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第65話 偶然か必然か。『妖刀ムネマサ』の完成

 俺と美波は、モヒカンの店である『ワイルド鍛冶屋本舗』を訪れていた。


 先日萌仁香を連れて探索に行き『荒武者の玉鋼』を手に入れていた。

 この素材を使用して美波の刀を新調する事になったのだ。


 モヒカンはカウンター越しに虫眼鏡で素材の鑑定を始めた。



「ほ~う。これが『荒武者の玉鋼』か。俺も生で見るのは初めてだ。資料で読んだ通り赤っぽい銀色だな」

「そんなに貴重な素材なんだな」

「『荒武者・剛鬼』は極めてエンカウント率が低いからな。美波の嬢ちゃんだけじゃなくて萌仁香ちゃんも遭遇しただなんて奇跡みたいなもんだぜ」

「なにかエンカウントの為の特別な条件でもあったのかな」

「噂によれば殺気を消してじーっとしてると現れるってよ」


 モヒカンの話を聞いて美波が思い当たる節があったらしい。


「そう言えばあの時、ぼーっとしてたらいきなり『荒武者・剛鬼』が現れたな」

「ダンジョンでぼーっとしてんじゃないよ」

「無論注意は怠ってないぞ。もしかしたら萌仁香の奴も同じ様にぼーっとしてしてたんじゃないかと予想する」

「あの萌仁香が? ずっと気を張っている様なタイプだと思うけどな」

「案外隙を見せる時あるぞ。殺るなら上手く狙え」

「自分の友達を殺すように仕向けるな」

 


 

 モヒカンに頼んで早速、美波の刀を新調してもらう事にした。

 素材は指定されていた『荒武者の玉鋼』『赤銅巨人の真核』『殺人機械の黒鉄』『幻霊の魂魄』を使用するとの事。

 モヒカンから「完成までに一週間ほどかかるから、来週また来てくれと」言われたため一度辞去する事にした。



 なお、刀の素材こそ美波が集めたが鍛冶代は俺が支払う事になった。

 メイに【SR】英霊のスキルカードをプレゼントした事を聞きつけ、自分にも誕生日プレゼントを贈るよう要求してきたのだ。


「おい聞いたぞ只野。メイの誕生日に凄いものをプレゼントしたんだってな。これは私の誕生日も期待しちゃってもいいよな。まさかメイにだけ特別扱いはしないよな。え、何が欲しいって? うーん。そうだな。それじゃ新しい刀でも作ってもらおうか。ニヤニヤ」


 ……なんて事を言われてしまったので渋々、こいつの刀新調計画に付き合う事になったのだ。

 ちなみに美波の誕生日は3月末なので、数ヶ月先である。



 こいつには、普段から『販売不可』のスキルカードを無償であげたりしている。

 『販売不可』カードなので値段は付けられないが、その総額は数十万どころか数百万円になるのではないだろうか。

 言うなればめちゃめちゃ貢いでやってるのだ。

 

 それでもまだ新しい刀を作るから協力しろっていうのか。

 とんだ小悪魔だな。


 まあ美波には戦闘面ではいつも助けられている。

 大切な前衛なので武器を強化してやれば探索も楽になるだろう。






 翌週。

 メッセージが届き、刀が完成した旨を告げられたため再度店舗を訪れた。

 モヒカンは目にくまを作り、くたびれた表情で現れた。


「おいどうしたんだよ? 随分疲れた顔しているじゃないか」

「ああ。一晩中刀を叩いて鍛錬していたんだ。おかげで完璧な逸品に仕上がったぜ」

「それはご苦労だったな。美波、ちゃんと御礼を言えよ」

「恩に着るモヒカン。グッジョブ」


 モヒカンはふらふらになりながら「いいって事よ。これが俺の仕事さ」と応えた。

 

 出来上がった刀を俺たちの前に見せてくれた。

 鞘は鮮やかな赤橙色に塗装されていた。

 モヒカンは赤い柄を握り、鞘から抜いて刀身を見せてくれた。


「長さは三尺三寸。刀身は反りが浅く、鎬高く、肉付きが薄い。この手の鎬高の刀はよく切れるのが特徴だ。波紋は千鳥が群れ飛ぶかのようで実に美しい。名付けて『妖刀ムネマサ』だ」

「確かに美しい刀だなぁ。じっと見つめているとまるで吸い寄せられるかのような魅力を感じる。これが妖刀ムネマサか……って妖刀!?」

「すまん。美波の嬢ちゃん! なんでか知らんが妖刀が出来上がっちまったんだ!」


 モヒカンは美波に向かって頭を下げ、パンと両手を合わせた。

 

「なぜ妖刀になったんだ。きちんと指示された素材を集めたんだぞ」

「ああ。このレシピなら本来であれば『赫刀・宗正むねまさ』が出来上がるはずだったんだが、不思議な事に別物になっちまった。ちゃんとした素材を集めても極稀にイレギュラーが起こってしまう事があるんだ」

「それがたまたま今回だったって事か。笑えんな」

「ほ、本当にすまなかった。この通り!」

「誠意は謝罪ではなく私の実益になるもので示してもらおうか」


 どこのヤクザだよ。

 誰にだって間違いはある。

 なんだかモヒカンが可愛そうになってきた。


「おい。美波。大人をあまり責めるんじゃないよ」

「こちらは指定された金と素材を用意したんだから正当な対価を求めるのは当然だ。事と次第によっては用意した物は弁償してもらわなくちゃな」


 金を用意したのは俺だけどな。

 美波の言葉を受け、モヒカンは刀を美波に差し出した。


「確かに嬢ちゃんの言う通りだ。だが一度この『妖刀ムネマサ』を試してみてくれんか? 本来作る予定だった『赫刀・宗正むねまさ』も素晴らしい刀だが、この妖刀は宗正の数倍の切れ味なんだ」

「なんだと。それは本当か」

「ああ。試し切りしてみたら驚いたぜ。丸太が豆腐みたいにスパッと切れちまったんだからな。俺みたいな埴猪口へなちょこでさえこれだけ切れるんだ。一流の剣士である嬢ちゃんが使ったらとんでもない戦力になるだろうぜ。こんな逸品はうちで販売している刀の中にも存在しない。値段を付けるなら一千万は下らないだろう」


 その言葉を聞き、美波はモヒカンから赤い妖刀を受け取った。

 柄を握り鞘から刀を引き抜くと、刀全体をまじまじと確認し始めた。


「持っただけで分かる。これは普通の刀じゃない。これは……私の身を守りもするし滅ぼしもする」


 確かに美波が妖刀を握っている様子は、今までの安物の刀を使っていた時と雰囲気が違って見えた。

 剣呑というか殺伐としているというか、美波まで剥き身の刀の様な尖った雰囲気を纏い始めていた。



「本来であればこちらの不手際だし、代金は弁償してもう一度作り直すところだが、正直この『妖刀ムネマサ』以上の刀は俺には作れないかもしれねえ。どうだい? 試しにこの刀を使用してみて、気に入らなかったら別の刀を作るってのはさ。その方が嬢ちゃんのためになるかと思うんだ」

「ふむ。分かった。ちょっと試し切りしてくるわ」


 基本的に善人であるモヒカンがそう言うのなら、その言葉を信じてみても良いと思う。


 美波は帰り際「気に入らなかったらこの店で一番良い刀と交換して貰うからな」と冗談とも本気ともつかない言葉を残して店を去った。 





 そして俺たちは近場のダンジョンにて妖刀の試し切りを行う事にした。

 助手席の美波はギュッと大切そうに刀を握りしめている。

 その瞳になにやら怪しい赤い煌めきを感じたのは気の所為だろうか――。

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