛錬を積んで欲しいと思っています。そこで今回の講習会では対人相手の実戦訓練を設けました。今回はこちらの方々に実戦の講師をしてもらう事にしました」


 『猛犬の中野』に紹介され、5名の男女が登壇する。

 そこにはTVで見たことのある有名なB級探索士がいた。

 その中で一際目立つ全身青ずくめの男が一人。


 

 『氷結の森迫』である。

 森迫は俺の姿を確認すると、ニヤリと下卑た笑いを浮かべた――。

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