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第64話 萌仁香の平凡な探索士デイズ・後編

 美波と別れて、ボクは44層をソロで探索し始めたじぇ。



 間合いも長く、攻撃範囲も広い槍使いのボクとしてはやっぱり一人の方がやりやすいじぇな。 

 44層ともなると魔物もかなり強くなるので、無闇に接敵しないのがコツだじぇ。


 ボクはパッシブスキル『敵群探知』を保有してるから、レーダーの様に敵の位置が掴めているじぇ。

 美波みたいに直感で敵の気配を探るだなんて、野蛮人のする事だじぇな。


 道中ではやむを得ない場合のみ戦闘するじぇ。

 美波はともかく只野は雑魚だから、襲われない様に魔物を狩っておいてやるじぇ。

 うーん。ボクって博愛精神に満ちた素晴らしい美少女だじぇなぁ。



「キラービー・スピアだじぇ!」


 3メートルくらいある巨体の一つ目サイクロプスの顔面目掛けて刺突攻撃を放つ。

 弱点の目玉に鋭い一撃が突き刺さり、サイクロプスはあっさり絶命したじぇ。


「歯ごたえがないじぇ。もう40層レベルは余裕だじぇな。圧倒的成長っぷりに自分で自分が怖ろしいじぇ」


 Aクラスを目指すには<踏破実績>として50層以下のダンジョンに潜って記念のスタンプを10個集めなければならないじぇ。

 ソロじゃなくパーティーで挑んでもOKだが、ボクくらいになるとソロでも踏破出来そうだじぇ。


「そう、ボクは一人でもやっていけるじぇ。……あの時みたいな思いをするくらいなら一人の方がずっとマシだじぇ」


 その時、過去のトラウマがプレイバックしたじぇ。

 慌てて振り払おうとするが、脳内劇場に流れる映像を停めることが出来なかったじぇ。

 ボクはそのまま過去の記憶に飲み込まれていったじぇ――。







 あれは中学2年生の頃だじぇ。

 ボクは薙刀なぎなた部に所属し全国大会で優勝するなど、天才美少女としてもてはやされていたじぇ。

 この頃のボクは服装も普通で、髪も黒い量産型の中学生女子ってところだったじぇ。

 今と変わらないのはこの性格としゃべり方だじぇな。

 振り返れば、この性格としゃべり方が諸悪の根源だったかもしれん。



 あの日、ボクは薙刀部の友人5人と共に近所のダンジョンに度胸試しに向かったんだじぇ。

 初めて見るダンジョンの内側は、洞窟みたいでテンションが上がったじぇ。

 まるでゲームの中の勇者にでもなった気分だったじぇな。


 スライムを踏んづけたり、ゴブリンを取り囲んで薙刀で殴ったりと、ボクらは危険な遊びに夢中になったじぇ。

 調子に乗って3層まで下りてしまった時、事件が起きたじぇ。


 突如通路の脇からホブゴブリンが現れ、こちらに襲いかかってきたじぇ。

 敵までの距離が近く、走って逃げてもすぐに追いつかれてしまったじぇ。

 その時、ボクの背中をドンと押した女がいたじぇ。


 その女は……ボクから団体戦のレギュラーの座を奪われた薙刀部のリサ先輩だった。


 ボクは転倒して、ホブゴブリンの目の前に差し出されたじぇ。

 緑色の化け物は舌舐めずりをしてこちらに向かってきた。

 そのままなす術もなく棍棒の餌食にされてしまうところだったじぇ。


 その時、ボクの中に叛逆の精神が目覚めるのを感じたじぇ。

 このままあいつらの身代わりに殺されてしまったらボクはただの人身御供だじぇ。

 ボクは誰かの犠牲になんてならない。自分の人生を自分だけで歩いていく。


 気が付くと、ボクは血まみれの薙刀を持って立っていたじぇ。

 うめき声を上げて蹲るホブゴブリンの頭を思い切りぶっ叩くと、緑の怪物は魔石を残して消失していったじぇ。 




 翌日、ボクは学校に着いて朝練に向かうと、稽古場でとんでもない話を聞いてしまったじぇ。

 その声は昨日ボクを突き飛ばしたリサ先輩の声だったじぇ。


「ねえねえ。今浪が行方不明になったって聞いた?」

「えー嘘でしょ? そんな話知らないよ」

「ダンジョンの中で失踪したらしいよ。許可もないのにダンジョンに行くだなんて最低ね」

「度胸試しのつもりだったのかな。今浪さん国内に敵なしだったし」

「だから魔物相手に腕を試そうとしたのかもね。まあ自業自得だよね。最近調子に乗ってたし。ちょっと強いからって舐めた口聞いてんじゃねえぞ。ったく。あのだせえしゃべり方にも段々腹が立ってたしさ。ゴブリンに犯されて死ねっての」

「ちょ、ちょっとリサ……」


 ボクは薙刀を持ってリサ先輩の前に現れたじぇ。

 ただただ、じっと彼女を見据えてやったじぇ。

 薙刀を握る腕に力を込めると、リサ先輩はビクッと体を震わせ小便を漏らし涙を流し始めたじぇ。


「ごめんなさいごめんなさいそんなつもりじゃなかったのごめんなさいごめんなさいお願い許してごめんなさいごめんなさい」


 今思えば命乞いだったんだじぇな。

 この女は手を擦り合わせて譫言うわごとを繰り返した。


 そのあまりの情けなさに一気に気持ちが冷めていくのを感じたじぇ。

 この時ボクは人間の醜さに絶望したのかもしれないじぇ。

 最後まで必死に歯向かってくる魔物の方がまだ美しいじぇな。



 ボクは薙刀部を辞め、探索士資格が取れるまで一人でモグリの探索士を始めた。

 髪の毛を染め、好きな服を着るようになり、自由に生きる事にしたじぇ。

 

 そうボクは一人。

 ボクに真の仲間なんて必要ないんだじぇ。






 回顧が終わり、ぼーっとした頭を振る。

 すると目の前に突然、ドクロが現れたじぇ。


 いや、正しくは古ぼけた兜や甲冑を着た骸骨だじぇ。

 負け戦でボロボロになった具足を付けた落ち武者みたいだったじぇ。

 

「まさか、こいつが『荒武者・剛鬼』だじぇか!?」


 ひ弱そうな見た目がなんとも名前負けしている。

 『荒武者・剛鬼』は戦闘準備の整わないボクに向かって斬りかかったてきた。


「くっ!! 疾いじぇ!」


 『緊急回避』が発動してなんとか避けられたが、お気に入りの革鎧が切られ、左腕に傷がついた。

 具足はボロだが、刀はかなりの業物らしいじぇ。


 ボクは槍を下段で構え、敵の突進に備えた。

 槍や薙刀は剣の三倍強いとは言われてるが、実際は間合いに入られると長物は不利だじぇ。


 そんなボクの魂胆を知ってか知らずか『荒武者・剛鬼』は一気に距離を詰めてきたじぇ。

 カウンター気味に槍の先端を敵に合わせる。

 ところが、ボクの槍は骸骨野郎の刀に払われ、身体が横に流されてしまったじぇ。


「しまった! や、やばいじぇ」


 好機と見て一気に踏み込んだ『荒武者・剛鬼』は、横薙ぎの斬撃を放つ。

 ボクは槍を地面に突き刺して、棒高跳びの要領で飛び上がり回避したじぇ。


「こいつ強いじぇ! まるで剣豪を相手にしているかのようだじぇ」


 この手の強者には受けに回ってはやられる。こちらから攻めて攻めて攻めまくるじぇ。


「はぁ~! 『流星槍』!」


 空中に向かって槍を乱れ突きすると、星屑を纏った刺突攻撃が敵に向かって飛んでいく。ボクのとっておきの【SR】奥義だじぇ。



 『荒武者・剛鬼』は両手で腕を交差させ、必死に飛んでくる星屑から身を守る。

 敵の具足が更にボロボロになっていくじぇ。


「まだまだぁ! 『螺旋槍』!」

 

 ボクは槍を持ったまま、バレリーナの様にその場で回転していく。すると中心から旋風が起こり、その旋風を徐々に槍へと移していく。

 槍に纏った旋風を敵に向けて繰り出てやったじぇ。


 激しい暴風が『荒武者・剛鬼』の体を巻き上げていく。

 まるで風に飛ばされるゴミのようだじぇ!

 そのまま洗濯機の洗い物の様にぐるぐる回り、地面へと叩きつけられたじぇ。


 よろよろと千鳥足で起き上がろうとする骨野郎に、ボクは冷静に槍を突き刺してやったじぇ。

 すると、『荒武者・剛鬼』は光を放って消失していったじぇ。

 足元に紫色の魔石とドロップアイテム『荒武者の玉鋼』を残して。


 『荒武者の玉鋼』はくしゃくしゃに丸めたアルミホイルの様にボコボコした鉱石だったじぇ。

 色合いは赤みがかった銀ってところだじぇか。


 勝負はボクの勝ちみたいだじぇな。

 ウププププ。美波の悔しそうな顔が目に浮かぶじぇ。







 タイムオーバーとなったので、美波と合流する。 

 待ち合わせ場所の階段の前にはすでに美波と只野が待っていたじぇ。

 

 珍しくご機嫌で手を振る美波の手を見ると、なんと『荒武者の玉鋼』が握られていた。


「なんでお前がそれを持っているんだじぇ!?」

「あの骸骨野郎をぶっ倒したからに決まっている。そういう貴様こそよく倒せたな」


 どうやら美波も『荒武者・剛鬼』とエンカウントする事に成功したらしいじぇ。


「ちょ、ちょっと待て。この場合勝負の勝ち負けはどうなるじぇ?」

「私の勝ちに決まっている。先に着いて待ってたんだからな」

「ふざけるな! ボクはお前よりもっと早くゲットしたじぇ」

「嘘をつくな。脳みそにまで脂肪に覆われたのか」

「嘘じゃないじぇ! お前こそ何時何分何十秒にそのアイテムを入手したのか言ってみろだじぇ!」

「知らん。少なくともお前より速い時間であることは確かだ」


 ボクと美波の争いを黙って聞いていた只野は「どっちでもいいから早く帰ろうぜ」と呆れていた。





 結局この日の勝負はドローに終わったじぇ。

 美波は目当てのアイテムを入手出来て嬉しそうだったじぇ。


 僕の手元に残った『荒武者の玉鋼』を使用して、今度モヒカンに槍を新調してもらおうかと思うじぇ。

 あの美波と一緒の素材ってのは癪だけどな!

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