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第66話 剣能開放! 『妖刀ムネマサ』の特殊スキル

 俺と美波は近場のダンジョンに妖刀の試し切りに来ていた。

 何匹か魔物を切ったところで美波がとんでもない事を言い放った。

 

「スキルが発動しないだって?」

「ああ。これは欠陥品を掴まされたな」

「でもちゃんと魔物はスパスパ切れているじゃないか」

「刃物としての切れ味は文句ない。だが攻撃系のスキルが全く発動してない」

「そんな事ってあるのか? ダンジョン産のアイテムじゃない金属バットや鉄パイプでもスキルは発動するのに」

「どうやらこの刀、私を舐めてやがるな」 


 妖刀が美波を持ち主だと認めてないと言うことか。

 刀に意思があるだなんて話はよく聞くけど、あくまでフィクションの話だと思っていた。


「もう少し試してみようぜ。慣れてくれば美波の言うことも聞いてくれるようになるさ」

「まったく。このままだと返品するかへし折るかだな」



 

 それから2時間ほど魔物を狩っていると、刀身が赤く染まっている事に気が付く。

 濡れた刃文が血を吸っているかのようだ。 


「相変わらずスキルは出ないが、切れ味は増したような気がする」

「なんだかその刀徐々に赤くなってきてないか」

「魔物の血でも吸ったのかもしれんな。それになんだか手にしっくりくるような気がする」


 この『妖刀ムネマサ』は通常の斬撃のみでも敵を圧倒出来るほどの威力を誇っていた。


「どうする? その刀モヒカンの店に返品するか?」

「……いや。もう少しだけ使ってみる事にする。ここで手放してはいけない気がするから」






 数日後――。

 あれから連日ダンジョンに潜って刀を試していた美波から連絡がきた。


<完全に使いこなせるようになったぞ。凄いものを見せてやるから来い> 


 いつもの簡潔過ぎるメッセージだが、文面から嬉しさや喜びが伝わってきた。

 どうやら妖刀を扱えるようになったらしい。 




 指定されたダンジョンに向かい、探索を開始する。

 ゴブリンの群れが現れたため、美波は刀を抜刀した。


「『飛影斬』」


 以前は発動しなかったスキルがきちんと発動していた。

 おまけに切れ味、技の冴えも抜群で、飛来した斬撃がゴブリンをまとめて両断すると、そのまま壁に大きな切断痕を残した。


「すごいじゃないか。以前に比べて遥かに威力が増してるな」

「こんなもので驚いて貰っちゃ困る。ムネマサの本当の凄さを披露してやんよ」


 そう言うと美波はニマっと笑った。

 子供が親に何かを自慢するかの様な表情だった。




 それから俺たちはハイペースで潜行を続けた。

 道中、これまで苦戦していた敵もあっさりと屠ってしまうあたり、ムネマサの威力は絶大だった。

 ムネマサの刀身は薄っすら赤かった前回に比べて、おぞましいくらい赤黒いものになっていた。


 50層まで潜ると、けたたましい叫び声が聞こえた。

 まるで怪鳥の叫びの様に甲高く、腹にずっしり響く様な重々しさも備わっていた。

 叫び声を発したのはグラトニードラゴンである。


 その姿は四足の腹がでっぷりとした恐竜の様だ。 

 鯨の様な巨体に戦々恐々とする。


「やばい! あんな化け物二人じゃ倒せんぞ。これはさっさと逃げた方が良さそうだぜ」

「ふふ、まあ見てなって。ここは私に任せな」


 そう言うと美波は刀をスラリと抜いて、敵に向かっていった。

 いくつか斬撃系スキルを放つも、その大きすぎる体の表面に傷を付けただけだった。

 グラトニードラゴンの丸太の様なしっぽ攻撃を食らって慌てて退避する。


「いくらなんでもあのデカブツ相手じゃ物理攻撃は通用しないっての! さっさと逃げるぞ」

「やっぱり通常攻撃は効かないか。それじゃとっておきを見せてやる」



 美波は俺の話も聞かずに、刀を真横に掲げる。

 左手を刀の峰に添え、何やら気を送り始めた。

 すると、妖刀は赤黒い刀身から禍々しい光を放つ。


 光を纏った刀を両手で握り、八相の構えに変わる。

 上を向いた刀身から、不気味な亡霊の顔がいくつも浮かび上がって見えた。


「剣能開放。荒れ狂えムネマサ。『赫血霊光閃』!」


 剣撃一閃。

 刀を振り下ろすと、目も眩むほどの目映い赫い光が敵を襲った。

 刀から巨大なレーザービームがグラトニードラゴンに浴びせられる。

 

 咆哮を上げ、必死に耐えるも、グラトニードラゴンの身体は赫い光に包まれ、消失していく。

 見ると光の中に小さな亡者の顔がいくつも浮かび上がっていた。


 やがて剣先から光が途絶えると、その場には何も残らなかった。

 グラトニードラゴンの巨体は、素材と魔石を残して消え去っていた。




「とんでもないスキルだな。そんな技初めて見たぞ」

「このムネマサは生き血を吸うと力が蓄えられていく。一杯まで溜まると今の『赫血霊光閃』が使える様になる」


 見るとムネマサの刀身は赤黒さを失い、元の日本刀本来の刃紋へと戻っていた。


「なるほど。チャージが溜まった時だけ使える技なんだな。しかしおぞましい技だ。亡者の顔が沢山見えたぞ」

「おそらく死んでった魔物の怨念じゃないか。どうでもいいけど」

「そこはどうでもいいのかよ。俺だったらそんな刀怖くて使えんな」

「実用性が大切だ。他は些末な事だよ」



 どうやら美波の奴はこの妖刀が気に入ったらしい。

 確かに今までの安物の刀とは比較にならないほど強いし『赫血霊光閃』というとっておきの裏技まである。

 俺としてはかなり不気味だが、本人が良いと言うなら構わんだろう。


 また一つ大きな武器が手に入ったようだ。






 後日、モヒカンの店『ワイルド鍛冶屋本舗』にて。

 モヒカンが美波に妖刀の具合を確かめていた。


「どうだい嬢ちゃん。ムネマサの調子は」

「悪くない。だが、時折言うことを聞かなくて困っている」

「言うことを聞かない? それはどういう事だい」

「今までなら一回切れば確実に倒せたであろう相手も、ムネマサがやる気を出さないせいで仕留めきれない事が増えた」

「それは本当か!? すまねえ事をしたな。俺が妖刀なんて作ってしまったばかりによ」

「おかげで生傷が絶えない」

「も、申し訳無え」

「【にゃんにゃん♥パーカー】もボロボロになってしまった」

「そ、そうか。それなら新しい防具を新調するよ。なに、お代はいらねえさ」

「頼む」

「うちの店にある、なるたけ良い素材で作るからよ。ちょっと待っててくんな!」


 モヒカンがカウンターの奥に素材を見繕いに行った。

 俺は思わず美波にツッコミを入れる。


「ムネマサは完璧に扱えるようになったんじゃないのか?」 

「さて、どうかな」


 美波は悪そうな顔でニヤリと笑った。

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