第62話 苦闘の末、遂にアクセサリー完成。
翌日、また3人で『鷺沼ダンジョン』を訪れた。
『インフィニティパワーストーン』はここの46層を歩いていると偶に落ちてるらしい。
実はこの石、図鑑で見た時にすごく嫌な予感がした。
その予感は実際にダンジョンを訪れ、的中していた事が判明する。
この鷺沼ダンジョンの地面はオレンジがかった土色をしている。
そしてインフィニティパワーストーンも同じ様な色の石だった。
そこら中の地面に同じ様な石が沢山あり、拾ってみるとただの石ころだった。
石ころとの違いがあるとすれば、インフィニティパワーストーンは非常に軽く、叩くと硬質な音がするとの事。
なので実際に拾ってみて確かめるしか見分ける手段がなかった。
46層に辿り着いてからすでに一時間。
俺たちは負けた高校球児が甲子園の砂をかき集めるかの様に、地面にしゃがみ込み石を拾った。
今のところその全てがなんの変哲もない石ころである。
美波が腰をトントンと叩きながら顔をしかめる。
「こんな不毛な潮干狩りいつまでやらせる気だ」
「すまん。まさかこんなに見分けるのが大変だとは思わなかったんだ」
「インフィニティなんちゃらストーンはそこらの素材屋に売ってないのか」
「かなりのレア物らしく全然売ってないんだ。ネットオークションでも出品されてなかった」
美波が大げさに溜め息をつく。
見張りをアツモリに頼み、メイも一緒に探してくれていた。
「だ、大丈夫ですよ。きっと今に見つかりますよ!」
「ありがとう。メイもすまんな。こんな肉体労働をさせるつもりはなかったんだ」
「いいんです! 私こういう作業実は好きなんですよ。子供の頃は砂場で遊んだり庭で土いじりとかよくしてました」
「へえ。それは意外だな。メイはあまり外で遊ぶイメージがなかったよ」
俺の言葉に美波が皮肉を挟む。
「なるほど。私には肉体労働をさせても良いってことか」
「そんな事一言も言ってないだろ」
「私には労いの言葉もないもんな」
「はいはい。とても感謝してますよ。ありがとうございます美波様」
「ふん。白々しい嘘を並べやがって」
「なんだよ。えらくご機嫌ななめじゃないか。一体なんだってんだよ」
「自分の胸に手を当てて聞いてみろ」
なぜか不機嫌な美波を宥めつつ、パワーストーン探しを続ける事2時間。
さすがに二人に申し訳なくなってきた。
「二人は休んでてくれ。これ以上俺の目的のために二人に苦労を強いるわけにいかない」
「私は大丈夫ですよ。パッシブで身体も強化してますから疲労もそんなに感じてません」
「私も休憩は必要ない。ここまで来たら自分の手でブツを見つけ出したい」
二人の好意が有り難かった。
同時に、申し訳なくていたたまれない気持ちにもなる。
これでパワーストーンが見つからなかったら、俺以上にがっかりされそうだ。
その時、見張りのアツモリが「御座るーーっ!」と叫んだ。
どうやら敵襲らしい。
3人とも立ち上がって臨戦態勢を取る。
ところが、敵は一向に姿を現さない。
キョロキョロと周囲を窺っていると、美波が鋭く「下だ!」と叫んだ。
すると地面を突き破って、巨大な蛇の様な物体が現れた。
全長は10メートル以上、胴回りが2メートル以上はある。
顔はなく大きな口だけがぽっかりと空いている。
どうやらミミズの化け物らしい。
「デビルロックワームです! 体当たりと消化液に気を付けてください!」
メイの言葉を聞いてか聞かずか、アツモリが即座に反応し日本刀で斬りかかった。
デビルロックワームは長い胴体をくねらせると、体当たり攻撃を放った。
もろに食らったアツモリが吹き飛ばされて壁に激突する。
「アッちゃん!!」
今の攻撃で体勢を崩したデビルロックワームの背後に周りこみ、美波が斬撃系のスキルを放つ。
「『飛影斬』」
飛来した斬撃が分厚い皮を切り裂き、青白い体液を飛び出す。
好機と見て、美波は斬撃を浴びせまくる。
怒ったデビルロックワームが反撃に転じる前に、美波は15メートルほど距離を取り離脱した。
美波を追ってデビルロックワームは蛇のように体をくねらせ前進する。
背中ががら空きなので、俺はデッドブルで25%ショットを放ってやった。
エネルギー弾が胴体に着弾すると、少し遅れて衝撃が拡がり、胴体に大穴が開いた。
そのまま先端の頭部が千切れ、地面に横たわる。
千切れた頭部がメイの方に向かって、口から消化液を吐き出した。
「『ウォータードーム』!」
白い消化液は水のベールに弾かれて落下し、地面を溶かした。
シュウーッと嫌な匂いの煙を出しながら、固い岩を溶かす。
人間が浴びたら一溜まりもないな。
「『裂空波』」
美波が海面を走るヨットの様な斬撃を放つ。
黄金色の光り輝く斬撃波だ。
裂空波がデビルロックワームの頭部を真っ二つに切断し、敵は消滅した。
「美波ナイスだ。二人共怪我はないか?」
「問題ない。ちょろいもんよ」
「私も大丈夫です! ……ところであのキラキラ光る石はなんでしょう?」
メイの指差す先を見ると、確かにキラキラと光るオレンジ色の石があった。
「ま、まさかあれインフィニティパワーストーンか!?」
拾ってみると、石ころと比較にならないほど軽い。叩くとキィンと硬質な音がした。
「間違いない! やった! 遂に見つけたぞ。でもあれだけ探して見つからなかったのにどうして急に発見出来たんだ?」
「それなんですが、デビルロックワームの消化液を浴びた土が溶け出して凝固し、キラキラと輝き出したんですよ」
「げえ! ……って事はこのインフィニティパワーストーンって土と消化液が合わさった混合物なのか」
通りで見つからないわけだ。
入手方法を知っていればこんなに苦労はしなかっただろう。
美波が「アホらしいったらありゃしない」と愚痴った。
俺たちは押し寄せてくる徒労感を振り払い、地上へと帰還した。
俺は三度目となる「CHIYO’S SHOP」を訪れていた。
必要な素材を渡すと、アクセサリーが完成したら連絡すると言われたので、その日を心待ちにしていた。
店内に入ると俺を待ち構えていたかのように、千代婆さんが正面カウンターに座っていた。
婆さんの前には二つの腕輪が置かれていた。
「これが注文の商品さね。銀色の方が【STチャージ・チタンバングル】だよ。疲労回復効果がある『パーフェクトチタン』をベースに、滋養強壮に良い『赤蝮の抜け殻』と『巨大鼈の甲羅』の成分が腕輪越しに得られるよう設計したんだよ。大切にしておくれ」
「おお! 見た目もシルバーでカッコイイですね」
「それからこのオレンジ色の方が【MPチャージ・マジックバングル】さね。MP自然回復効果がある『インフィニティパワーストーン』をベースに、魔力が上昇する『霊魔術師の宝石』『妖精の魔力結晶』を組み込んだよ。こっちも大切にね」
「完璧です! 千代婆さんに頼んで正解でした。ありがとうございます!」
早速右手首に【STチャージ・チタンバングル】を、左手首に【MPチャージ・マジックバングル】を嵌めてみた。
サイズ感も良い。じんわりとスタミナと魔力が底上げされている気がする。
これでエナジーガンとマジックガンを有効活用出来る。探索が大いに捗る事だろう。
「それで代金はいくらですか?」
「ああ。そうさね。一千万くらいかね」
「はは。またまたご冗談を」
「わたしゃボケてはいるけど冗談は言わないよ」
「ひえ……」
千代婆さんは俺の青ざめた顔を見てニタリと笑った。
その瞳には強い知性の光が宿っていた――。
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