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第67話 スキルカードをメイの母に寄付する。そして新たな危機

 『所川迷宮ショッピングセンター』に出店してから数ヶ月が経過していた。


 【SR】以上確定ガチャチケットの宣伝効果で売上は好調だった。

 売上金から2割をショッピングセンター側に納めている。

 結構な額を納めたつもりだが、牧野社長曰く上には上がいるからもっと頑張れとの事。

 

 ガチャ屋は仕入れの元手がかからないため、純利益は相当なものになる。

 ただ単価は一回一万円なので、他の店舗みたいに一品数十万、数百万円の商品を取り扱っていない分単純な売上で勝つのは難しいかもしれない。





 

 ガチャ屋の営業が休みとなった土曜日。

 とある人物に会うために俺は東京に向かっていた。

 

 以前から考えていた、手元に余った不要なスキルカードを寄付しようと考えていたのだ。

 GPガチャで引いたため『販売不可』マークが刻印されているが使用は可能だ。

 その数500枚ほどである。【N】がほとんどだが何枚か【R】もある。

 これらのスキルカードの寄付をしに東京に来たのだ。



 電車を乗り継いで南北線麻布十番駅へと向かう。

 東京タワーと六本木ヒルズがすぐ近くだ。

 田舎者の俺にとってはテンションが上がる光景だ。


 そこから少し歩くと、景色は高級住宅街へと変わる。

 小金を掴んだ今の俺でもさすがに縁のないような豪奢な家々が建ち並ぶ。


 マップアプリを頼りに指定された場所へと向かう。



 数分後、どうやら目的の場所へと辿り着いたようだ。

 住宅街の中でも特に立派な三階建ての白亜の屋敷があった。

 黒曜石の表札に『KUROSAKI』と書かれていたので間違いない。


 ここは探索士仲間の黒崎メイの自宅であった。

 お嬢様っぽい雰囲気を醸し出していたが、まさかここまでの金持ちだったとは。

 少し緊張してインターホンを鳴らすとメイが応答した。


「10時に面談の約束をしてました只野と申します」

「ひゃ、ひゃい! た、只野さんよくぞお越し下さいました! 門を開きますのでどうぞお入りください!」


 相変わらず噛み噛みのメイに案内され、入口の門から玄関に上がった。

 水色のブラウスに白い花柄のスカートの清楚なファッションに身を包んだメイが出迎えてくれた。

 長い艷やかな黒髪をヘアピンを使い耳にかけていた。

 アイドルグループの一員と言っても驚かないほど、メイは容姿端麗である。

 

「す、すみません! いきなり家に呼び出してしまいまして」

「構わないよ。今日は仕事の話にきたからね」

「ありがとうございます! こちらで母がお待ちです」

「ああ、お邪魔します」



 広いリビングに案内されると、妙齢の女性が出迎えてくれた。

 メイにそっくりで女優のように美しい人だった。


「はじめまして。黒崎レイと申します。遠いところわざわざご足労おかけいたしましてすみません」

「いえ。とんでもないです。私、只野一人と申します。今日は不要になったスキルカードを寄付したいと思い足を運びました」

「ありがとうございます。お茶を淹れてきますのでおかけになってお待ちください」


 メイの母レイが代表を務める法人『探索士振興開発協会』は、下級探索士に無償で支援をおこなっている団体である。

 その話を聞いた俺は活動内容などを確認した上で、信用できる団体だと判断したため、スキルカードを一括で寄付することにした。



 レイが上品な紅茶を注いでくれる。華やかな香りと味に舌鼓を打ち、本題に切り出した。

 俺がスキルカードの束を渡すと、レイは驚きを隠せない様子だった。


「これが只野さんの能力『スキルガチャダス』から生み出されたカードですね。確かに『販売不可』という文字が刻印されてますね」

「ええ。スキルカードは細工をされている物は買取出来ない法律があるんですよ。ですので使いみちがなくて困っていたので寄付しようと思いました。自分で使ったり仲間にプレゼントしたりしてましたが、B級に昇格してからは【N】のスキルカードはレベルが低くてほとんど使用しなくなりまして」


 レイはパラパラとスキルカードのデッキをめくって確認する。

 

「ありがとうございます。只野さんのご厚意、大切に使わせていただきますね。スキルに恵まれない探索士たちに分配したいと思います」

「よろしくおねがいします。俺もずっと下級探索士だったのでスキルに恵まれない辛さは知ってるつもりです。どうか上手に使ってやってください」

 

 俺が頭を下げると、レイはにっこり笑ってこう言った。


「貴方はとても誠実な方なんですね。安心しました。メイは家ではいつも只野さんの話ばかりしているんですよ。プロ試験のボスバトルの前に勇気付けられた話とか、ボスの攻撃で大怪我を負った仲間の治療をする為に自ら囮になった話とか、最終試験で『春虫秋草』が一つ足りなかった時は、仲間に譲って自分は潔く諦めた話とか」


 母の突然のカミングアウトに娘のメイが慌てふためく。


「ちょ、ちょっと! お母さん。や、やめてよ急にそんな事言うのは!」

「あらいいじゃない? この機会に只野さんにいつも感謝してますって言えばいいじゃない」

「も、もーう! 余計な事言わなくたって良いんだってば!」

 

 顔を真っ赤にして反論するメイ。

 いつもは大人しいが母の前で素が出てしまってるらしい。

 恥ずかしそうにプリプリ怒るメイは中々可愛かった。




 その後「せっかくだし二人で外出してきたら?」と言われ、メイに街を案内してもらう事になった。

 麻布から六本木の辺りをぶらつき、メイの行きつけの書店やカフェなどを教えてもらった。

 

 初めは恥ずかしそうにしていたメイだったが、徐々に緊張も解けたのか、年相応な可愛らしい笑顔を浮かべる様になった。


 昼時になり、メイの勧めるパスタ専門店で昼食を取る事となった。

 俺は「サーモンと帆立の和風醤油パスタ」を注文し、メイは「サルシッチャとブロッコリーのトマトクリームパスタ」を頼んだ。

 料理が届くまでにいくつかメイに質問してみる事にした。


「それにしてもメイの家は大きかったな。都心の一等地にあれだけの豪邸を建てられるなんてすごいよ」

「そんな! すごくなんてないですよ。お友達はもっと立派な家に住んでますよ」

「本当かよ。金持ちの世界は天井知らずだな。ご両親は何をされているんだ?」

「うちは両親とも会社を経営していますね」

「社長令嬢って事か。それにしても、両親はよく探索士になることを反対しなかったな」

「はい。うちは母が元B級探索士だったんです。父も探索士相手の商売をしているので両親とも理解がありました」


 母親のレイはB級探索士だったのか。

 プロ探索士はライセンスが3年で失効するので、常に探索士として活動してないと更新する事は出来ない。

 生涯現役でいるのは難しい世界である。 


「メイはどうして探索士になろうと思ったんだ?」

「母の仕事を見て、困っている探索士の助けになりたいと思ったんです。恥ずかしながらスキルカードの援助もして貰えて【SR】の治癒魔法を持っているのは両親のおかげなんです」

「素晴らしい事じゃないか。実際メイのおかげで試験の時は俺も土門も猫田も助かった。メイのスキルが無ければ死んでたかもしれない。もっと自分のスキルを誇っていいと思うよ」

「あ、ありがとうございます! わ、わたし実はB級探索士に合格したら探索士の仕事は辞めようかと思ってたんです。戦うのは好きじゃないし、美波さんや猫田さんみたいに探索士として活動する目的もないですし……。もう大学三年生だし就職活動に専念しようかと考えてました。けれど只野さんにお会いして励まされたと言いますか……もっと、た、只野さんのお役に立てる、探索士になれるよう頑張ってみようと思いました!」


 メイの力強いその言葉は、ボリュームが大きかったからか周囲の注目を集めた。

 店内の視線が自分に集まっている事に気付いたメイは「あひぃ」っと言って照れながら下を向いた。その姿は思わず笑ってしまうほど可愛かった。



 注文の料理が届き、食事を始める。

 地方都市では中々味わえない本格的なパスタであった。 


「これは美味い。良い店を知ってるなメイ」

「はい。この店には何度も訪れてまして、どのパスタも自信を持ってオススメ出来ますよ」


 サルシッチャを口に運び美味しそうに味わうメイ。

 俺は水を一口含むと、先日ポストに投函されていた封筒の話をした。


「そう言えば、先日家のポストに『B級探索士講習会』のお知らせが届いていたんだが、メイの家にも届いてた?」

「はい。B級に昇格したての探索士の元に届くそうですよ」

「なんでも東と西の駆け出しのB級探索士を集めて『講習会』ってのをするらしいけど、一体何をするんだろう」

「プロ探索士としての心得を教わったり、最近巷で話題になっている『スキル犯罪』に対する対策を練るなんて話を聞きましたよ」

「『スキル犯罪』か……」



 ダンジョンが現れてからスキルを習得し、町中で犯罪に使用する者が後を絶たなかった。

 町中でのスキル使用は厳罰化される様になってから、犯罪者も一時期減り始めたのだが、最近になって『スキル犯罪者』たちの数が爆発的に増え始めていたのだ。


「ニュースになっているよな。これまでは『スキル犯罪者』たちの多くが元探索士だったのに、最近では探索士でもなんでもない一般人がスキルを習得し、犯罪を犯すようになったって」

「はい。警察や自衛隊だけでは対処仕切れなくなりつつあるそうなんです。私たちも駆け出しとは言えプロ探索士ですので、もしかしたら協力を要請されるかもしれませんね」



 メイのその言葉になにやら不穏な気配を感じた。

 もしかしたら戦場はダンジョンだけではなくなるかもしれない――。

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